<夢>だった可能性

「あれが私の住んでる街、オトィクだよ」


ティコナは開けた見晴らしのいいところに来て手をかざし、眼下に広がる街を紹介してくれた。


それは、道が規則正しく交互に交差した、ほぼ正方形に近い形の街だった。住宅もびっしりと立ち並んでいるようで、思った以上に大きな街のようだ。


加えて、リセイ達から見て奥に当たる一角は他の部分と違って何やら大きく区画が取られていて、一見すると木々に囲まれた公園のようにも見えたが、かなりの規模の建物が中に見えるので、


『領主みたいな人が住んでるところかな……』


とも思った。


けれど、正直、そんなことはどうでもよかった。


『まだこれだけあるのか……』


リセイが感じたとおり、まだ少なくとも二キロ以上はありそうだった。


『マジか~…』


と、口には出さなかったものの思わず心の中でボやいてしまう。


けれどその時、


「お、ティコナ。今帰りかい?」


背後から声を掛けられる。


「あ、こんにちは、エルヘムさん」


そう言ったティコナの前には、ロバのような動物に牽かれた荷馬車に乗った、白髪の老人が。


「そっちのボウズは見ない顔だが、なんか随分とくたびれた様子だな。よかったら乗ってくかい?」


人のよさそうな<エルヘム>と呼ばれた老人の申し出に、ティコナは、


「はい、お世話になります!」


躊躇うことなく受け入れた。実は彼女もリセイがかなり疲れた様子なのは気になっていたのだ。ティコナ自身は全然平気だったものの、リセイのために『お言葉に甘えた』のだろう。


「リセイ、ここに座って」


荷馬車の後ろには、人が腰かけるのにちょうど良さそうな部分があった。実際そこは、必要とあらば人を乗せることもできる場所だった。


「ありがとうございます」


リセイも疲れた声ながら礼を言って、座らせてもらう。


そうして荷馬車に揺られながら、彼は思った。


『それにしても、<自分の思い通りになる能力>って、なにか制限があるのかな……?』


というのも、歩き疲れたのを自覚した頃に、


『いくら歩いても疲れなくなったらいいのに……』


と何度も思ったにも拘らず、その通りにならなかったからだ。


『危険が迫らないと発動しないとか……?


いやでも、『お金が欲しいと思っただけでお金が手に入る』とも言ってたよなあ……』


そう考えた瞬間、頭に浮かんだ思考。


『もしかして、僕が見てたあれ自体、<夢>だった可能性がある……?


となると、さっきのベルフっていうのが逃げてくれたのは、本当にたまたまだった……?』


そう考えると、急に恐怖が蘇ってきた。もしかしたら<転生特典でもらったチート能力>自体が思い違いだった可能性があると気付いてしまって。でも同時に、


『だとしたらこのティコナってと普通に話せてたのは、こののおかげ……?』


などとも考えながら何気なく彼女を見たら、彼女もリセイのことを見ていて、目が合ってしまった。


「!?」


そのくりくりっとした大きな愛らしい瞳に、彼はまた顔が熱くなるのを感じたのだった。


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