130.熱量の天辺


「いいか? 蒼の古城の一層と二層を攻略したパーティーはだなあ――」


「――ふわあ……」


「ようやく念願の第三層に行けるわけだが、ここがまたえげつなくてなあ。だからその前にセクトにはまだやるべきことがあるってわけよ!」


「……」


 思わず俺の口が眠気を訴えてしまっても、リーダーのベリテスの話は止まる気配がなかった。もう夜の刻も大分過ぎた頃だが、パーティー談義は当分終わりそうにないな……。


 それでも、頭の中ではちゃんと内容が読み取れている。これがSランクの気配察知能力の力だ。多少聞き逃しても、彼の唇の動きだけは記憶しているので何を言ってるのかがわかるんだ。


 リーダーが言うには、蒼の古城第一層と第二層を攻略したパーティーは、次に同じダンジョンが開く三か月後に……すなわち第三層への道が開けるということだ。


 それでもまだ俺たちには難易度が高すぎるから、まず第二層と同レベルの灰の牢獄をクリアできるよう、ダンジョンが開く来年初頭までにガンガン鍛えておけとのこと。その三日後には第三層も開くってことで大忙しになるらしい。


 ちなみに、第三層のアクアエリアっていうのは難関中の難関で、ベリテスが前のパーティー『シャドウズ』で右腕や仲間を失った場所でもあるのだそうだ。リベンジに燃えてるっていうけど、それを聞いただけでも相当にヤバイ場所なのがわかる……。


 バニルたちは途中で寝ちゃって、聞いてるのはとうとう俺だけになってしまった。無理もない。リーダーの熱すぎるダンジョン語りは、彼の違う一面を見たような気がした。


 パーティーブレイカーの件でも、こっちが圧倒されるくらい凄く心配してたからな。一週間前に『ウェイカーズ』とボスを倒して帰還したとき、滅茶苦茶喜ばれて、一日中酒を付き合わされたんだ。


 そういやそのとき、パーティーブレイカーについても話してたっけ。カルバネが新たに作ったパーティーメンバーのいずれかということだが、もう既に全員死んでいて、二度と会うことはないだろうとのこと。犯人は生きてるんじゃないかと疑問に思ったが、それこそがパーティーブレイカーの最大の特徴なのだという。


 教会兵の間で定説なのが、【寄生】という固有能力を所持しているのではないかということ。それで色んな冒険者に乗り移って様々なパーティーを渡り歩いているのではないかということだ。


 これについて現状では特に対策と呼べるものはないらしくて、当分新しいパーティーメンバーは入れないようにすることくらいだそうだ。それでも、メンバーの誰かが乗り移られたらと思うとゾッとする。


 とはいえ希望の光はあるようで、リーダーの話だと王都でそれについて研究していた知人の神父が十日後にはアルテリスの外れにある教会――固有能力付与を行う崖の上にある教会――に戻ってくるらしく、時期が来ればみんなでその神父の元を訪ねる予定だ。


 なんせ、パーティーブレイカーは俺たちも接点のあった相手だから不気味だし、色々聞いておきたいからな。これも自分や仲間を守るためだ。


 ただ、リーダーだけは最高ダンジョンの『最後の塔』を出現させるべく、その準備として王都のダンジョン群攻略に向かうためしばらく帰ってこられないという。確か、全てのダンジョンを攻略すると出てくるとかいう翼のある塔だ。


 俺も見てみたい気もするが、どんどん違う世界に行くようで怖さもある。なんせ神様まで出現するっていうし……。


「――っと、こういうわけだあっ! セクト、どうだ!? ランジョンっていいもんだろ!? 俺と一緒に『最後の塔』の天辺目指そうれっ!」


「……」


 リーダー、テンションが異様に高いし少し舌も縺れてるしで酔っ払ってきたっぽい。部屋中、床が見えないほど酒瓶に溢れているのを見ればわかるが、さすがに飲みすぎだな……。






「――よおしっ……!」


 あれから俺は灰の牢獄の攻略を目指すことにして、その近道として宿舎の倉庫にあったシェイカーを《スキルチェンジ》してたわけだが、ようやく成功した。


 蒼の古城から帰還してから約二週間、毎日夕の刻を丸々潰してまでやったかいがあった。その間、熟練度がCまで上がってもこれだけかかったんだから、どれだけ試行したのやら……。おそらく1万回は優に超えるだろう。


「どれどれ……」


 早速、石板に刻まれたスキルの説明を見ることにする。これだけ苦労したんだし、骨折り損のくたびれ儲けにならないことを祈るばかりだ……。


 派生スキル《融合》Sランク


 熟練度 Fランク


 熟練度がA以上のスキルを二つ融合し、を生み出すことができる。


 おお、こりゃいいな。さすがSランクなだけある。なんせこれがあるおかげで、普段あまり使わないスキルの熟練度も上げてみようって気になるからだ。


 試しに《エアボックス》と《エアケトル》を《融合》してみることにした。


 あれから平和になったこともあり、《エアケトル》の出番は格段に増えて、バニルたちからよくリクエストされてた《エアボックス》とともに熟練度がAまで上がってたんだ。


《融合》の熟練度自体がFなためか、《成否率》では融合確率0.03と出たが、シェイカーに比べれば全然期待を持てる数値だからやる気が落ちることはない。


「――来たっ……」


 689回目の試行で、《融合》に成功した。石板に新たなスキルが刻まれているのがわかる。


 派生スキル《エアバス》Cランク


 熟練度 Fランク


 架空の風呂に入って疲れを癒すことができる。


「……」


 試してみると、程よい熱さの湯が体を包み込む感覚がして、本当に風呂に入ったような気持になれた。説明を見て正直微妙かと思ったが、疲れが一気に取れていく感じがして、《夢椅子》の強化版だからいいかもしれない。しかも、服を着たまま入れるし濡れることもないという便利さだった。


「――わっ、セクト、気持ちいいねこれ……」


「バ、バニル、いつの間に……って、みんないるし……」


「へへっ。私だけこっそり来たつもりでいたけど、みんなもそうだったみたい……」


「……」


「ちょっと、何よこれ。面白いじゃない!」


「ぽっかぽかですねえ……」


「うれしー! たのしー!」


 ルシア、スピカ、ミルウもご満悦の様子。まあ喜んでくれたならいいか。


「……でもでも、なんだか違和感あるう……」


「ん?」


 ミルウが妙なことを言い出した。違和感……?


「そうだっ、裸じゃないからだあ! みーんな《脱衣》で脱がしちゃうもん!」


「なっ……?」


 気が付くと、俺を含めてみんな姿になっているのがわかった。


「お、お、おいいぃぃっ!」


 Sランクの気配察知能力が牙を剥いてきて、勝手に淫靡な光景が広がって鼻血が出そうだ。せめてだけは隠さなくては……。


「あ、セクト、自分だけずるいよ。見せてっ」


「ちょっと、セクト。あんた男の子でしょ! 早く見せなさいよ!」


「うふふっ。セクトさん、見せてください?」


「あふっ! セクトお兄ちゃん、見せてええ!」


「▼□〇×#%っ!?」


 俺は股間を押さえながら逃げ出していた。だ。しかしどれだけ強くなろうと、彼女たちには勝てそうにもない。改めてそう思い知らされたのだった……。

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パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す 名無し @nanasi774

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