第45話 私と魔族の再出発1
助手がつくってくれた料理を食べながら、私は過ごしていた。
「どうです?美味しいですか?」
「ああ、美味しいよ。ありがとう」
「良かった……ホントは、クヨちゃんにも食べて貰いたいんですけど、無理に起こすのも可哀想だなって思いまして……」
「そんなに疲れていたのか?」
「ええ、もうぐったり。体の中の力を全て使い果たしたみたいな状態でしたよ」
「そ、そうか……」
妙に当たっているのが恐ろしい。
「ミズミ博士もお疲れのように見えます。今日はもうお休みになった方が良いのでは?」
「そうする事にするよ。ただ、ちょっと調べたい事があるんだ。休むのは、その後かな」
「そうですか……あっ!すいません。私は用事があるので、家に帰りますね!ミズミ博士、お体には気をつけて下さいね」
「ああ。君も夜道には気をつけて。色々物騒な世の中だからね」
訳の分からない天使に訳の分からない呪いをかけられてしまうような世の中だ。何が起きたっておかしくない。それに夢で彼女の末路(現実では無いにせよ)を見てしまったのだ。あの天使が私に見せた以上、何かを意味しているはずだ。それに、ククスが言っていたドラギノバムの件もある。
***
「うふふっ。それでね、大罪人が逃げてから天界は大慌て!一体誰がやったんだってねぇ、うふふふっ。だけどね、ドサクサに紛れて、もう一人どうやったのかは知らないが、天界から抜け出した者がいるんだよねぇ」
「ま、まさか……」
「うふふふっ。そう、ドラギノバムさ」
「ドラギノバムが……」
「天界から……!?」
***
何の為にドラギノバムがこちらへやって来たのかは分からないが、迷いの森で私はドラギノバムと遭遇しているのだ。ククスが言っていた通り、ドラギノバムは私達と接触しようとしているのかもしれない。全てが憶測であるため、真実は分からないが、助手はクヨと同じく私と大きく関わってしまった人間だ。助手はああ言っていたが、私は心配していた。彼女の身に、何か起こったら私は……!
全てを話すべきでは無いのか?本当に彼女の事を想うのならば。だが、そこまでの勇気が私には無かった。
そのまま助手は研究所を去ってしまった。
私は夕食を終えると、再び例の歴史書がある部屋に向かう。この部屋には例の歴史書の他にも、研究資料が沢山ある。歴史学が専門な為、歴史に関する書物が多いのだが、私が調べたいのは、歴史上における”呪い”の存在だった。人間、魔王軍、天界。天界に関する記述で、呪いに触れている部分な無いだろうか。天界じゃ無くてもいい。ノバーのような、犯罪を犯した者に天使が”罰”を与える。”罰”は”呪い”だ。
「さて……何かあるといいが……」
呪いに関する記述……と。
いくつかの書物を漁りながら、呪いに関する記述を探す。所々呪いを匂わせる記述はあるものの、はっきりとしたモノは中々見つからない。
「……うん?」
しばらくして、私はある記述を発見した。ナグナ王国への反逆罪で捕らえられ、処刑されたゼモバードという探検家の日記の一部分だった。ゼモバードの記した著書の多くは、処分されてしまったらしいが、一部はナグナ王国によって保管されており、現在は私の手に渡っているわけだ。
ゼモバードの日記。ゼモバードがある村に滞在した際に起きた事の記録のようだ。
私はその日記を詳しく読んでみる事にした。ゼモバードの日記には番号が書かれており、いつ日記を記したのかが、分かる様になっている。番号は天候や、時間も示しているようだ。王国が処分してしまったものもあるので、正確な時期は分からないが、手がかりにはなるだろう。
***
村ではある疫病が流行っており、老若男女問わず、次々と村人が亡くなっているらしい。村の医者が疫病にかかり、亡くなってしまったので、付近の王国から医者を派遣して貰ったのだが、未知の病気の為、医者もどうしようもないという。近々原因究明の為、王国から医者団と調査団が派遣されるらしいが、それまで何人死ぬ事やら……と、村人は嘆いていたという。
この疫病にはある大きな特徴があった。疫病にかかった者の体には、小さなアザが出来ているのだ。首元、手首、額、足、人によって様々だが、どの人間にもアザが出来ている事は共通していた。アザの形は、人によって若干異なるものの、天使の翼のような形をしていたので、神からの罰、試練なのでは?と言われていた。ゼモバードは、村の村長になぜ疫病が流行り出したのか尋ねた。
村長は、この疫病は、神からの試練では無い、神からの”罰”だと言った。詳しくは教えてくれなかったが、この村の住民の一人が、神の怒りを買うような、重大な罪を犯してしまったらしい。なので、神は村人全員に罰を与えた。その為、村を訪れた医者や、ゼモバードなどは、疫病に感染しなかった。あくまで、村の住民だけが罰の対象なのだ。ゼモバードは、王国に呼び戻され、一旦村を去る事になった。疫病の件が気になる為、後日派遣される医師団と調査団に同行する事を考えていた。そんな時、再び村に悲劇が訪れる。
最初は疫病、その次は……魔王軍の侵略だった。
この時、魔王軍はまだ密かに活動した時期で、存在がまだ知れ渡っていなかった。
ゼモバードが村を去ってから数日後の事だった。疫病に苦しむ村に、突如魔王軍の大軍が押し寄せた。民家に火を放ち、村人は対抗を試みるも、敵うはずもなく、そのまま村人は惨殺され、誰一人として生き残る事は出来なかった。
ゼモバードが王国の人間と、再び村に行った際待ち受けていたのは、滅ぼされた村の悲惨な光景だった。ゼモバードも王国の人間も、魔王軍の存在を知らなかった為、最初は疫病によるモノかと考えたが、明らかに誰かに殺された跡が残されていた為、何者かが村を襲撃したと考えた。
これが、神による村に対しての最終的な罰なのかは、分からない。だが、ゼモバードは疫病を”呪い”だと考えた。神による”罰”は”呪い”で、村人全員に呪いをかける。徐々に村人は呪いによって、殺されて行く。恐らく魔王軍の襲撃が無くても、村は滅んでいただろうと考えた。本当に神が、呪いが存在するのなら、恐ろしい事だった。我々人間を簡単に……
失われた人々の命が戻ってくる事は無い。彼らの死を無駄にしない為にも、一体なぜ神がこの村の住民に”呪い”を与えたのか、原因を突き止める必要がある。私は誰一人いなくなった村に残り、調査を開始する事にした。
***
ここで、日記は終わっていた。
罰と呪いという面では、私の状況と一致しているが、役立つ情報とはいえないな。村がなぜ罰を受ける事になったかについては、少し気になるが、今はそれどころでは無いのだ。
「ふぅぅ……」
私は日記を元の場所に戻すと、体を楽な体勢にし、体を休める事にする。
「疲れた……な」
ここまではっかりとした疲労感を感じるのは、研究会で無邪気に頑張っていた頃以来だ。まさか、こんな事になるなんてな……人生は分からないものだ。
「そうだ、クヨの……」
私はそのままクヨの部屋へと向かった。
「クヨ……大丈夫か?」
クヨはベッドですやすやと寝ていた。
起こしちゃまずいな、と思い、部屋から出ようとするのだが……
「うん……?ミズミはかせ??」
クヨが眠たそうに返事をしてくれる。起こしてしまったようだ。
「起こしてしまったか、すまない」
「うんん。平気だよ。ふわぁぁぁぁぁぁぁぁ……ちょっと眠たいけど……」
やはり、疲れが溜まっているようだ。
「助手が料理をつくってくれたんだ。食べれるか?」
「うん!食べるっ!」
クヨは元気に答えてくれる。
クヨを動かすのは悪いと思い、私は料理をクヨの部屋まで直接運んだ。
「おいしい!じょしゅの料理は美味しいよ!」
「そうか……良かった。助手も喜ぶよ」
「ミズミはかせは大丈夫?」
「え?あ、ああ。大丈夫だ。どうして?」
「すっごく疲れてる。ミズミはかせ。お腹いたい時みたいな顔してる」
「ははっ。お腹いたい時……か。あの時に比べれば、今なんて……な」
「ミズミはかせも寝たほうがいいよ!クヨはねたらすっきりしたよ!」
「そうだな。私も寝ないといけないな」
「そうだよ!ミズミはかせ!一緒にねよ!」
「い、一緒にか……?」
「うん!クヨがミズミはかせを”いやして”あげるから!」
「せ、そうか……」
クヨの意外な提案に、私は困惑してしまう。どうしたものか……
数百年前に倒された魔王軍の魔族の少女を蘇らせてみた! みずみゆう @mizumi_yu
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