繭の中
雨世界
1 お願い。私をぎゅっと抱きしめて。
繭の中
プロローグ
私は、幸せな繭の中にいる。
本編
お願い。私をぎゅっと抱きしめて。
……不思議と、とっても安心できる場所にいる。
それはあなたの腕の中なのかもしれないし、あるいは、あなたの愛に包まれているからなのかもしれない。
私はそんな場所にいる。
そんな場所にずっといたいって思っていた。
でも、あるとき、それは間違いなんだって気がついた。
それは私が身ごもったとき。
新しい命を、その身に宿したときに、そう思った。
私はそのとき、生きることは孤独なんだって思った。
命はつねに、一人なんだって、そう思ったんだ。
別にね、あなたを愛していないとか、私のお腹の中にいる、この子のことを愛していないとか、そういうことじゃないの。
むしろ私は、あなたのことを世界で一番愛しているし、この子のことも、あなたと同じくらいに、世界で一番、愛している。
でもね、そういうことじゃなくてね、誰かに愛されていても、誰かを愛していたとしても、それでも、命はつねに孤独なんだってそう思うようになったんだ。
誰かとつながり、誰かに包まれていても、命は生まれた以上、一人なんだって、そう思ったの。
一人で生きていかなくてはいけない。
それができるように、強くならなくてはいけないんだって、そう思ったんだ。
……それは、間違い、なのかな?
甘えてもいいと思う。
一人じゃなくて、二人で、もっとたくさんの人たちに囲まれて生きていいってもいいとは思うんだよ。(家族を愛して、友人を大切にして、生きていく。それはとても大切なことで、それはとても素敵なことだよね?)
でもね、それでも人は一人なの。
それでも命は、孤独なんだってそう思うんだ。
それでも生きていけるようにならなくちゃいけない。
愛は、そのために必要なものなんだって、思うようになったの。
なんだか、うまく言えないけれど、そう思うようになったんだ。
守られてばかりいてはだめ。
安心できる場所に、ずっと止まっていてはだめなんだって、そう思うようになったの。
命がある、ってそういうことなんだって、思ったの。
安心できる場所から、出て行く。旅立っていく。それが命の誕生なんだって、そう思うようになったんだ。
私は生まれてくるこの子に幸せになってほしい。強い子になってほしいと思っている。
そのためには安心できる繭の中から抜け出して、この子は蝶にならなくてはいけないんだって、そう思っているんだ。
私は今、あなたの愛の中にいる。
あなたの愛に包まれている。
でも、欲張りな私は、そんなあなたの愛の中から、外に出ていきたいと思っている。
危険な場所に。
もしかしたら、私が消えて無くなってしまうかもしれないような、そんな危ない場所に、出ていきたいって思ってる。
それは私が生きているから。
私が一つの生きようとする意思を持つ命だから、そう思うんだと、思うんだ。
難しいけど、そう思うの。
だから、……ばいばい。
私はあなたに出会えて本当に幸せでした。
私はあなたとの間に、新しい命(この子のことだよ)を与えてもらって、本当に神様に感謝をしています。
私は今も、あなたのことを愛しています。
でも、もうさよならです。
さよなら。
ばいばい。
……私がいなくなっても、あなたは、これからも、幸せになれるように生きていってください。
ばいばい。
……ばいばい。私の安心できる、世界で唯一の居場所。私は、あなたのことが、本当に、本当に大好きでした。
繭の中 終わり
繭の中 雨世界 @amesekai
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