第25話なに当たり前の事を言ってんだコイツ


 あぁ、やはり俗世に染まっていないシャルロッテ様には癒される。

 しかし、シャルロッテ様の妄想がやけに細部まで表現されていた事に少しなが気になる。

 もしかしてこの様な妄想を毎日しているのではないか?

 そう思うと少し微笑ましくも思う。


 シャルロッテ様も年頃の女性という事であろう。

 因みに俺の年頃はというと治療方法が無く自然治癒を待つ事しか無い病、中ニ病にかかっていたのでそれと比べると実に女の子らしい妄想でついつい和んでしまう。


「ただ今帰ったぞっ愛しの我が旦那様っ!! そして道中で野ウサギがいたので捕獲して来たぞっ!!」


 そんな和やかな気分に浸っているとウールが「バビュンッ!!」という効果音と共に返って来た。

 当然和やかな気分などバビュンッ!! という効果音と共に何処かへと吹き飛んでいったが、このウールの行動原理が俺の為に行動しているという事を思えばたかだか和みを吹き飛ばされたくらいではなかなか叱るに叱れない。

 まあ発情期とやらも薬をちゃんと飲んでさえいれば三日過ぎれば収まるらしいので後二日の辛抱と思えば………後二日もあるとか考えると今から気が滅入りそうである。


「ほう、野ウサギなら問題ないだろう。わざわざありがとうな」


 しかしながらそこ発情しても帝国近衛兵(脳筋兵)一番隊隊長である。

 五回目にしてやっとまともそうな獲物を取って来たみたいである。


「はぅあぁっ!! 駄犬と言われた時もヤバかったが褒められるとその比じゃないくらい嬉しすぎるぅっ!! 地竜と迷ったが野ウサギにして良かったぁっ!!」

「そうだな、その判断は間違っていないぞ」

「野ウサギ100匹っ!!」

「………は?」


「野ウサギを百匹捕獲して来たぞっ!!」

「そんなにいるわけねぇだろっ!! 加減を考えろ加減をっ! アホかっ!? アホなのかっ!? 脳筋にも程があるだろこの駄犬っ!! 今日の料理係の人に今日いる分だけ聞いた後残りは逃がして来なさいっ!」


 いやほんと、一瞬だけでも喜んだ俺が馬鹿だった。

 百匹ってなんだよ。そもそもこの短時間で百匹見つけて捕まえるのもどうやったか理解出来ないほどである。


「まさか、世界の理さえも……」

「どうしたのですか? ディア」

「いや、何も無い」

「それなら良いのですが……もし馬車酔いなどで気分が悪いとかでしたらおっしゃって下さいね」

「わざわざ心配してくれてありがとう。しかしまあそんなに心配しなくても大丈夫だから」


 少し、そうほんの少しだけ中二病が出てしまっただけである。

 その為、そんな心配げな表情をされると申し訳なさと羞恥心に苛まされてしまう。

 もし仮に本当の姿でこの馬車の旅に出ていたとすれば、とても繊細な身体であった為この様な硬い椅子に加えてスプリングなど衝撃を吸収する様なギミックが施されていない為間違いなく穴あきクッションが必要になった事であろう。


 因みにウールの捕まえて来たウサギは結局その夜に美味しく頂いたのでそれはそれで頭を撫でながら褒めてやると強引にウールのテントに連れていかれそうになった。





「行ってしまわれましたね。このままあの魔族達を野放しにしていて大丈夫なのでしょうか?ディアとか言う男性は言うまでもなく、瓶に入っていた女性魔族も又底が見えない強さを感じました。恐らく帝国魔術師トップである第一魔術部隊隊長であるマルコ・フルーレ様ですら勝てるかどうか………」


 彼らが去っていった先を見つめ、最も信頼する側近、イルガ・ゴル・ルーズが不安げな表情を浮かべながら問うてくる。

 それは彼だけでなくメイド達や近衛兵達、そしてあの場にいた貴族や帝国省に勤める者達も又不安げな表情をしている者を多く見受けられる。


「それもそうだが、あのシャルロッテという娘はあの瓶に入った魔族を瓶の中へと封印した張本人であると言うではないか。あれ程の者達と敵対するよりも良き隣人として迎え入れた方が将来的に帝国の糧となるやも知れぬ。それに………恐らくディア殿は帝国程度ならば簡単に落とす事が出来るのであろう。我々には元より選択権など無ったのだ」


 そう、あの時シャルロッテ嬢やディア殿の周辺の者へ危害を加え無ければ何もしないと言った時のディア殿の表情には恐怖など微塵も感じ取る事が出来ず、寧ろディア殿一人で帝国を落とせるのがまるで当たり前であるといった表情をしていた。

 そしてそれはディア殿の、魔族の強さの指標にもなるツノ、目、翼から見ても冗談でもなんでも無いことが伺えてくると言うのもである。

 逆に言えばシャルロッテ嬢などを危険に晒す様な災害や敵国による襲撃、天災級魔獣による襲来などからシャルロッテ嬢守る結果として帝国も救ってくれるという事でもある。

 それに実際会ってみて話が出来ない様な、自分の力に振り回されている様などこぞの瓶に入っている魔族により炙り出された貴族の様な者ではないと分かっただけでも十分な結果と言えよう。


 それに、シャルロッテ嬢の強さの秘訣でもある文字魔術とやらは件のディア殿から教わった魔術だと言う。

 その魔術こそ教えては貰えなかったのだが将来的にシャルロッテ嬢が結婚をし子供が出来たとすればその子供達に一家相伝の魔術として教えられる可能性もなくは無いであろう。

 そしてその子供達を帝国が抱え込めば間接的に帝国があの魔術を手に入れた事になる。

 それに、そしてその子供達の父親があのディア殿であればシャルロッテ嬢が寿命で亡くなったとしても子供達、又その子供達の為に帝国の危機に手を伸ばしてくれる可能性も出てくる。


 心配なのはその頃になると自分は間違いなく生きてはいない為、将来権力に溺れた貴族と我が息子がディア殿の扱いを間違いやしないかといった所であろう。


 そんな未来の不安をしても仕方のない事なのだがその近い未来の事を考えるのも又皇帝の仕事であろう。

 今から我が息子にはディア殿の取り扱いには厳しく教えて行くとしよう。





 皆が寝静まる真夜中、ガサゴソという音と俺の腹の上に女性一人分の重さが伝わって来たら流石にいくら俺でも起きてしまうというものである。


「何をしている? ウール」

「ふむ、おかしな事を言うのだな。子作りに決まっておろうっ!」

「おかしな事を言っているのはお前だ馬鹿野郎っ!! そもそもお前は帝国近衛兵一番隊隊長であり皇帝から俺たちを守護するよう言われたのではないのかっ!?」

「ふむ、だからこうして安全な旅をお届けできる様に周囲の安全を確保するため害獣共の駆除と、それと並行して食料の確保、さらについでにお尋ね者がいないか周辺の監視を行っておるではないか。この私がいる限り安心して旅を楽しんで頂いて貰いたい」


 何これ?俺が悪いみたいに言われているのだが。

 しかしながらどう考えても守護するはずの護衛対象に夜中寝こみを性的な意味で襲うのは前世の知識でもこの世界の知識でもどの角度から見てもウールが間違っていると声を大にして言える。


「では聞くが、例えば護衛兵が夜中護衛対象を性的な意味で襲うのはありなのか?」

「ダメに決まっておろう。そんな奴は他人を守る資格も無ければ兵士を名乗る資格も無い糞野郎ではないか。もしそんな奴が我が一番隊にいたとしたら根性を叩き直したうえで除隊であるわっ」


 なに当たり前の事を言ってんだコイツ?という表情をしながら語るウールを俺は殴り飛ばしそうになるも殴ったら負けであるとぐっと我慢する。


「で、今お前が俺にしようとしている事は何だ?」

「そんなの強いオスを自分の者にする為に既成事実を作りに来たに決まっておろう。わが人狼族は太古の昔からそのようにして子孫を反映してきた歴史があるし私もその考えは正しいと思っている。だから今人狼族の地位があるのだ。メスが強いオスを求めるのは自然の摂理であるし当たり前のことだぞ」


 なに当たり前の事を言ってんだコイツ?と言う表情を視ながら語るウールを俺は殴り飛ばしそうになるも殴ったら負けであるとぐっと我慢する。

 てかコイツが俺に向かって当たり前の事だとぬかしやがった時は俺の中の闇が拳に宿ってしまう寸前であった。


「では、ウールは護衛任務であるにもかかわらず護衛対象を性的な意味で襲い既成事実を作ろうと近衛兵一番隊にあるまじき行為を実行しようとしていたがそれは自然の摂理だから襲って良いと言っていたと皇帝陛下にそのままお伝えして良いのだな?」

「すいません、最近耳が遠くなってきておりましてちょっと………何言っているのかわたくしには分かりかねます」


 コイツ、器用に耳を畳み聞こえないフリをし始めやがった。

 しかもご丁寧に先ほどまでの乱暴な言葉使いではなくちゃんとした言葉使いで。


「よし分かった。ウールは明日の朝食抜きな」

「ちょっとっ!!やっていい事と悪い事があるだろっ!?」

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使い魔を召喚したら魔王様だった様です Crosis@デレバレ6/21連載開始 @crosis7912

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