第24話御乱心
「それはそうですけど………」
『私利私欲に行動しないだけマシだと思うけどねぇ』
「うーん、まぁ………それもそうですね」
皇帝の仕事や立ち振る舞い等下級貴族であるわたくしがいくら考えたところでどうにでもならないであろう。
ならばエルザさんが言ってくれた様に自らの権力を私利私欲に使わないだけでも有り難いのだと納得する事にする。
◆
「あ、危なかった……」
シャルロッテが一人納得しているその時、別室では一人悶えていた人がいた。
「後数秒ディア様が退室するのが遅かったら自我を保つ事が出来なかった……うぅ、ダメだっ!! ディア様を想像するだけでもうっ! 抑える事が出来ないっっ! あぁんっ!私はもうっ私はもうっ!! どうなっちゃても良い気がしてきたぁぁあっ!!」
その者はベッドの上で布団を被りゴロゴロと悶えている事など普段のその者を知る人程想像すら出来なかった。
◆
「………知らない天井ですわ」
『当たり前でしょぉ。おはよう』
人生一度は言ってみたいセリフトップ百には間違いなく入っているであろう言葉をつぶやき、その余韻に一人浸っているとエルザに冷静にツッコまれる。
「全く、エルザは何も分かっていですわ」
『そうかしらぁ?」
「ええそうよ。これを言う事によりその一時だけは物語の主人公やヒロインになった気分に浸れるのよ」
そう良いながら毎日の日課になりつつある、ディアの寝顔を堪能しに行く事にする。
はっきり言ってこの為に早起きをし始めたのである。
あのまま物語の主人公妄想を続けていたらディアの寝顔を見る時間がその分減ってしまう為寧ろエルザには現実に引き戻してくれた事を心の中で感謝する。
『見れば見る程イケメンよねぇ』
「えぇ、ホントに……これだけで絵画のようですわね」
そしてわたくし達は二人でディアが起きるまで寝顔を堪能した後、朝食を食べに行くのであった。
◆
「ん? この部屋に黒髪で長髪の方なんか泊まってない筈ですが………前回の清掃漏れですかね」
シャルロッテ達が宿泊した部屋の清掃に来たメイドが黒く長い髪の毛の抜け毛を発見したのだが深く考える事もせずそのままゴミとして処理すりし、清掃を続ける。
「やっぱりおかしいですね。何でディア様の抜け毛が無いのでしょうか?」
しかし先程の長髪が常に頭の片隅に引っかかってしまい、そのせいで普段であれば気づかない様な事に気付く事が出来た。
そもそも髪の毛は、人間は生きていれば百本前後は抜けてしまうものである。
この部屋の何処にもディア様の抜け毛が無いなんてあり得ないのだ。
「私、感の良い人は嫌い」
その言葉を最後に私は意識をなくした。
◆
危なかった。
さすが帝国城勤めメイドと言うべきか。
まさかたった一本の毛髪から何か違和感を感じ取った事に改めて帝国城勤めメイド達の意識の高さと有能さに気付かされ嬉しいやら嬉しくないやら複雑な気分である。
そういうと私は先ほどまでディア様が寝ていた寝具に頭から突っ込み、そのにまだ残っているディア様の残り香を堪能する。
ああ、その香りだけで私はどうにかなってしまいそうだっ!!まったく、これはもうこのシーツは危険な為他のメイド達の仕事に支障が出ないようこのシーツは私が丁重に預かっておこう。
うむそれが良い。
そして件のメイドだが私の手刀にて首筋に打撃を与えられ今現在夢心地である。
いくら戦闘もできる優秀なメイドだからと言えど近衛兵一番隊隊長である私の手によればこの程度造作もない事である。
むしろいつもハードな仕事内容であるからこそこうして休息を与えて上げているのだ。
実に仲間想いである。
しかしそうはいっても帝国城勤めメイド。
意識が戻るのも早いであろうことが考えられる為早急に私がいた痕跡、特にベットの下等から消し去らなければならない。
そうこれは時間との闘いであり私とディア様の愛の試練でもあるのだ。
燃えない訳が無い。
そしてこんな時ですら私に力を与えてくれるディア様の使用済み歯ブラシはシーツ以上に危険なためこれもまた丁重に私が管理をしなければならないであろう。
そうしている間にも時間は刻々と過ぎ去っていく。
メイドが目覚めてしまう事もそうなのだがこの後急がなければディア様との朝食に遅れてしまう。
それだけは何としてでも避けたいところである。
やはり恋人同士であるならば同じ時間を共有し同じ思い出を作りって行く事に意味があると私は思うのである。
先ほども申したのだが正にこれはディア様………ダーリン……いや、同じ時間を共有するという事はもはや結婚したも同然なのであることからもはや旦那様であると言えよう。
これはその私の旦那様との愛の試練なのである。
◆
今現在俺は皇帝陛下、そして帝国近衛兵一番隊の面々と朝食を取っているところである。
本日の午後にはこの城を出立し魔術学園へと帰路に就くのであるがその道中を護衛するのがこの一番隊の方々である。
そのため長い付き合いになるのであれば親睦を深め少しでも早く仲良くできればという皇帝陛下からのありがたいお言葉である。
普段であれば皇帝陛下と近衛兵が一緒に食事を取るなどという事はありえないのであるがそこは『近衛兵と仲がいい』アピールであり、俺が近衛兵とも仲良くなれば間接的に帝国に敵対するという判断を鈍らせる材料となるからであろう。
表向きは親睦を深める為に同じ席で食事をし、帝国一と名高い近衛兵一番隊を貸し付けるのであろう。
しかしその事はさておき周囲が騒がしいのが気になる。
耳を澄ませば「メイド長が倒れておりましたその理由は今だ分かっておりませんっ」「速報ですっ!! ディア様が使用していたとみられる歯ブラシとシーツが消え去っており現場には一本だけ黒と白のどこか犬のしっぽの様な毛が落ちて………ひいぃっ!!」「それ以上言ったらどうなるか分かるよな?それと私は犬ではなく狼だっ!!」「一番隊隊長ご乱心っ!! 一番隊隊長ご乱心!! 至急応援を願うっ!!」と聞こえてくる。
いや最早後半は耳を澄ます必要もないのだが。
「家臣たちが騒がしくしてすまぬ」
「いえ、にぎやかでいいじゃありませんか。平和である証拠ですよ」
「そう言って貰えるとたすかる。普段は彼女、ウール・ウルスは優秀なのだがな、昨日のディア殿の姿をみて発情してしまったみたいである。彼女は黒狼族なのだが、黒狼族の女性は自分より強い男性にしか発情しないという変わった特性があってな、彼女は一番隊隊長に抜擢されるほど武の才能があっての、今までまともに発情した事が無かったのだが、発情の経験が無かった事が仇になってしまったの。おそらく彼女は自分の感情をコントロールする術を知らない故の行動であるからして……」
「大丈夫です。俺に対して敵対しての行動じゃない事ぐらい見れば分かりますからこの程度じゃ機嫌を損ねたりしませんので」
「ははは………帰路の道中も間違いなくウールがディア殿に気苦労をかけてしまと思う。その事については今から謝っておこう」
「まぁ、無事学園に着けれるのなら何も問題ないので……」
「いや、ほんとすまぬの」
あの腹黒狸オヤジがここまで頭を下げてくるのも驚きだが恩を売れるのならば売れるときに売れるだけ恩を売っておくことにする。
その事を考えれば狼娘の一人や二人など喜んで引き受けようではないか。
などと思っていた時もありました。
「我が愛しの旦那様っ!! 見てくださいっ!! 野兎を捕まえてきましたっ!! とどめは我が愛しの旦那様の為にと生け捕りでございますっ!! ちなみにこの野兎はフェアリーラビットと言う希少種で非常に美味かつその毛皮も美しく近年では乱獲されてあまり見なくなったため見つけるのは非常に困難と言われておりますっ!!」
「ちなみにそのフェアリーラビットとやらは無闇に捕獲して良いものなのか?」
「え? 先程説明した通り昔乱獲により数が激減しているので今や絶滅寸前だからなっ! 帝国により丁重に絶滅危惧種として保護しているから捕縛は勿論、どんな理由であれ殺す事はもってのほか。そんな者は見つけ次第牢獄行きだなっ!!」
衛兵さーんっ!ここに居ますよーっ!!
「そんな物騒な生き物今すぐ元いた場所に逃がして来なさいこの駄犬っ!! こんな所を他の誰かに見られたりしたらどうするつもりなんだよっ! 晴れてこの今この場にいる御一行ごと牢屋行きじゃねぇかよっ!」
「全く、我が旦那様は臆病だなっ!! し、しかし何故か旦那様に駄犬と呼ばれるとなんだかゾクゾクしてくるなっ、こう身体の内側からっ!まぁ、それは今置いとくとして旦那様がそう言うならこのフェアリーラビットは逃がしてやろう。お前も運が良いな。旦那様に感謝するんだぞ。それじゃあ今から逃がして来るが道中新しい獲物を捕縛して来てやるから楽しみにしとくと良いぞ旦那様っ!!」
「あっ!? ちょっと待てっ!!」
「では行って来まぁぁぁぁああああすっ!!」
効果音で表すならば「バビュンッ!!」という音が聞こえて来そうな勢いで俺の制止も聞かずに駆けて行く。
そして間違いなくあの駄犬はまた要らない物を持って来るであろう。
今までのパターンからして間違いなくそう断言出来る。
そう考えると今から既に憂鬱である。
『大変ねぇ、ディア様』
「そう思うなら変わってくれても良いぞ」
『ディア様との子作りで手を打つわよぉ』
本当、エルザの奴は所詮他人事だと思って適当な事を言いやがって。
その気もないのにそんな事を言った所で引っかかるのは所詮は童貞だけであろう。
しかし俺は生憎道程では無いのでその見え透いた誘惑に引っかかったりなどするはずが無い。
「てかそれ、そもそもメリットとデメリットの釣り合いがおかしくないか?」
もし俺が童貞ならばその事にも気付かずに色仕掛けに負けていたであろう。
そもそも子作り云々は置いとくとしてもこの世界での避妊具など信用に値する物かどうかも怪しい時点でそういった行為は余りにも危険過ぎる。
この歳で出来ちゃった結婚、または授かり婚など俺は嫌である。
『出来た嫁さんと可愛い子供達に囲まれる生活が手に入るのよぉ? 寧ろメリットだらけじゃない。シャルロッテもそう思うわよね?』
「そうですわねぇ………ディアとわたくしが夫婦だなんて……ディアとわたくしが夫婦だなんて…子供は三人に白い二階建ての家、犬を一匹…………………………………こっ」
『こ?』
「これはとても幸せな事だと思いますっ!!」
『まぁ、何故か妻役が私からシャルロッテに変わっていた事はぁ、この際置いておくとしてディア様……とても良い条件だと思うのだけれどぉ? それに私は脱いだら凄いのよ?』
良い条件も何もそれは別名人生の墓場と言われる場所では無いのかね?エルザさん。
そもそも元カノのよるトラウマがまだ癒えていないのに彼氏彼女を飛び越えて結婚など最早論外であるといえよう。
「俺は今現在特定の女性を作るつもりがないから論外だな」
『ウールの言う通り臆病者めっ!!』
「はっはっはっ!何とでも言えば良いさっ!!」
人生の墓場に行くくらいならばその程度の悪口など謹んで受けようじゃぁないか。
そもそもエルザはからかっているだけでそもそも俺と結婚したり子供など元から作る気など無いだろう。
童貞であれば騙されたのかもしれないがそんな分かりきった挑発を鵜呑みにする程俺の人生経験は浅く無いと言っておこう。
「ディアとおじいちゃんおばあちゃんになっても仲睦まじく過ごし、子供や孫たちに囲まれて………あぁ、どうしましょうっ!! 妄想が止まらなくなってしまいましたわっ!!」
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