「いろんな意味で王道だな」 by水菜



「おーい、起きろー!起きろってば!って、夢の中で起きろっていうのも変な話か」


『う……うん……はっ!? 君は誰だい? 此処は騎士団の訓練場だ。一般人は許可なく入っては行けないんだが……』


「あ、起きた。おやすみのところ悪いな。勝手にお前の夢の中へお邪魔させてもらってるぜー」


『夢……? それにしては重力も意識もしっかりしているが……何せ自分の意思をこんなにも正確に表せられる夢は初めてだぞ……』


「ま、そこは特別製だとでも思っておいてくれ。あたしは水菜。念のために確認するがあんたは?」


『え、あ、え? 僕はアルスだけど……水菜さんですか? ……。此処は夢なんですよね……? まさか、僕を強くする為に神様が助言を!?』


「……今夜は、現実世界で頑張るお前のために、この夢の世界を利用してあたしがトレーニングをつけてやろうと思ってな。いわゆる、睡眠学習ってやつだ。イメージトレーニングに近い形だが、体は休息させつつ、訓練できるなら願ったりかなったりだろう?」


『睡眠しながら訓練……そうだな。自分はこの前もイメージトレーニングをやって見たんだけど、上手く行かなかったんだ。でも、それを身に付ける事ができれば、どれほど訓練の効率が良くなるか……。分かった。夢の中だから覚えていられるか分からないけど、是非教えてくれ!』


「……あー、冗談のつもりだったんだがな。まあ、本題が終わって時間が余ったら少し付き合ってやるよ。武器を失った時の素手格闘なら教えてやれるからさ」


『おぉ……こんな僕に訓練官が付いてくれるなんて……今まで成長の見込みが無いって誰からも見限られて来たのに。水菜さんは僕のことを認めてくれるんだね。でも夢だからなぁ……きっと覚めたら何もかも忘れているんだ……はぁ……』


「……なんかやりづれえな。ペースを握らせてくれないというか。まあいいや。今夜は、立派な騎士目指して努力し続けるお前を取材しに来たんだよ。最近起こった異変も含めてな」


『取材……! い、異変ってどんな物か分からないけど、答えられる物だけ答えよう。僕だって一端の騎士だ。上からの秘密をホイホイと他人には教えない。むむむ……』


「いや、たかだかインタビューでそんなに構えられてもなぁ。とりあえず、あんたはどこぞの王国の騎士で、熱意の割に実力が伴わなかったがゆえに、最弱の騎士と呼ばれてたんだよな?」


『僕はセレクリッド王国出身で騎士団所属の二等兵だ! え……あぁ、うん……僕は最弱の騎士だ……です。もっと……もっと強くならなくちゃいけないのに、何も成長出来なかったんだ。それでも僕は今でも諦めるつもりは無いけど……』


「てことは、当然階級も一番下だったわけだ。最下級の騎士っつーと、ほぼ毎日訓練漬けか?見回りや警備、実戦の機会とかもあったりすんのか?」


『いや特に……二等兵なんかに警備とか任せる訳には行かないんでしょう。実戦なんてそれも兵士に死ねって言っているようなものかと。うん。毎日訓練だ。月に一回模擬戦っていう昇級する為の試験兼腕試しがあるんだけど、毎日訓練をしている人なんて僕以外見た事が無い。みんな自分の強さには自信があるんだろう。僕には……僕はその自身と確かな力を付ける為に訓練をしているんだが……』


「へぇ、模擬戦とかもあんのか。それ、騎士じゃなくても出れたりするのか?もしそうなら、あたしも出場して何人抜きできるのか腕試ししてみてえんだが」


『いやいやいや、闘技場じゃあないんだから。てか水菜も戦えるのか? 女の人も戦えるなんて……そんな人もいるんだな……いつか僕も女の人相手に戦う時が来るのだろうか……むむむ。いくらあっちが殺意があったとしても斬る気にはならないな……』


「やっぱだめか。自分で言うのもなんだが、実力は申し分ねえと思うんだよな。素手で石柱くらいなら破壊できるし」


『素手で石柱を!? はっ!? まさか性別の偽装か! 侮れない相手だ……。僕のお父さんが見たらどんな反応をするか……水菜さんがもし出場したら、全抜きも可能性はあるかも』


「誰が男だ。次言ったら怒るぜ?そして、そんなにキラキラした目で見つめられると逆に居心地悪いんだが。ともあれ、出場するのはあきらめるさ。騎士なんていう堅っ苦しい肩書は性に合わねえからな」


『そ、そうなのか。でも、昇級したら堅苦しさも減るって聞いた事があるぞ? もし、水菜さんが騎士団に入ってくれたら、それは凄まじい戦力になるだろう。そんなこと言わずに少しは検討してみたらどうだ? 騎士がやっている模擬戦にも出たいと言うくらいだ。場合によっては、暴れ回っても問題ない役に選ばれるかも知れない』


「あいにくと、守るより倒す方が好きなんでな。騎士ってのは守るが優先だろ?まあ、あたしのことは置いとくとして、お前も模擬戦には出たことあんだろ?戦績は?」


『僕は……零勝だ……過去に何度も出場している。でも勝った事は一度も無い。毎日訓練しているのに……どうして力が付かないんだろう』


「あー、そりゃ最弱なんて言う不名誉な二つ名もつくわけだ。納得」


『……』


「まあ、それもぼちぼち過去形になるんじゃねえか?事前資料によると、努力が目に見えて報われる何かを得たんだろ?」


『えぇ? あぁ、うん。ある日突然、ステータスっていうものが見えるようになったんだ。一定の条件で出されるミッションを達成すると身体能力が上がり、偶にスキルというものを獲得することもある。それに僕は、そのスキルに命を救われたんだ。僕に生きる価値をくれた。だから僕はこれを幻覚だなんて思わずに受け止めることを決意した』


「へー、ミッションにスキルにステータス、ねぇ。まるでテレビゲームかなんかだな」


『テレビゲームってなんだ? 聞いた事のない言葉だ……』


「ん、ああ、いや、忘れてくれ。むしろ、今お前は何も聞かなかった。オーケイ?」


『え? あぁ、分かった』


「素直でよろしい。それはさておき、よかったじゃねえか。闇雲に訓練を続けるのではなく、明確に目標ができて、しかもご褒美までくれるっていうんだから」


『あぁ、目標が出来たことはこれほどにも嬉しいことは無い。やればやる程僕の力も増してくる。だからこれでもっと強くなっていつかの夢を叶えるんだ……』


「いいなぁ、あたしにもそーいうシステム実装されねえかな。そしたら、いずれは少年漫画みたいに星をぶっ壊す規模のパワーを宿したりできるかもしれねえし」


『星を破壊!? 水菜さんの夢は魔物側? 僕は勇者側だからね。いつか相対したら戦う事になりそうだ。まぁ、勝てる自信は考えること自体が違い過ぎるから無いけど……』


「あたしの願望はともかくとして、今後お前はその恩恵を使ってどうするつもりなんだ?」


『誰よりも強くなって、弱者を守り、誰からも頼りにされて、民を守り、国の希望となり、出来たら他国との戦争も平定したい。そしていつかは夢みた勇者! ヒーローになるんだ! それが僕の夢だ!!』


「ああ、そこはブレねえのか。頭から足の先まで真面目な奴だぜ。そーいうまっすぐな奴は嫌いでもねえけどな」


『僕はもっと、もっとその為に強くならなくちゃならないんだ。どこまでも強く!』


「向上心の塊みたいなやつだな。えっと、訊かなきゃいけねえことはこれで全部だったかな。最後に、このインタビュー記事の読者に一言頼むわ」


『え、読者なんているのか? えぇっと……僕のことを見ている人……達? 僕はこれからももっと強くなるつもりだ。だから僕が勇者になるまでを見届けてくれ!』


「んじゃ、これでお開きって事で。またな!」









「……さて、ちょっとだけ時間もある事だし、素手格闘の基礎でも教えてやるよ」


『やった! それで? 素手格闘技か……武器を使わずに相手を制する。武器という名の使い道と使い方が限られているものより、素手は無限の可能性があるって話を聞いた事があるからね。どんなことを教えてくれるんだ?』


「まずは構えからな。片足を上げて、両手は斜め上にピンと伸ばす。そして、手首は胴体と逆方向かつ下と曲げる。わかるか?」


『こ、こうか? おっとと、バランスが大事そうな構えだな……』


「そうそう。それが、『荒ぶる鷹のポーズ』だ!どうだ?強くなった気がするだろ?」


『おおおぉ……凄い。両腕を高く広げて、相手より身体を大きく見せる事で相手を牽制出来そうな構えだ! それに鷹のポーズか。鷹になりきる事で鷹の力を得る……! それで? 此処からどんな技を繰り出せるんだ?』


「……ったく、ホントからかい甲斐のない奴だぜ」





↓これは、努力が必ず報われる物語


『最弱騎士の覚醒成長譚』


https://kakuyomu.jp/works/16816452219369604439

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