第七回募集分

「背についてる翼については触れない方針だ」 byクゼツ


「よー、少年。いや、そろそろ青年か?なんにせよ、よくきた。まあ、来てもらったというよりは巻き込んだという方が正しいか」


『……俺は何かに巻き込まれたのか?』


「んぁ?そうだな、まずは名乗っておくか。オレはクゼツ。とりあえず、このインタビューの間だけ覚えといてくれたらいーぜ」


『クゼツ……インタビュー? 俺はレーキ・ヴァーミリオンだ。よろしく、頼む』


「ほいほい、礼儀正しい挨拶ありがとよ。まー、気を楽にしてくれや。ここは、本来交わる事のない世界戦の交差点。気まぐれと興が支配する、不確かな水月のようなワールドアウトサイドだ」


『……世界? 交差点? ワールドアウト、サイド……?』


「意味なんて分からなくていいぜ。理解したところで、元の世界に持ち帰ることはできない知識だ。あと、不安そうな顔をしているから補足しておくが、オレさんは敵じゃないし、この世界はお前さんに害を成さないよ。役目を果たしたら、どちらも嘘のように消える」


『……それではこれは……夢のようなものか? 俺は眠っているのか? ……参ったな……』


「ますます混乱したか。なら回りくどい言い方はやめてもっと単純に表そうか」


『そうしてくれ』


「オレさんが訊いたことについて答えろ。すべての質問が終われば元の世界に帰してやる」


『……どうやらそうするしか無いようだな……解った』


「というわけで、早速問おう。まず、お前さんは今どこで何をしている?」


『今は……ヴァローナ国立天法院で、学生をしている。丁度教室にいた所だった』


「察するに学問を学ぶ施設か。自発的に学びに来たのか?それとも成り行きか?」


『今は俺の意志だが半分は成り行きだ。師匠が……行けと導いてくれた』


「へぇ。師匠の口利き……いや、推薦か。オレにも昔師匠がいたからわかるぜ。道を示してくれる存在ってのはありがたいもんだ。死んでもなお光を指し示してくれるんだから猶更だ」


『……ああ。かけがえのない人、だった……いや、今もそうだ』


「ま、オレの師匠が教えてくれたのは、ボケとツッコミ、それに軽口の叩き方くらいだったけどな。てゆーか、師匠っつーよりは先輩って感じだったな、ありゃ」


『ボケとツッコミ……クゼツは芸人かなにかなのか?』


「そうさなぁ……狂言回しとでも自称しておくかね。そういや、お前にも同室の先輩がいるんだろ?いろいろと世話になったらしいじゃないか。到着早々、腹をすかしすぎて行き倒れ寸前だったお前を食堂まで案内した上、なけなしの手持ちで豪勢な飯を奢ってくれたんだって?」


『行き倒れ寸前だった訳じゃない。飯もただの食堂のメニューだ。だが奢ってくれたのは事実だ』


「なんだ、誇張か。てっきり、お前にとっての大恩人なのかと思ってたわ。こんな慈悲深くて偉大な先輩と同室なんて、私は運命に感謝を捧げずにはいられません――的な感じだと思ってたんだが」


『尊敬する先輩だが……さすがに……運命に感謝……はしているかも、しれないが……』


「まあ、そいつの話はもういいや。なんか興味が失せた」


『そうか』


「で、学び舎なわけなんだし先輩以外にも同学年の友人とかいんだろ?そっち方面の話とか聞きてえな。爆笑必至の変人クラスメイトとか、その天法院とやらを揺るがすような大事件を起こした問題児とかいたりしねーの?」


『変人ではないが……いつでも面白いことを言う友人はいるな。クラスメイトにも仲が良いといえる友人がいる。大事件は……心当たりがないな』


「ほーん。まあ、まともなダチとそれなりに楽しい学生生活送ってるわけか。いいな、そーゆーの。青春だな」


『……そうか。これが、青春か……』


「そんで?お前の当面の目標はなんだ?強大な力を自由に行使できるようになって、世界征服でもするのか?」


『……世界、征服? ……いや、ただ俺は呪いを解いて……』


「へぇー、呪いをなんとかしたい、か。ちなみにそいつはどんな呪いで、何がキッカケだ?」


『……これが夢だというなら……あんたになら話してもいいか。俺は、死に逝く師匠を呼び戻そうとして……死の王に呪いを受けた。『俺が愛した者は俺より先に死の王の国に召される』と言う呪いだ』


「あー、そーいう流れなのか。気持ちはわからんでもないけどな。そういや詳しく聞いてなかったが、師匠とはどういう出会いをしたんだ?」


『……俺が盗賊として襲った村に師匠が雇われていたんだ。そこで師匠は捕らえられた俺を弟子にしてくれた。師匠は弟子を探して旅をしていたんだ』


「はっは、ガキが一丁前に盗賊の真似事をしてたのか。ま、どっかのいけ好かない同級生と違って、オレはそれを否定も肯定もしねえよ。居場所ってのは大事だからな。それがお前の場合は、たまたまならず者たちの吹き溜まりだったってだけの事だろ。いいじゃねえか、ワイルドで」


『……ああ。彼らには感謝している。俺に初めて居場所をくれたのは、ヴァーミリオン・サンズのみんなだった』


「んで、その盗賊団に拾われる前は何をして……ああいや、今の質問はナシで。その表情を見たら、どんな境遇だったかはなんとなく察しがついた。これ以上古傷を掻き毟るのはよしておくさ」


『……ありがとう』


「オレはこう見えても、そのあたりキッチリ線引きはするタイプなんだ。言動の割にはいいヤツだろ?なんなら惚れてもいいぜ?即座に失恋させてやるけど」


『……振られると解っていて告白するモノも居ないだろう。それに、俺には、その……心に決めた人と言うか、その、なんと言うか……』


「およ?そうなのか。そりゃ野暮だったな。んじゃ、最後の質問。さっきからちらほら出てくるワードについて教えてくれ。ズバリ、≪≪天法≫≫ってなんだ?……ああ、どっかの捻くれた教師の出した小テストの問いとは違って、その不思議パワーの概略について教えてくれればいいぜ」


『天法は……天の王の力を借りて様々な奇跡をなす術だ。例えば……虚空から炎を起こし、水を生み出し、時には人を癒やし、時には人を死の王の元に送る強大な力だ』


「だとさ。オレが適性を見てもらったら何になるんだろな。自分で言うのもなんだが、掴みどころのない性格だから水とかになんのかねぇ?」


『どうだろうな……天法を使うためには強い天分が必要だ。誰もが天分を持っているとは聞くがあんたの天分が強いかどうかは俺にはわからない』


「そりゃそうか。……ああさて、これでお前さんはこの世界での義理を全て果たしたわけだ。そろそろ、元の世界に帰してやるよ。でも、その前に。こいつは興味本位で訊くんだが、もしもあんたの人生を見守ってくれている奴がいるとしたら、あんたはそいつになんて言ってやりたい?」


『……色々と言いたい事はある。今はただ……ありがとう、と』


「答えてくれてあんがとよ。これで本当に終いだ、お疲れさん。月並みなセリフだが、また機会があったら会おうぜ」


『……ああ、もう目が覚めるのか? 不思議だな……あんたになら何でも話せる気がするのは。……また、な』





数奇な運命を翔け抜けていく翼の物語↓


『六色の竜王が作った世界の端っこで』


https://kakuyomu.jp/works/1177354055504544734

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