「同族嫌悪の反対で、ついつい長話しちまったぜ」 by氷月
「ようこそお客人。いろいろ言いたいことも聞きたいこともあるだろうけど、まずは座ってくれ」
『あいよ。この辺でいいか?』
『……あの、いきなり呼び出されたので、状況がまだよくわかっていないのですが……。まずは、あなたの名前と今日私達がここへ呼ばれた理由について教えて頂けますか? ……あと、私の分の椅子が無い理由についても……』
「それもそうだな。俺は氷月、そこらへんに転がっているただのゲーマーだよ。念のため、そっちの名前も確認しておこうか?」
『オレはリオン……あ、いや、今は〝リオナ〟だったか。まあ、どっちで呼んでくれても構わねえんだが』
『私はミラと言いま――』
「そうか、よろしくなリオナ」
『息をするようにスルーしないで頂けますっ⁉』
「いや、ぶっちゃけ言うと俺が話したかったのはリオナ……もとい"リオン"の方で、あんたはそのおまけなんだよな。もしくはバーター。だから、あんたとは特によろしくする必要を覚えないっていうね」
『じゃあ何故私まで一緒に呼ばれたのですか……。リオナさんに一体何の用があったと言うのです……?』
「理由なんて決まってるだろ。そいつが、俺と同じゲーマーって種族だからだよ。あと、お前に関しては単に事故で巻き込んだだけだ」
『事故⁉ とばっちりにも程がある理由なのですよ……。私が何をしたと言うのですか……』
『普段の行いが悪いんじゃね?』
『リオナさんにだけは言われたくありません。それはそうと、げーまー……? そんな種族、≪シェーンブルン≫にいましたっけ? いずれにせよ、リオナさんは〝
「へ?ライオネル?そんな後付けで貼り付けられた種族名なんてどうでもいいんだよ。それ以前に、生まれ落ちた時から俺たちは骨の髄までゲーマーだ。そうだろ、リオン?」
『ああ、その通りだ。オレ達は唯ひたすらに目の前のゲームを楽しみ、ゲームに没頭し、持てる力の全てを使い尽くして、貪欲に熱と愉悦と勝利を求める無限の渇望者さ』
『あやや……? お二人って初対面ですよね? 妙に息が合ってるというか、慣れ親しんでいるというか、お二人から同類の気配が……』
「さて、困惑しているウサギは放っておくとして、本題に入ろうか。できれば、縛りプレイとか、今までに打ち立ててきた個人的ベストRTAレコード集とか、その他塵よりも積もる話で盛り上がりたいところだが、今日はあいにくと仕事でな」
『お仕事、ですか。つまり、それが私達の呼ばれた理由に関係するということですね?』
『オレは仕事だろうが何だろうが一向に構わないぜ? 初めてプレイしたレトロゲーの思い出から、つい最近クリアした鬼畜ゲーの攻略法まで、ざっと122時間は喋り尽くしてやらあ!』
「そういう話はそれが終わってからじっくりしようぜ。なんなら、パソコンやゲーム機も持ってくるか?そっちの世界にいってからはご無沙汰だろ?」
『ふむ……なら、P○5はあるか? F○の新作が出るらしいんだが……無けりゃ、パソコンでST○AM版をプレイでもいいぞ?』
『ぴーえ……? すちー……?』
「んじゃ、未知の単語の頻出に疑問符を浮かべまくっているウサギはおいといて、とっとと本題……いや、オレたちにとってのサブクエストを片付けようぜ」
『……さっきお仕事と仰っていましたよね? サブクエスト扱いでよいのですか……?』
『ま、面倒なミッションは早めにこなしておくに越したこたぁねえわな。それで? オレは何をすりゃいい?』
「とりあえず、"リオナ"の来歴と現状を教えてくれ。ウサギはお前視点での説明の補足な」
『上空3000mに突如召喚されたと思ったら異世界だった(棒)。……ったく、いきなり天高く喚び出した挙句、そのまま急転直下真っ逆さまとかどんな神経してんだ。危うくその場でゲームオーバーになるトコだったぞ?』
「え、何そのクソゲー。もしくは初見殺し」
『そ、その節は本当に申し訳なかったのですよ……。まさか、召喚のシステムがそのようなことになっているとはつゆ知らず……』
『だがまあ、喚び出された世界がオレのプレイしていたMMORPG〝シェーンブルン〟にそっくりだったのは驚きだ。モンスターがいて、獣人族がいて、魔法やスキルやレベルの概念もある。それでいて、決まったストーリーやら選択肢やらコリジョンやらのシステムに支配されることはなく、何処へ行くも何を食べるも自由自在。一瞬、ゲームの中に吸い込まれたモンかとも錯覚したが、このリアルさを見るに、あくまで〝ゲームに似ているだけの異世界〟なんだろうな』
「いいねぇ。ゲームが元になったらしき世界を、1と0に縛られずに自由に堪能することができるなんて、全ゲーマーの夢だと思うぜ」
『おうよ! 代わってくれなんて頼まれたって、譲ってやんねえぜ?』
『? あの、1と0に縛られるとはどういう意味です? 状態変化魔法の一種でしょうか?』
「ん?ああ、ウサギにはわからん深淵の話だよ。な、ゲーマー?」
『そうだな……。まあ、テメェにもわかるように説明するとすりゃあ、一見飛び越えられそうな小さな段差でも、見えない壁によって、できる/できないがはっきり定められているってことだ。ギリギリ越えられる、頑張れば越えられるなんていう半端な可能性は、最初から全部排除されてんだよ』
『そ、そうなのですか……?』
「プログラムされた世界では、あまりに自由にやりすぎたら、マップの裏側に飛んだり、オブジェクトにめり込んだりするもんな!挙句に、マップタイルが無差別に入れ替わるシャッフルバグに遭遇したりとかさぁ!」
『ダ○パのなぞのばしょとか、夢を○る島のスクロールバグとか、アレはトラウマだった』
「うん、やっぱお前とは仲良くできそうだわ」
『???』
「っと、早速脱線しちまってるな。それで、リオナの最終目標は?」
『≪シェーンブルン≫のラスボス――魔王を倒すことだ』
「ふむ、真っ当だな」
『私がリオナさんを喚び出した理由もそこにありますからね』
「……で、本音は?」
『魔王とか後回しでいいから、兎に角遊び倒そうぜ!』
『
「いやいやいや、それを言うなら、赤の他人を自分たちのために呼びつけたウサギも大概だと思うが?しかも当人の了解も得てないし」
『う……それはそうかもしれませんが……』
『安心しろ。オレは自由に対して寛容だぜ? どんだけ自己チューに行動しようが、オレは止めたりしねえ。〝不羈奔放〟を心掛けてるんでな』
『……リオナさんはもう少し遠慮とか自重とか協調とかいう精神を身に付けて頂けませんかね? 毎度振り回される私の身にもなって欲しいのですよ……』
『次の機会がありゃあ、前向きに検討してやるよ!』
「ま、本人は楽しんでるみたいだからいいんだけどさ。……そうだ!チャンスがあったら次は俺を呼んでくれよ。もう一度魔王だの邪神だのが現れたら、今度は俺が名目上は助けに行ってやるよ」
『ハ! 残念だが、今の魔王も未来の魔王も異世界の魔王も、全員オレがぶちのめす予定で一杯なんでね。テメェの出番なんざ無えと思うぜ?』
「そいつは残念。……いや、ならいっそのこと、世界の危機を作る側になるか。そっちの世界にラスボスとして乗り込むってのも面白そうだな。互いに極点へ到達した者同士のPvPってのも、また熱いもんな!」
『いいなぁ、それ! ゲームではムービー中でしか実現できなかった最上級スキルのぶつかり合いを、一遍現実で再現してみたかったんだ! 竜の炎で大海すら両断する炎属性最強スキルと、ありとあらゆる物質を暗黒で呑み込み、消滅させる闇属性最強魔法、本気で撃ち合ったらどんな結果になるんだろうな⁉』
『ちょっ⁉ そんなことをしたら、シェーンブルンの大地が滅茶苦茶になってしまうのですよ⁉ 私達の世界を滅ぼすおつもりですかっ⁉』
「そんなに震えなくてもいいぞウサギ。ただの冗談だっての。どこぞのケツイがみなぎる世界みたいに何度でもやり直せるわけじゃなし、あえてお前らの平穏を乱したりはしねえよ」
『うぅ……信用できません……。もしまたシェーンブルンに危機が訪れても、異世界人の召喚は見送るべきでしょうか……?』
「強いて言うなら、相手を選べるようにでもしておくこったな。ああさて、爪弾きにしてばっかってのもかわいそうだし、せっかくだからウサギにも質問してやるか」
『そんな同情的なノリで振られるのは癪ですが……まあ、いいでしょう。この私になんなりと聞いちゃってください!』
「なんなりと?じゃあ、読者皆が知りたがってるであろうスリーサイズから――」
『開始五秒とかからないうちにセクハラ発言ですか!』
『オレの見立てじゃあ、上から78:57:80のBカップだな』
『勝手に答えないでください、リオナさん! と言うか、何故そんな正確に私のスリーサイズを……!』
「なるほどなるほど。慎ましやかな体ではある、と。……だそうだ、読者のみんな」
『誰が貧乳だアアアァァァっ‼‼』
「おっと、その程度の不意打ちでは話にならんよ。ゲーマーたるもの、いかなる理不尽にも冷静に対処しないとな」
『オイ、ミラ。図星突かれたからって、初対面のヤツに魔法ぶっ放すなよ。そんな図星突かれたからって……』
『「図星突かれた」って二度も言うことありますっ⁉』
「まあ、今の質問は読者サービスだ。じゃあ、改めて本題。……ぶっちゃけ、このリオナってどんなやつ?日頃の鬱憤含めて、洗いざらい吐いていいぜ」
『そうですね……まあ、気苦労が絶えないのは事実です。常識という言葉がこの方の辞書には載っていないようで、何かと問題行動ばかり起こしては、大抵私が後始末をさせられるという……。はっきり言って、目に見えない魔王の脅威より、目の前のリオナさんの脅威の方が余程頭を悩ませているのですよ……』
『苦労してんな、オマエも』
『あなたの所為ですよ!』
「うん、忌憚もオブラートもない感想をありがとう。これを読んでる面々にもよく伝わったと思うぜ」
『大体! つい先日だって、あんなにレベル差のある
『バカか、オマエ。そのレベル差を如何にしてひっくり返すかが、縛りプレイの醍醐味だろうが』
「違いない。オワタ式とかにも言えることだな。神経をすり減らす、あのひりつくような緊張感がたまんねえんだよな!」
『それで死んでしまったら元も子もないのですよ!』
「そん時はそん時だろ。なんにせよ、楽しそうで何よりだ」
『ああ、気ままに楽しくやらせてもらってるぜ?』
『それに付き合わされる私は堪ったものじゃないですよ……』
「ちなみにこっちは興味本位で訊くんだが、リオナからみたこのウサギってどういう存在?やっぱりマスコット?」
『違います』
「それとも非常食?」
『全然違います! マスコット以下じゃないですか!』
「ウサギの主張はさておき、リオナの本音は?」
『非常食だな』
『即答⁉』
『若しくは玩具?』
『疑問形の挙句、人権の〝じ〟の字も見当たらない扱いなんですがっ⁉』
「はっは、いいねえ。つくづくいいコンビだわお前らは。ボケとツッコミ的な意味でもな」
『だろ? こいつは弄ってナンボなんだ』
『はぁ……もう、どうしてこんな人を喚び出してしまったのか……。クーリングオフは受け付けてもらえないのでしょうか……』
「そもそも真っ当な取引が成立してないってところから考えてみちゃどうだ?それはともかくとして最後の質問な。お前らが今まで紡いできた、あるいはこれから紡いでゆくシナリオを見守ってくれる人たちがいるとして、何かそいつらに一言いうとしたら?」
『あー、そうだな……。ま、わかりきった結末なんてのはつまらねえだろうから、テメェらの予想も、周りのヤツらの想像も、作者の思惑も、このオレが全部まとめてひっくり返してやらあ! せいぜい無い頭捻って、オレ達の行く先を愚考しているがいいさ!』
『リ、リオナさん……今度は一体何を企んでいるのです……? あと、サクシャって誰ですか……?』
「気まぐれな風みたいなもんさ。あいつらの風向きはいとも簡単に変わりやがるからな」
『オレはその程度で靡く程軽い存在じゃねえよ。……だがまあ、一世界に囚われたオマエにゃ関係無え話だったな。それよか、オマエも何か一言残しといたらどうだ?』
『……それもそうですね。誰に届くかはわかりませんが……えー、コホン、私達の旅路はまだ始まったばかりです。その行く手には、想像もできない程様々な困難や、乗り越えなければいけない障害が待ち受けているでしょう。しかし、この平和な世界を守る為、獣人族に這い寄る魔の手を跳ね除ける為に、私達は決して最後まで諦めません! 異世界からの英雄と共に、必ずや魔王を討伐して、皆の平穏な生活を――』
「はい、カット」
『長えし堅え。選挙演説か。聞いてるヤツらも飽きるだろ』
『え……そ、そうですか? なら、この辺で……』
「うい、真面目でつまらないスピーチをありがとよ。労いの言葉の代わりに欠伸の半ダースでもくれてやるよ。……そんじゃ、茶番はこれで終わり。リオナとそのおまけも、ここまで見てくれたみんなもお疲れさん」
『ああ、お疲れさん』
『あう……最後までおまけ扱いですか……』
「というわけで、こっからが本番だ!」
『よ! 待ってたぜ!』
『なっ⁉ 今度は何をなさるおつもりですっ⁉』
「ふ、何を今更!……いでよ!パソコンや数多のゲーム機たち!さぁ、楽しい夜はこっからだぜ!そっちも最近触れてなくてうずうずしてんだろ?時間いっぱいまで、存分に遊びつくそうじゃねえか!」
『おうよ! 誰が名付けたか、この〝獣王〟の実力、骨の髄までたっぷり味わって行きな! 終わりなんて来させねえ。呆れる程怠惰で無意義でご機嫌なパーティーを始めようかッ‼‼』
「上等だ!てめえの培ってきたテクで俺を唸らせてみろ!!」
『始める前に、せめて私の椅子は用意してくださいーーっ‼‼』
↓振り回す系救世主と振り回される系ヒロインが好みの方はぜひ。それ以外の方も一読あれ。
『初期レベ廃人ゲーマーと獣人少女の異世界終焉遊戯<ワールズエンド・ゲーム>』
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