「文字通り、夢のある話ってやつだな」 by蛍斗

「どうも、インタビュアーを務める蛍斗です。俺の自己紹介はどうでもいいと思うので、ゲストに自己紹介を願いましょうか」


『紋章院所属のリーフです。紋章術…地球で言う魔法の一種と、異世界の文化や技術について研究しています』


「ようこそ。俺が地球人代表というのは気が引けますが、ともあれ歓迎しますよ」


『お招き頂き、ありがとうございます。ただ僕たち異世界人が生身の肉体を持ったまま地球に降り立つことは現状不可能なため、今回は夢の中であなたを氷都市へ「夢召喚」させて頂きました。大丈夫です、あなたが目覚める頃には自動的に帰れますよ』


「了解しました。お互いにとって有意義な時間にしましょう。そういえば、そちらの世界では、俺達地球人の存在が認知されているんでしたよね」


『はい。僕たちの世界バルハリアには、古き神々の遺産「フリズスキャルヴ」なるものがあって、地球だけでなく様々な異世界を観測しています。みなさん向けに分かりやすく「異世界テレビ」とも呼んでいます。チャンネルの1つ1つがそれぞれ別の世界と思ってください』


「ああ、なるほど。リーフさんから見れば、俺達は数多の異世界の一つで生きる人間というわけですね。このまま深く話を伺いたいところですが、その前に作品の題名を紹介してしまいましょうか」


『作者のイーノさんから、お話はうかがっております。「運営になった男 -偽王女の8時間戦記-」ですね。地球人が氷都市に滞在できるのは睡眠時間の間だけですから、サブタイトルの8時間はそこからつけたのでしょう』


「ありがとうございます。そのままあらすじも述べて頂けると」


『RPGが好きな地球人のイーノさんが、偶然「夢渡り」でご縁のつながった僕たちの世界バルハリアの氷都市で。「勇者の落日」と呼ばれる冒険者たちの大量遭難事件により窮地に陥った街の人々を助けるべく、地球でのゲーム仲間を誘って問題解決に奮闘するお話です。僕の姉もその事件で消息を断ちました』


「なるほど。少し複雑な経緯であるとはいえ、私たち地球人の視点からすると、いわゆる異世界転移モノに近いスタンスという解釈でいいんですかね?」


『精神だけの異世界転移、という形になるでしょうか。大きな特徴は睡眠時間に異世界へ通うことと、自覚は無くても世界中のあらゆる人に毎晩、異世界への転移現象「夢渡り」が自然に起きていることです。誰がどんな世界へ飛ぶかは個人差が大きくて、みんな夢だと思ってるから社会が混乱することも無いんでしょう。今回あなたを氷都市へお招きした「夢召喚」は、夢渡りの行き先を任意に指定可能にする夢魔法の一種です。残念ながら、僕は専門外ですけど』


「ということらしいです。せっかくなので、リーフさん以外の人物についても何名かご紹介いただけますか」


『そうですね。まずは作者のイーノさん。彼は夢渡り中の出来事を目覚めても忘れずに覚えていられる、珍しい体質の方です。そういう人は地球の歴史上たまにいて、夢渡りの体験を独特な絵画や小説、その他の芸術作品に残したりもしています。彼は就職氷河期世代の上、大人の発達障害の当事者としてとても苦労なされたそうで、こちらから頼んだわけでもないのに色々と僕たち氷都市の人々を手助けしてくださる、優しい人ですよ。それと、ヒロインのエルルさん。彼女は地球の北欧神話とも縁の深い世界アスガルティアの崩壊から逃れてきた難民です。今はアウロラ神殿の巫女ですが、故郷では酒蔵で働いてたそうです。とても明るくユーモアのある女性で、お酒にも強いです。僕と姉さんも別の世界から自力で氷都市へたどり着いた難民ですから、エルルさんのことは応援したいですね』


「人間以外にも知性を持つ種族が存在する世界。地球における現実と常識の中に生きる俺達にとっては、まさに空想や幻想にのみ存在する世界ですね。で、そんな俺達の世界からそちらの世界に干渉できる人物が現れたと」


『イーノさんだけが、特別ではありません。みんな自分さえ知らぬところで、毎晩夢渡りでどこかの異世界へ飛んで。勇者や魔王になったり、怪獣になって暴れたり、あるいは平和な村の住人になったりして、別の人生を楽しんでるんじゃないでしょうか。僕も毎晩、どこで何をやってるんだか…別の世界でマッドな科学者になってたりして。なんだか「胡蝶の夢」みたいですね』


「文字通り、夢のある話だな。やれやれ、俺もこんな退屈な世界から抜け出してみたいものだ。異種族の女性とお近づきになってもみたいし」


『あなたもこうして、世界の裏側を知った以上。夢を信じる心と自由な好奇心があれば、望む世界へ夢渡りで飛んで行けると思います。その体験は無意識のレベルであなたに影響を与え、いずれ現実でのあなたをも変えるかもしれません。ファンタジーとは、そうした「行きて帰りし物語」。イーノさんもいつか、異世界での経験を糧に現実の人生を切り開くことでしょう』


「お、ちょっと希望が持てる話だな。なら、いずれは俺がそちらの世界にお邪魔して観光でもさせてもらう事にしよう!そうと決まれば、早速手土産を何にするか考えなければ!やはり、地球ならではのモノが良いだろうな。やはり食べ物か?それとも芸術品か?あるいは書籍などの方が良いか?思案のしどころだな……」


『バルハリアは永遠の冬に閉ざされた過酷な世界ですが、氷都市に住む人々の心は暖かいです。小さな街ですが、みなさんの言うファンタジー世界でありながら、地球以上に文明の進んだSF世界の趣もあります。今度ご案内しますよ。地球からは夢渡りでしか訪れる手段が無い関係上、何かを持ち込んだり持ち帰ったりはできないのが残念ですが。あなたの地球ならではの体験談が一番、喜ばれると思いますよ』


「ああ、失礼。埒もない空想に浸っていたようだ。しかし、体験談か。あいにくと、軽々に語れるような土産話は持ち合わせていないが。……そういえば手土産で思い出したんだが、リーフさんやお仲間方は地球の文化に関心と理解を示しておられるように見受けられるが?」


『ええ。地球人の考えた冒険者ごっこであるRPGや、数々の異世界での冒険譚…異世界テレビの無い地球人がどうして、他世界のことを知ってるのか。やっぱりイーノさんみたいに、夢渡り中の記憶を目覚めてからも保持してる人がいるとしか思えません。日本で流行ってる異世界もの小説だって、いくつかは作者自身が本当に体験したことを元に書いてるのかもしれませんね』


「そりゃまた興味深い話だ。ちなみに、リーフさんは特に興味を惹かれるものとかあるのか?」


『地球ほど、なんでもありの世界って他に無いんです。多くの異世界を観測している僕たちは「あらゆる世界のひな型」と呼んでいます。氷都市にも地球の建築様式や金融システム、仮想現実システムなどを真似たものがありますが、全ては地球人の発想からのパクリです。もし地球の国々とバルハリアで正式な国交があったら、権利侵害で大変なことになるでしょうね(苦笑いしつつ)。古き神々が異世界テレビを作った理由も、きっとその叡智に触れるためなのでしょう。地球人ほど優れた冒険者で発明家で魔法使いは、この広い多元宇宙で他にいないと思います(研究者らしく熱弁を振るう)』


「へぇ、地球の文化や社会構造ってのは俺達が思っている以上に偉大らしいな。そういえば、リーフさんたちもテーブルゲームとかやるんだよな?今回の記念として、ワンセット贈呈しようか?こちらの世界が覗けるなら再現はできるだろうし」

『ありがとうございます。どんなゲームでしょう?』


「俺の友人が0から作った完全オリジナルだ。まあ、悪意てんこ盛りの仕様だとは思うが」


『それでも、地球人の発想に触れる格好のサンプルとなるでしょう。ありがたく頂きます』


「作品内でもテーブルゲームが登場してたが、イーノ氏の生い立ちと言い、ゲームというのはこの作品のテーマに深く関わるものになったりするのか?」


『ゲームは単なる娯楽ではありません。単純化された現実のシミュレーションでもあります。これはイーノさんから聞いた話なのですが、地球のMMORPGには現実の経済と同じアイテム取引の相場があり、ゲーム内通貨のインフレが起こり、その運営は架空国家の統治さながらだと聞いています。そのルーツは、テーブルゲームにありました。インターネットも無い時代、郵便のやり取りでMMORPGに近いことを実現していた幻のRPGがあったなんて、信じられますか? イーノさんは、経済が元気を無くしてRPGの新作も出にくくなった日本の現状を北欧神話の「フィンブルの冬」にたとえていました。地球のみなさんにはぜひRPGの知恵を活かして、現実の世界で未来を切り開いてほしいですね。僕も日本での「RPGの復活」を楽しみにしてます』


「なるほど。あらゆる媒体のゲーム作品を好む俺としては、他人事ではないな」


『現実の世界でも、オンラインRPGのようにプレイヤー(国民)全員にお金を配ってみたら経済はどうなるかを研究している人がいます。「ベーシックインカム」と呼ばれるアイデアです。無料で「石」を配ることで、ゲーム内でも色々なコンテンツを試してもらって、結果として運営(経済)が上手く回る。もともと現代のお金って、紙切れや硬貨そのものに金貨みたいな額面分の価値はありません。ビットコインみたいな暗号通貨には、国家の後ろ盾さえない。みんなが価値があると信じているから成り立ってる、ゲーム世界のお金と似たようなものなんですよ』


「はは、流石は若き天才と呼ばれるだけあって博識だ。っと、まだまだ語りたいこともあるけど、時間が迫っているらしい。最後に、作品の魅力なり見所なりを語ってもらってお開きとしようか」


『「運営になった男」の題名通り、イーノさんが氷都市の危機を救うため地球のオンラインRPGの運営手法を異世界に持ち込みます。氷都市で発生した冒険者の人手不足に対して、優れた冒険者適性を持つ地球人たちに楽しみながら活躍してもらうため、リアルの異世界にRPGっぽい演出を施すんです。「ゲームの世界に転生」とは、逆の発想ですね。たとえばあなたにも今、貸し出されている「アバターボディ」の活用。精神だけの異世界転移ですから、氷都市に来た地球人はみんな幽霊。それでは不便でしょうから、古の神々が「変身」を楽しむために使っていた魔法人形を仮の身体として制限付きで貸し出してます。イーノさんは、地球人たちにやる気を出させるためにこれで「偽王女」こと「ユッフィー」の役を演じるんです。地球の言葉だと「バーチャル美少女に受肉したおっさん」でしたっけ? ユッフィーの仲間たちもみんな、地球のオンラインRPGでのマイキャラの姿で戦いますよ。……あなたも女の子に変身してみますか?(冗談っぽく微笑みながら)』


「一時的にっていうなら、興味を抱く話ではあるな。さて、今回はこれにて幕引きだ。次回を楽しみにしてくれ」




しっかりと練られた世界観や背景にも注目!↓


運営になった男 -偽王女の8時間戦記-

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894406369

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