第33話 空閑奏Ⅳ

 くずが。

 男たちを追い払った奏だが、胸の内は晴れない。あんな奴らを痛み付けたところで、何かが変わるわけでもない。


 ジムで、サンドバックでも叩くか。

 そう思った奏の目に端に、何が動くものが写った。


 えっ? ミカさん?

 一瞬だが、ミカらしきものが走っていったような気がする。たぶん、気のせいだろう。だが、万が一ということもある。


 奏がミカが走っていったと思しき方へ、自分も走っていく。だが、ミカの姿は見当たらない。


 やっぱり、気のせいか。

 そう思った時、劇場の案内が目に入った。


『二人の女王 ―ロボット女優の演技を君は見たか?―』


 なんだこれは。くだらない。大根女優の次はロボット女優か。ふざけるな!


 ―― バン。

 立て看板に穴が開く。思わずパンチが出てしまった。


 しまった。しょうがない、罪滅ぼしにチケットでも買うか。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 万雷の拍手の中、幕が下りた。


 すごい。

 観る前は、ロボット女優なんかとバカにしていたが、人間の女優に勝るとも劣らない。いや、悔しいが、今の自分よりも実力が上だ。自分は、ロボット以下か。


 奏の目に悔し涙が浮かんだ。


 パンフレットに載っている女優の名前は、”アクトノイド紗弥さや”だ。そして、『アクトノイドの演技は、プログラミングされたものではなく、パフォーマーの演技をそのまま反映したもの』という記載がある。


 ということは、誰か実力のある役者が操っているということか。


 実力のある役者?


 紗弥の演技には、なぜか懐かしさを感じた。まるで、古くからの知り合いのような。


 そうか。

 そういうことか。


 さすがだ。ドラマを降ろされても、こんなふうに復活した。いや、きっと今まで以上に活躍するだろう。


 こうでなくては困る。

 追いつくには、まだ時間がかかる。

 追い越す前に引退などされたら、こっちが困る。

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