第30話 不敵な微笑み

 刀を持った三人の男が、奏を取り囲んだ。


「竹光をアルミでコーティングしてあるだけだが、当たればアザぐらいはできる。気をつけてくれよ」

 健児監督が心配げな顔で注意する。


「はい。大丈夫です」

「動きは、さっきCGで作った動画のとおりだ」

「はい。スローでも確認しました」


 黒のスウェットの上下に着替えた奏は、まるで忍者のようだ。長い髪も邪魔にならないように、後ろで一つにまとめてある。


「アクトノイド部隊の方は、どうだ?」

「準備完了です。いつでもOKです」


 スタント専門だった裏方が、アクトノイドにより主要な役をそのまま演じられるようになった効果は大きい。ドラマパートとアクションパートの切替時の違和感がなくなっただけでなく、役者の入れ替えが無くなることで、カメラワークの自由度が大幅に増した。


「よし、じゃ、始める」

 健児監督がカチンコを手に、ディレクターズチェアに座る。


「アクション!」


 正面から一人の男が、刀を上段から振りかぶる。

 奏が右に体を開いて刀を躱しざま、回し蹴りで男の背中を蹴飛ばす。


 奏の左斜め後ろから、男が奏の喉を突く。

 竹刀の間合いの外に、奏が後ろに下がる。

 男が間合いを詰め、もう一度、突く。

 奏の更に一歩下がる。

 そして、男が三度目の突きに入った瞬間、奏が男の懐に飛び込み、一本背負いをかけた。


 残った一人が、奏の背後から脳天に刀を振り下ろす。

 奏が振り向きざま白羽取りをし、刀を男の手からねじり飛ばす。

 奏が男の腹に正拳突きをし、男が倒れる。


「カット!」

 監督の一声で、現場の空気が和らいだ。


「監督」

 奏が不機嫌な声を出した。


「いつもの、監督の殺陣と全然スピード感が違います。これでは、テストになりません」

「おい、アクトノイド部隊。ちゃんと、全力でやれ」

「でも、普段はアクトノイド同士でやってるんでガッツリできますけど、生身の人間相手となると」

 HMDを外したアクトノイド・パフォーマーが、申し訳無さそうに言い訳をする。


「真剣を使ってるならともかく、竹光で怪我なんかしません。そんなやわな鍛え方はしてません」

「でも万が一、」

 抗議するアクトノイド・パフォーマーを、奏が遮る。


「私は10才の頃から合気道をやっていて師範も持ってます。キックボクシングも5年ほど本格的にやってます。プロになってもやってけるぐらいの実力もあるって言われたこともあります。だから、手加減は結構です」

 奏が不敵に笑った。


「そこまで言うなら、万が一、怪我をしてもこちらに責任はないってことでいいですか」

 健児監督も、さすがに少し不機嫌な顔になる。


「はい。反射神経も鍛えていますし、受け身も体が覚えています。怪我をしない体は作っているつもりです。昔、アドバイスを貰ったおかけです」

 奏が、監督ではなく、ミカの方を向いて言った。

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