第28話 挑発

 ―― 10年ぶり?

 10年前と言えば、ミカは高校生だ。当時は学校の演劇部に所属し、芸能活動はしてない。でも、確かにこの子の顔立ちには見覚えがある。いったい、どこで?


「陳監督、ぜひとも彼女を使って下さい。それも、アクトノイドではなく、彼女自身で演技をする形で」

 考え込んでいたミカだが、藤堂の言葉で現実に戻された。


「は、はい。それは、もちろん。そうですね、ヒロインの友人あたりで調整します」

 健児監督が、奏の方をチラチラと見ながら、藤堂に応えた。


「すみません、監督。その役は、アクションはありますでしょうか?」

「いえ、アクションはアクトノイドだけです」

 奏の輝くような笑顔の問に、健児監督がドギマギしながら応える。


「アクションありの役でお願いします」

 奏が有無を言わせぬ口調で、自分の演じたい役を頼み込む。いや、頼むと言うよりも、まるで命令のようだ。


「えーっとですね。私の作品は本格アクションを売りにしていまして、アクトノイドのおかげでそれが実現したというわけです。申し訳ありませんが、さすがにそれは受け入れかねます」

 たとえスポンサーの頼みでも、そこは譲ることができない。


「もともと監督は、オーディションの段階ではアクトノイドの存在を知らず、たまたまアクトノイドを見て気に入ったと伺ってますが?」

「ええ、それはそうです」

「では、私をオーディションで審査して頂けないでしょうか。監督の目で見て無理と判断されるのであれば仕方ありませんが、審査もせずにダメだというのは、私としても納得がいきません」


 場の空気が凍りつく。なんなんだ、この新人女優は?


「私の方からもお願いいたします。一度、空閑さんの演技を見て頂けないでしょうか。もちろん監督の決定には従いますし、結果、空閑さんが落ちるようであっても、私どもがスポンサーを降りることは絶対にありません。そこは、お約束します」

 藤堂が慇懃無礼に、奏の後押しをする。


「そこまでおっしゃるのであれば、わかりました。ただし、オーディションというか演技テストは、実際に殺陣をやってもらいますが、それでよろしいでしょうか」

「もちろんです」

 奏が自信満々な態度で応えた。


「で、いつやりますか? 空閑さんのスケジュールもあるかと思いますが」

「今日で、どうでしょうか?」

「今日ですか?」

「必要であれば脚本の修正など今後のこともありますし、この件は、できるだけ早く結論を出したほうが、よろしいかと思いますので」

「わかりました。空閑さんがよろしいのであれば、私の方では異存ありません。では、準備を始めましょう」


 奏がどんな演技をするのか。どれぐらいの実力があるのか。ミカの心に、好奇心とともに、わずかな恐れがよぎった。

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