第22話 秘密の依頼
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史上最年少の30歳で就任した女性首相。与党勝利が確実視されていたサプライズ解散で、烏合の衆だった野党を取りまとめて雪崩的勝利をもたらした。一年前まで全くの無名の存在だった女性が国のトップの座に着くなど、いったい、誰が予想できただろうか。
ミカが、その田口に呼び出されたのは二ヶ月前だ。なんと、田口は流博士の中学時代の同級生で、折り入って相談があるという。初めての首相官邸と緊張したが、ミカたちが招かれたのは、田口の私邸だった。都内の閑静な住宅地にある高級マンションは、入り口にSPが待機し、不審な人物が入らないか目を光らせている。きっと、他にも警備のものが、目立たぬよう警戒しているのだろう。
マンション入り口で待ち合わせていた秘書により、田口の部屋まで案内されたが、秘書は部屋の中に入ることなく、ミカたち三人だけが部屋に通された。部屋の中は、一人暮らしに相応しいコンパクトな間取りだが、家庭的な落ち着きのあるインテリアで統一され、居心地の良い雰囲気に包まれていた。
「流くん、久しぶり。この前の同窓会から、5年ぶりぐらい? 全然変わらないね」
「田口くんも、あいかわらず、キリッとしてるね。人の上に立つ仕事に着くとは思ってたけど、まさか一番上まで行くとは驚いたよ」
「ただの巡り合わせよ。運が良かっただけ」
首相に会うということで緊張していたミカと愛子だが、田淵の気さくな雰囲気に緊張感が自然と溶けていった。初対面の人間を自然に取り込むカリスマ性は、生まれつきのものだろう。
「こちらは、アクトノイド・パフォーマーの水上ミカくん。そして、こちらは、本城愛子くん。僕やミカくんの仕事を手伝ってもらっている」
「初めまして、水上ミカです」
「初めまして、本城愛子です」
二人がかしこまって、挨拶をする。
「お二人とも、芸能関係のお仕事をされている方は、華がありますね。初めまして、田口英子です。今日は、わざわざお越し頂いてありがとう。くつろいでいって下さいね。流くんの昔の話でも、しちゃおうかしら」
ふふふと、笑顔で田口が二人をソファに促した。
「流くんとは、中高一貫校で一緒だったの。成績で、一位と二位を競ったライバル同士」
「競ってはいないだろう。僕は、常に二位だった」
「流くんがいたから、頑張れたのよ。一人だったらサボってたわ」
流博士は残念イケメンだが、頭脳はとびっきり優秀だ。その流博士が一度も勝てなかったとは、相当優秀な学生だったのだろう。
「田口くんは、生徒会長もしてたろ。僕とは全然違うよ」
「流くんは、いつも一人で本ばかり読んでたからね」
いかにも、流博士らしい。
「でも、流くんは、女の子に人気あったじゃない」
「へー、流博士、もててたんだー」
「でも、流くんは、ぜんぜん女の子には興味見せなかったけどね」
「その頃から、潔癖症だったんですか?」
愛子の質問に、二人が黙り込んだ。
「流くん、まだ、苦しんでるんだ」
田口が、流博士の目を覗き込んだ。流博士が目をそらす。
「もう、十年以上経つけど、まだ辛い?」
「別に辛くはないけど、なんというか、トラウマになっちゃってるのかな」
「私が、もうちょっと早く気がついてたら、ごめんね」
「何を言ってるんだ、田口くんのせいじゃない。それどころか、田口くんがいなかったら、もっと酷いことになってた。田口くんには感謝しかないよ」
何か深い事情がありそうだが、聞ける雰囲気ではなかった。
「ごめんなさいね、昔話が長くなっちゃって」
「いえ」
「今日来てもらったのは、流くんと話をするためじゃなくて、ミカさんに折り入って頼みがあるの」
「私にですか? なにかイベントの手伝いでしょうか?」
「ううん、もっと個人的なことなの。流くんには話してあるんだけど、あなたたちなら信用できるわね」
「そんな、初対面で、まだ会ってすぐですし」
「人を見る目には自信があるの。そうじゃなきゃ、この地位までは登れないわ」
鋭い眼光がミカを射貫いた。実力に裏づいた自信が、その目には宿っている。
「人間そっくりのアクトノイド。そして、それを操る優秀な、アクトノイド・パフォーマー、あなたに演じてほしいのは、”
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