なにが告朔こくさく餼羊きようだ。


 昨晩のこともあって、蒼介たちは日を繰り上げて帰ることになった。父さんは母さんを迎えに行っていて、今はエンジンが掛かる車の中で蒼介ひとり。昨晩から降り続く細雪は、すでに積もった真っ白な雪景色の中へ、ぽつりぽつりと溶けていく。


 古い習慣なんて、全部やめちゃえば良いのに。……やめちゃえば、僕が死ぬことなんてないのに。


 昨晩、静子さんと薫の話を盗み聞きしてから、蒼介の心には分厚い雲が掛かっていた。

 薫たちの家族はに誘われて死んだのか?弱冠11才の少年にとって、「死」は非現実で不透明ながらも、禍々しく心にのし掛かる。何を考えようとしても、二の次は「死」の闇が顔を覗かせる。


 父さんたちはまだかな?

 ある種の憂鬱な気持ちを抱えながら、蒼介は少し効きすぎた暖房を抑えようと、後部座席から運転席へ手を伸ばしたその時――


「おーい、おい。おーい、おい」


 ぴたりと手が止まる。

 嘘だ――昼間なのに。もうすぐ帰れるのに。


 耳を塞いでも、その声は頭まで届く。本当は聞こえていないのかもしれないが、何事も忘れることができない蒼介には、しっかりと聞こえていた。


「おーい、おい。おーい、おい」


 くるな! お願いします。死にたくない、死にたくないよ。


「おーい、おい。おーい、おい」


 その声は、ついに車の前まで来た。しまいには、コツン、コツンと窓ガラスを叩かれる。


 ゆめうつつ――チラリと家に目をやる。あそこまで駆け込めば。父さんや静子さん、薫姉ちゃんがいる!


 鼻水をすすり、意を決す。

 そうしてドアを勢いよく開けて飛び出してみると、目の前にはの、分厚い手編みのニットセーターを着た少女がひとり立っていた。


「おーい、おい」


 少女が手招く。

 その声は昨晩に聞こえたものや頭の中を打つものとは違って、透きとおった無邪気な声だった。

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