6
その夜の出来事だった。
昼間から振りだした雪は、今では吹雪に近いくらだった。風も強く、雨戸をドン、ドドンと、不気味に叩く。
かつて父の部屋だった寝室で、ひとりで寝ていた蒼介は、そんな風音に混じって微かに聞こえてくる声に目が覚めたのだ。
「おーい、おい。おーい、おい」
まるで誰かを呼ぶような、誰かを探しているような。今にも消えてしまいそうなか細い声。
「おーい、おい。おーい、おい」
やがて、蒼介はその声に誘われるようにして布団から出ると、眠気眼のまま寝室の襖を開けた。廊下には、
「おーい、おい。おーい、おい」
廊下の奥からだ。
確か、あそこは――
蒼介は電気をつけることも忘れ、廊下の壁伝いに声のする方へゆっくりと歩いていく。
「おーい、おい。おーい、おい」
声が大きい。
近づいている。
蒼介はより慎重になって、冷たい木の廊下を
誰だろう? 時計は見てないけれど、きっと12時は回っているはず。
やがて、廊下の突き当たりの、とある部屋の前まで来た。
「おーい、おい。おーい、おい」
いよいよ、その声の主がこの部屋の中にいるのだと分かるくらい、はっきりと聞こえた。
固い唾を飲む。
襖の奥は、ずっと眠ったままの母がいる部屋だ。
まさか、お母さんが……
蒼介はそっと、それでいてサッと襖を開ける。
畳の部屋の中央には、ベッドが1台。しかし、そこに母の姿がない。
ガタンガタンと、強風が雨戸を叩く。無人のベッド脇にある点滴立てが、ぬめりと揺れた。
見えた。蒼介は見てしまった。
その点滴立てのすぐ隣。
母ではない。
直感で分かった。
この世の者ではない、お化けなのだ、と。
そして、それは、「おーい、おい。おーい、おい」と手招き――
気がつけば、蒼介は一目散に自分の部屋へ駆け込んでいた。頭から布団を被る。雨戸が揺れるように、蒼介もガチガチと震えた。
時々、頭の中で「おーい、おい」と声がした。それから、頭にへばりついたその声を聞きながら、気がつけば朝を迎えていたのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます