13番目の転移者、異世界で神を目指す スキル【アイテム増殖】を手に入れた僕は最強装備片手に異世界を満喫する

まるせい/DRAGON NOVELS

女の子の半分はスイーツで出来ている


 ―コンコンコン―


 宿の部屋で寛いでいるとノックの音がした。


「どうぞ」


 僕が許可をするとドアが開く。


「お客様、少々宜しいでしょうか?」


 入ってきたのはステラちゃん。この宿の娘さんで、悪人面の父親とは似ても似つかぬ可愛い女の子だ。


「ああ。ベッドメイクの時間だったっけ?」


 給仕服の彼女の仕事は宿に泊まる客の世話だ。毎日こうしてベッドシーツを交換してくれるお陰で快適な睡眠がとれる。

 普段ならシーツの交換を終えたら出ていくステラちゃんなのだが、今日は何故かその場にとどまっている。


 僕が不思議に思っていると、ステラちゃんは振り返り僕の目を見るとこう言った。


「実はお願いしたいことがあるんです」


 ★


「それで、ここが来たかった場所なの?」


 後日、僕らはある場所に来ている。ステラちゃんのお願いというのはこの場所に一緒して欲しいというものだった。


「そうなんですよ」


 いかにもお洒落な空間を意識しているようで、オープンな造りのその店は、ガラス張りのお陰で外からでも中の様子が見て取れる。

 中にいるのはほとんどが男女のペアで、時折思い出したかのように女のペアがいる程度。

 男だけでの入店は勇気がいる雰囲気だ。


「なんだか場違いな気がしてならない……」


 そんな言葉を僕は発する。それを怖気づいたと思ったのか、


「良いじゃないです」


 そう言うと彼女は僕の手を引いて店内へと入っていくのだった。


 ★


「それで、わざわざ行きたい場所があるっていうからきたわけだけど」


 まさかこのような甘い空間だとは思っていなかった。


「その、御迷惑でしたか?」


「いや。そんなことはないけど」


 迷惑というより、違和感の方が強い。何せ、僕と彼女は宿の客と従業員だ。長期滞在しているからそれなりに話をするのだが、その線引きはできていたはず。

 僕の訝しむ視線を受けるとステラちゃんはパチクリとまばたきをすると。


「実はですね……」


 その形の良い桃色の唇が気になる。彼女は周囲を見渡すと顔を近づけてくる。

 なるほど、その仕草だけで理解した。恐らくだが僕はいつの間にか鈍感系主人公に成り下がっていたのだろう。


 無意味に見えるこの距離の詰め方はラブコメにありがちな個人のパーソナルスペースを埋める前置きだろう。

 彼女はここで僕に好意を伝えるつもりに違いない。そうなると色々と困る事もあるのだが、女の子に恥を掻かせるのは良くない。ドキドキしながら待っていると彼女は唇を耳に寄せると囁いた。


「最近できたこの店にうちのカップル客がとられてるみたいで、父からそれとなくスパイしてくるように言われたんですよ」


「………………」


「お客様?」


 しばらく僕は呆けた後で言った。


「ああ、うん。分かってる」


 その言葉にステラちゃんは小首を傾げると、微妙な間の意味が解らなかったらしく笑顔で誤魔かすと、


「なので、ここの払いは私が持ちますので、じゃんじゃん頼んでください」


 ★


「結構食べたな」


 目の前には食べ終わった後の皿が多数重なっている。

 あれから僕らは様々な料理を注文しては食べ続けたのだ。

 料理を頼んでは一口食べて僕へとまわしてくる。ステラちゃんは真剣な表情で何かをぶつぶつと呟いては俯いて身体をゆさゆさと揺らしている。

 その姿を正面からみた僕は彼女の身体の一部が良く揺れるのを確認しながら料理を食べていく。正直もうお腹一杯なんだけど……これ以上無理だからね。


「うーん。味だけなら家の方が上なんですけどね、値段も特にそれ程差が無いのに」


 実際、毎日宿で食事を摂っている僕の評価でも、おっさんが作る料理の方が上だと思う。何故客を取られているのか解らない。

 そんなことを考えていると、


「何かございましたでしょうか?」


 綺麗な店員さんが声を掛けてきた。


「い、いえ……えっと……」


 こういう時咄嗟に言葉が出ないのか、スパイをしている手前気まずいのか、ステラちゃんは慌てている。なので――


「随分と繁盛しているレストランだなって思って」


 かわりに僕が相手をすることにした。 店員さんは僕の言葉に笑顔を浮かべると、


「お陰様で。最近はお客さんも増える一方です」


「へぇ……なにかコツでもあるんですか?」


 どうせなので好奇心で聞くふりをしてみる。ステラちゃんが羨望の眼差しを向けてきてくれた。


「恐らく、特別メニューが目当ての方が多いのだと思います」


「特別メニュー!?」


 目の色が変わったステラちゃん。


「ええ。こちら、カップル限定のメニューがありまして。とてもお得な内容なので利用者が多いのです」


「そ、それ見せて貰えませんか?」


 焦る様子のステラちゃんに、


「生憎ですがカップル限定なもので」


 こればかりは仕方ないだろう。先程からいるカップル達はこのメニューを目当てにきているのだ。

 僕らみたいに宿の従業員とお客という組み合わせではあり付けなくても仕方ない。


 これは相手が一枚上手だなと僕が思っているとステラちゃんは何を思ったのか、


「私とこの人もカップルです。お付き合いしてますからっ!」


 店員さんに対しなにやら妄言をのたまいはじめた。


「えっと、ですが……」


「なんですかっ?」


 戸惑う店員さんは値踏みするように僕らを見ると、


「その、お二人の関係がまるで何処かのレストランの従業員同士がスパイをするために来ているような感じなので」


 そういうと目が細くなる。完全にバレてるじゃないか。

 僕が寒気を覚えていると、


「だ、大丈夫ですっ! ら、ラブラブですから」


 そう言って隣に座ってくる。ラブラブっぷりをアピールするつもりなのか腕を抱えてくるので、先程から揺れていた胸の感触を腕に感じる。


「す、ステラちゃん?」


 顔を真っ赤にしている彼女に話しかけるのだが。


「うう。恥ずかしいよぉ……でも、こうしなきゃ……」


 どうやら相当無理をしているらしい。

 だが、そんな彼女の自己犠牲が実を結んだのか、


「なるほど、カップルのようですね、では特別メニューをお持ちします」


 店員さんは騙されたようで、カップル用のメニューを持ってくるのだった。


 ★


「へぇ~。色々あるんですね」


 感心しながらメニューを見るステラちゃん。

 僕に密着するようにしていちゃついてるようにみせるのだが、膝にメモを置いてなにやら記入している。

 どうやら先程からやたらと揺れていたのはこの行動らしい。


 僕はそんなステラちゃんを見ているのだが、


「すいませーん。このカップル特製フルーツジャンボパフェと特製パンケーキをお願いしま――」


 咄嗟に僕は彼女の口を塞ぐ。


「はい。御注文でしょうか?」


「いえ、ちょっと待ってください」


 何せ、僕はこれまでの料理でお腹がいっぱいなのだ。ここで頼んで残すような真似をするとスパイだとバレる。

 彼女を羽交い絞めにしてそれを阻止するのは当然だろう。


「このカップル特製パフェって変わった料理ですね」


 なので、僕は写真を見せると店員さんに話掛ける。


「わかります? 最近、帝国で開発された一定の温度下を保つ魔道具があるんですよ。それを使って作るんですけどアイスクリームと果物と生クリームをふんだんに使う甘味で、うちの目玉賞品なんですよ」


 知っている。以前に、とある事情があって僕も多量の魔力を使ってアイスクリームを作った事があるのだ。


「へえ。そんな魔道具があるんだ……」


 あの時はとにかく精霊にお願いして手動でやったのだが、こちらの世界の食に対する熱意をあなどっていたのかもしれないな。便利な魔道具もあったものだ。


「それがこちらの魔道具になります」


 自慢したかったからなのか、店員さんはわざわざ持ってきてくれた。

 僕はその魔道具に右手で触れてみる。


「なるほど、これを使ってアイスクリームを作るんですね」


 そして右手を引っ込めた。


「そっ、それよりも注文を――」


 口を塞ぐ手が離れたことでステラちゃんが再度あがき始める。このままでは止まらないと確信した僕は――


「実はこの子は僕の妹なんで、カップルメニューは頼めないですよね」


 先手を打って封殺するのだった。


 ★


「ふう。退屈だ」


 溜息が漏れる。

 先日、ステラちゃんを封殺した僕は、彼女の機嫌を大きく損ねた。

 お陰で宿に居辛かった僕は、こうして他の場所でくつろいでいるのだが……。


「ねえねえトード君」


 話しかけてきたのは肩まで届く鮮やかな赤髪にルビーの瞳。白のドレスに青いマントを身に着けた人物。


「なんですか? 師匠」


 僕の魔法の師匠にしてあり得ない程の美貌を持つ錬金術師のエレーヌだ。


「暇なら私とデートしようよ」


 エレーヌは僕の発言を聞き取ったのか、そんな提案をしてくる。


「……ふむ。デートですか」


「ありゃ? あんまり乗り気じゃない?」


 そんな僕の態度にエレーヌはつぶらな瞳を向けてくるのだが……。


「それで、何処のダンジョンに付き合えばいいんですか?」


 以前、彼女に「一緒にお出掛けしたいな」と言うニュアンスで声をかけられたことがある。

 デートの誘いだろうと思った僕はドキドキと眠れぬ夜を過ごしたのだが、当日になり連れて行かれたのは山脈だった。


 なんでも、錬金術に使う為の鉱石が足りないらしく、手伝って欲しかったらしい。

 デートだと思い込んでおめかししてしまった僕にとっては苦い思い出である。


「くすくす。デートだって言ってるのにダンジョンだなんて。トード君って変わってるよね」


 エレーヌならよもやと思ったので聞いてみたのだが、ご機嫌なようだ。

 幾分納得のいかない気分にさせられたものの、今回はどうやら言葉通りの意味で間違いないらしい。


「それで。どうかな、デートしてくれる?」


 気を取り直すと太陽のような笑みで誘いを掛けてくる彼女に対して僕は、


「……まあいいですけど」


 ぶっきらぼうに答えるのだった。


 ★


「それでね、この店にきてみたかったんだ」


 現在、僕らはとある店の前に来ていた。


「へ、へぇー。ソーナンデスカー」


 外から見えるガラス張りの店内。来客のほとんどがカップルと言う偏りっぷり。

 そう。ここは先日ステラちゃんに連れてこられた店だったのだ。


「なんでも、最近人気らしくてさ。前に作ってくれたアイスクリームもあるんだって」


 以前、口にしたことで気に入ったのか、エレーヌはアイスクリームに目が無いようだ。


「えっと、それはそうと、違う店にしませんか?」


 流石にこれは不味い。あの店員に見つかりでもしたら……。


「良いから行くよ。師匠命令だよ」


 僕の言葉は通じる事無く、エレーヌに手を引かれると中へと入っていった。


 ★


「メニューが豊富で楽しいね」


 あれから、店内に案内された。

 エレーヌは何故か僕の隣に座るとグイグイと身体を押し付けてくる。


 店に入ってしまったからには仕方ない、最悪このまま普通のメニューから選べば問題無い。そう考えていると


「いらっしゃいませ。あらっ?」


 先日の店員さんが注文を取りにきたのだ。


「お客様……こんな短期間で利用されるということはもしかしてスパイ……」


 目が細くなる。いかん、このままでは殺られる。


「ち、違う。前回は色々あったから今回は。か、彼女を連れてきたんだよっ」


 そう言って隣に座るエレーヌを指差す。


「ふぇっ!? か、彼女っ!?」


 顔を真っ赤にしたエレーヌ。もじもじとすると上目遣いに視線を合わせてくる。

 この場凌ぎの嘘なのだが、どうにか否定しないでくれた。


「なるほど、そういうことでしたか。ではカップル用のメニューをお持ちしますね」


 店員さんの笑顔が戻る。何故だろう。一つも悪い事をしていないのに謝ってしまいそうになる。


 ★


「カップル限定特製ジャンボパフェお待ちです」


 しばらくして運ばれてきたのは大きなパフェだった。


「凄い……」


 エレーヌが驚いている。僕はそのパフェを観察すると、


「あれ。スプーンが一つしかないよ」


 エレーヌが何かに気付いたように質問をした。


「はい。カップル限定のメニューは全て一つの食器で食べて頂いてます」


「なん……だ……と……?」


 その言葉に僕が固まると。


「それとも、カップルと言うのは偽りで、実はスパイだったり……」


 そういうと店員さんの目が細まる。うん、こわいからやめてくれ。


 追い詰められた僕はスプーンを手に取るとパフェを掬う。そして――


「はい。エレーヌ。あーんして」


 ひきつった笑みを浮かべるとエレーヌへと差し出した。


「呼び捨てっ、あ、あーん? ち、近いっ!」


 一瞬で多くの情報が入ったのか混乱するエレーヌだったのだが。


「えと、えっと……はむっ!」


 結果的に受け入れてくれたようだ。


「ど、どう? 美味しかった?」


 気まずいので聞いてみる。


「わ、わかんない」


 美味しい物が大好きなエレーヌらしからぬ返答だった。


「つ、次は私が食べさせてあげるっ」


 動揺しているのか、エレーヌはスプーンをひったくるとパフェに突っ込むそして、


「ト、トードくん。あーん」


 上目遣いに見上げながらスプーンを差し出される。瞳が潤んでいて可憐な唇が艶めかしい。

 僕は無意識の内に口をあけていたようで、


「んぐ」


「ど、どう?」


 エレーヌが至近距離から目元を潤ませて聞いてくる、彼女の吐息からはパフェの香りが漂ってくるので、


「あ、甘いよ」


 これは確かに味が分からなくなるね。僕らは顔を熱くするとお互いに目を逸らした。


 ★



「昨日は大変だった」


 帰り際に店員さんに呼び止められ、「あなた達のイチャイチャぷりは確かに本物でした。スパイと疑ってすいません」と謝られたのだ。

 お陰でこうして平穏を享受しているのだが……。


「トードさん」


 ノックと共に入ってきたのは白い肌に腰まで届く滑らかな金髪。耳まで覆い隠す帽子を身に着けた妖精のような美少女。


「シンシアか」


 僕の精霊魔法の師匠で、僕がもっとも保護欲を刺激される女の子だ。今日は特に用事がなかったはず。シンシアは本が好きなようで、何もなければ家に籠って読書をするのが習慣なのだが。


「付き合って欲しい。です」


 その願いに僕は二もなくうなずいた。


 ★


「それでここなのか……」


 外から見える店内の雰囲気に、カップル率100%の店内。

 もう説明する必要もないと思うが、僕は三度この店を訪れることになった。


 だが、ここで日ごろの行いが生きてくる。

 シンシアはエレーヌやステラちゃんと違って僕のいうことには基本従順なのだ。


 これまでも様々なお願いをしても断られたことがない。なので――


「ねえ。シンシア他の店に――」


「ここがいいです」


 突然の反抗期。何故なのか……。

 僕は三度手を引かれると店へと入っていく。


 ★


「いらっしゃ――へぇ……」


 のっけから目を細める店員さん。彼女からこの視線を貰うのも実に三日目になる。


「お客様。そちらは?」


 接客を思い出したのか笑顔で接してくる。

 他の客がやっているせいか、シンシアは迷うことなく僕の隣に座ると腕に抱き着いてきたのだ。


「えっと、これはだね……」


 彼女と言う肩書は既に使っている。だが、この状況は否定しようにも苦しい。


「彼女は僕が尊敬する大切な存在です」


 考えが纏まらない内に言葉が出てしまう。本心なので割と恥ずかしい。

 だが、店員さんはその言葉に納得したのか、


「……なるほど。メニューをお持ちします」


 カップル用のメニューを持ってきてくれた。


 ★


「お待たせしました。カップル特製パンケーキです」


 はちみつと生クリームにチョコレートがたっぷりかかったパンケーキがおかれる。

 例によって置かれた食器はフォークとナイフが一つずつ。


 僕は少しの間それを観察すると。


「えっとだね、シンシア」


 僕が話しかけるとシンシアは純粋な瞳で見上げてくる。


「ここのルールで食器は一組にひとつだけなんだ」


 まさか、カップルとしてのことを言うわけにもいかず、これで通じるかと思って話すが、


「知ってる。です」


「えっ。なんで?」


 シンシアから聞こえた言葉に僕は聞き返すと


「先日、エレーヌさんが自慢しにきたから。です」


 なるほど、どうにもシンシアが頑固だとおもったらエレーヌのせいか。

 彼女たちは何故か競い合うようなところがあるのだ。


「じゃ、じゃあ食べさせてあげるね」


 パンケーキを切り分けてシンシアの口元へと運ぶ。

 彼女はひな鳥のように口をあけると目を閉じる。


「んっ。美味しい。です」


 もにゅもにゅと動くと、幸せそうに食べていた。


「トードさん(そのパンケーキを)もっとください」


 目を潤ませて欲しがるシンシア。僕はごくりと息を飲むと、その艶やかな唇に吸い寄せられるように次々とパンケーキを食べさせるのだった。


 ★


「凄く美味しかった。です」


 トロンと蕩けたような幸せな顔をするシンシア。この姿を他に見せたら戦争が起こる。

 僕がこの笑顔を人目に触れない場所に持って行って永久保存すべきか真剣に検討していると――


「いかがでしたか?」


 例の店員さんが偵察にきた。


「ええ。美味しかったですよ。見たところ、特別な材料でも使ってるんですかね? 味わいが高級というか」


「ふふふ。わかりますか。そうなんです。実は蜜に秘密があるんですよ」


「ほう。というと?」


「使われたのは帝国に生息するキラービーのハチミツなんですよ」


 聞いたことがあるモンスターだ。単体でのランクはDなのだが、常に集団で行動しているので討伐難易度自体はB。

 ただ倒すのではない、巣を破壊しない様に気を使いながら倒す。余程の実力者でなければできない依頼だろう。


「帝国でキラービーの巣に多額の依頼料を払って確保したのがこれなんです」


 そう言って差し出してきたのは蜜が入った小瓶だ。僕はそれに右手で触れると聞いてみる。


「僕も帝国には何度か行商に行ってるけど見たことないですね」


「当然です。キラービーの蜜を仕入れられるのは帝国でも一部の商人だけですからね。市場に流通してませんから」


「なるほど、だからあっさりと教えてくれるわけですか」


 僕の言葉を聞くと店員さんはニッコリとほほ笑むと。


「真似しようと思っても簡単にできるようなものではありませんからね」


 なるほど、自分のところにしかない高級食材。確かにこれはリピーターが増えるのは間違いない。


 僕は納得すると店を後にするのだった。


 ★


「おーいステラちゃん」


「……なんですか?」


 僕が話しかけるとステラちゃんは相変わらず不機嫌そうに返事をしてくる。

 完全に無視を決め込まないのは彼女の優しい性格では無理なのだろう。


「取り合えずこれ見てよ」


 僕はそう言うとテーブルの上に二つのお菓子を用意した。


「えっ! 嘘っ! これって……」


「うん。あの店のレシピの再現だよ」


 目の前には先日食べたパフェとパンケーキがおかれている。


「一体どうして……」


 作ったの僕ではない。


「食べたかったみたいだからさ。厳密に言うと同じ味では無いかもしれないけどね」


 僕の能力である【アイテム増殖】のスキルは右手で触った物を増やすことができる。

 僕はこの能力でアイスクリームを作る魔道具とキラービーのハチミツを増やして見せた。そして、神の瞳でレシピを入手したのでそれらを纏めてステラちゃんの父親であるところのおっさんに渡したのだ。


「ほ、本当にこれ食べて良いんですか?」


 ステラちゃんの興味がパフェとパンケーキへと向く。

 本当はおっさんから渡してもらおうと思ったのだが、おっさんが「坊主から渡した方がステラも喜ぶ」と言うのでこうしてるのだが、中々手を付けてくれない。


「勿論だよ。ステラちゃんの為に用意したんだから食べてもらわないと意味無いし」


 その一言でステラちゃんはパフェとパンケーキを幸せそうに食べ始めた。


 ★


「幸せな味でした」


 食べ終えると放心したような顔をする。これほど喜んでもらえたのなら僕も用意した甲斐があったというものだ。


「やっぱりステラちゃんも女の子なんだね」


 ここにきて僕はようやく不機嫌の原因を知ることができた。


「えっ。どういうことですか?」


「甘い物が嫌いな女の子はいないってことだよ」


 彼女は何も、スパイ目的だけであの店にいったのではないのだ。純粋に甘味を食べてみたいと思って注文をしようとしたに違いない。

 それなのに、僕の判断でそれを取り上げられたから怒っていたのだ。


「は、はぁ……」


 戸惑いを浮かべるステラちゃんだったのだが。


「でも、これで相手の店の全容は暴けました。これならお客さんは取り返せますね」


「ん。ん?」


 不敵に笑うステラちゃん。どうやらまたしても読み間違っていたようだ。彼女が何に怒っていたのか皆目見当がつかなくなった僕だったのだが、


「そうだ。お客様に一つだけ宣言しておきます」


「な、何かな?」


 彼女は小悪魔めいた笑顔を僕に見せると唇を耳元に寄せると、


「次は妹だなんて言わせませんからね」


 そう意味深に呟くと上機嫌で去っていくのだった。




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