第十四階 不遇ソーサラー、毒キノコを採取する


「しっ、心配したんだよ、ソフィア……」

「ごっ、ごめんなさい。マスター……」


 早速俺はソフィアとして宗教団体のアジトに行ったんだが、いきなり教祖のルーサに抱き付かれて鳥肌が立つ。思い切り突き飛ばしたい衝動に駆られるが復讐のためには我慢だ……。


「心配したのですよ、ソフィアさん」

「ホント! どうしたの?」

「どうしたというのだ」


 三馬鹿のやつ、点数稼ぎかわざとらしく涙を浮かべてる。見てろ、ソフィアと同じようにたっぷり痛みを覚えさせたあとで惨殺してやるからな。


「急にトイレに行きたくなって。でも、狩り中に抜けたことで怒られるのが怖くて……衝動的にギルドまで抜けてしまったんです……」


 やつらに背中を向けて肩を震わせてみたが、どうも上手くいかない。涙も一切出てこないので唾を目元に塗りたくって芝居する。


「う、うう……」

「ソフィア、泣くことはないよ。そういうこともある。どんな恥をかこうとあの無能にはかなわないさ……」

「そうですよ。恥じることはありません。あのクアゼルとかいうゴミクズみたいに人前で漏らすのは終わっていますが」

「そーそー! でも、あの間抜けに比べたらみんなマシになっちゃうからフォローになってないかも!?」

「まったくだ。あの愚図以下の愚図なんて探すほうが難しい」

「ですよ……ね」


 俺はごく自然に震えることができるようになっていた。怒りでだが。


 ギルド情報ではメンバーの固有スキルを見ることはできない。だが、パーティー情報ではバレる。ぐずぐずしていればいつか必ず尻尾を掴まれてしまうだろう。だから迅速な行動が肝要だ。


 俺は再びギルドに登録して剥がしやすいようにエンブレムを手の甲につけたあと、少し二人きりでお話したいことがありますと教祖に耳打ちをして町へ買い物に出かけることにした。これで俺が帰ってくる頃には、あいつはスケベ心丸出しでアジトから三馬鹿を追い出しているはずだ。




 ◆◆◆




「マスター、私の格好を見てください。勝手にギルドを抜けてしまったことの反省をこめて、こういう姿になりました」


 やはり三馬鹿が消えていた宗教団体のアジト内、帰還した俺はもう少しで乳首が見えそうな際どい服を着こんでいた。腰布にしても、外からお尻がよく見えるようになるべく刺激的なものを選んだ。


「お、おおぉ……」


 教祖のやつ、すげー鼻の下伸ばしながら近寄ってきて気味悪い。


「ソフィア、確かによく反省している。その調子だ……」

「ひうっ……」


 汚い手でお尻をべたべたと撫でられて思わず杖を握りしめた。我慢、我慢だ……。


「だが、まだ足りない、何かが……」

「な、何か?」

「洗礼というやつかな……思うに本当に反省するためには、体内のものを一度清める必要があると僕は思っている……」


 性欲丸出しだなこの猿……いや、教祖か。だがこれでやりやすくなった。現在進行形で下半身だけでなく頭のほうにも精子がどんどん駆け上げっているところだろう。


「はい、マスター。私は今すぐにでも罰を受けたいんですが、良かったら、ダンジョンで……」

「ソフィア、そこまでしなくても……」

「そうでもしないと、私の気が収まりません」

「わ、わかった。君がそこまで言うなら……」


 本当はもっと怪しむべきなんだが、脳を精子に支配されてしまえばこんなものだ。


 早速二人でダンジョンに向かったんだが終始隣でニヤニヤしてるのが見えて本当に吐き気がした。ねっとりとしたネバつくような視線が体中に絡みついてくる感覚。俺は久々に恐怖も感じていて足が震えた。それが受けたらしくて、耳元で痛くしないから怖がらないでと囁かれながらお尻を優しく撫でられて倒れそうになった。


 不愉快ではあるがなるべくスケベな気分に浸からせておく必要がある。なのでパーティー登録も思い出したようにダンジョン前で行った。連絡しておいたエリナが後ろからついてくるのがわかる。当然だが俺のジョブはウィザードだ。慎重に、残虐ショーの直前にジョブを変更するようにしている。


 それと、できるだけ敵が弱いところにしたかった。というのも、強い敵がいるところだと教祖がこっちのスキル構成を確認してくる恐れがあるからだ。


 ダンジョンの地下二階層、いわゆるゾンビとスケルトンだらけの場所を選択する。キノコも生えてる陰気臭い場所だが、聖職者にしてみたらこれほどゆるふわな場所もないだろう。地下三階層も緩いっちゃ緩いんだがヘルワードっていう本がいるからな。あれ今でも当たったら100くらいLEPを削られるし結構痛いんだ。


「――エクソシスム!」


 隅っこで発動した怪しげな光がアンデッドたちを昇天へと導く。いやいくらなんでもオーバーキルだろうこれは。それに教祖のやつ、やたらと息が荒いな。色んな所から汗が噴き出てそうだ。どうやらモンスター同様に逝く準備が整っているらしい。


「ソフィア、邪魔者は片付いたからそろそろ……」

「ちょっと待って」

「ソフィア?」


【効果2倍】のおかげでもあるんだろうがエクソシスムの時間、結構長かった。早く昇天させてやりたいがこれを計るために一度目は我慢して様子を見たんだ。こいつをやっつけるにはまずギルドとパーティーを抜けなければならず、このままだとこっちがエクソシスムで被害を受けてしまうからな。


 にモンスターに邪魔されたくないからだそうだが、効果時間さえ気を付ければ隙だらけだからちょうどいい。


「ほら、あそこにモンスターの塊が。もしあれが……最中に来ちゃったら……」


 俺が指差すと、エリナがわざとらしくゾンビたちから逃げる振りをしてこっちに走ってくる。


「あの子、新参かな……可愛いな……」


 こいつ……本当に何度殺しても飽き足りないくらいだな。


「た、助けてー」

「任せろ! ――あ、君の名は!?」

「ど、どうもありがとうよ! ふん!」


 エリナ、名前を言わなくてよかった。この男に知られるだけでも嫌だからな。


「はあ。今度見つけたら無理矢理にでも勧誘しよう。ソフィアも頼むよ。あの子、僕の伝統のあるギルドにぴったりだって思うんだ……」


 何が伝統のあるギルドだよ。面接なんかしてるが性別と見た目だけで判断してるくせに。


「エクソシスム!」


 さあ、いよいよ二回目の残虐ショーの始まりだ。アンデッドたちが一足先にとお別れしていく。次はお前の番だ、性欲猿こと教祖ルーサ。


 よし、そろそろだな。スキルレベルの高いエクソシスムには劣るが、こっちのスキルも効果時間は伸びているんだ。途中からであれば負けはしない。即座にマジックフォンでジョブを付け替える。


「さあ、ソフィア、そろそろ――」


 ズボンとパンツを一気に下ろして下半身丸出しになる教祖。こいつ何やってんだ?


「――エレメンタルプロテクター!」

「え?」


 さらにパーティーから離脱してギルドのエンブレムも剥がす。これで完全フリーだ。


「ベナムウェーブ――マジックエナジーロッド!」


 屹立した股間目がけて、下から弧を描くように振り上げたアークワンドが唸る。


「――もぎっ?」


 ぶら下がっている袋ごと潰してやった。しばらくわけがわからなそうだったが、なくなったものに気付くとケツを天に突き出した形で気絶した。これで終わると思うな。キノコを刈りやすいように蹴って仰向けにしてやる。お前をこんな風にしてしまった毒を取ってやるんだ。ありがたく思え。


「エリナ!」

「わ、わかってるわよ! リザレクション!」


 エリナ、顔を真っ赤にしてどうしちゃったんだ。どんどん生えてくる汚い毒キノコをただ潰していくだけのお仕事なのに。でもやたらと面白い悲鳴上げるから飽きない。ぽぎぇええええっ、ぽぎゃああああっ、だってさ。


 リザキノコが終わったところで両手両足潰して達磨にしてやると、エリナのヒールで意識を呼び戻した。


「だず、けて……」

「あ?」

「ソフィア、なじぇ……」

「お前、ホントバカだな。俺がソフィアだってまだ思ってるのか」

「え……」


 マジックフォンを取り出して俺の固有スキルを見せつけてやる。


「ほら、覚えてるだろ。お前らが散々バカにしたあの【空欄】野郎だよ」

「え」

「クアゼルだよ。あの【空欄】ってさ、【転生】だったんだよ」


 達磨教祖が大きく息を吸い出すのがわかる。ようやく思い出したようだ。


「謝れよ」


 達磨教祖の頭に足を置いてやる。あのときのミイラと俺の気持ちが少しはわかったか。


「ごめんなしゃい」

「お前、ふざけてるだろ。それで許すと思うのか」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなしゃいごめんしゃいごめんあさい」

「謝り方が全然足りない」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなしゃいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……ひゅうぅ……」

「一回ごめんなしゃいとか言ったな。やり直し」

「しょ、しょんな……」

「冗談だよ。よし許そう」

「クアゼル様、ありがとうございます……」

「やっぱ許すのやめた」

「え」


 え、だって。謝ったら許してもらえるって本当に思ってたのか。


「この程度の謝罪であっさり許すわけないだろ? そういやお前、よく無能とか言ってたけど、それは誰のことだ?」

「ぼ、僕です」

「僕って?」

「ルーサです!」

「じゃあ、無能に生まれてきたことを悔やむんだな」

「たた、助けて……もう二度とクアゼル様には歯向かいませんから……」

「本当だな?」

「はい!」


 仕方ない。ここまで言うなら俺も男だ。チャンスをあげよう。


「エリナ、リザレクションだ」

「え、またなの!?」

「ただのリザだよ」

「それならいいけど!」


 ルーサの股間だけじゃなく、手足も元に戻っていく。全裸であること以外は元通りだ。


「これに懲りて冒険者を辞めることだ。じゃあな。襲い掛かるのはやめとけよ。お前は絶対に俺には勝てない。ベナムウェーブ――マジックエナジーロッド!」


 ルーサに背を向けて歩き出す。手の代わりに杖を振ってやった。


「――かかったな無能おおっ! エクソ――」


 なんだ? ぐしゃっという音がして振り返るとルーサが片足の状態で転がっていた。あーあ。こんなことにならないように【先行入力】って固有スキルをちゃんと見せてあげただろう。ヒントもあげたのになんでわからないんだ。こんな単純な罠に引っ掛かるなんてな。ま、仮に回り込んでも同じ結果だったが。片足で済んで運がよかったと思わなきゃ。


「無能って誰のことだ?」

「はい、僕のことでしゅ……」

「そうか、じゃあもう一回リザキノコするかな。毒を出しきってあげないと」

「やべて……それだけは……」

「またやりたいってさ。エリナ、頼むよ」

「はいはい! リザレクション!」


 途中でじにたい……とか言うから、後もう一回だけ出血大サービスでリザキノコしてあげた。途中から笑いだして、気味が悪くなったから殺してやったが。俺って優しすぎるのかもしれない。

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