第十二階 不遇ソーサラー、転生の詳細を知る
あれから俺はソフィアの頭を砕いて顔をわからなくした後、マジックフォンを破壊し服もフレイムボルトで燃やして跡形もなくしてやった。残骸は蝙蝠たちの餌になることだろう。
「さて……悪いな、エリナ。復讐は一人でやってくれ」
「えっ?」
最後に俺は自分の頭を砕き、二度目の転生を迎えることにした。
「――うっ……」
気が付くと俺は薄暗い階段にいて、ゆっくりと上っていった。眩い光が飛び込んでくる。まず休憩所で目を慣らすか。お昼前ということもあってか既に賑やかになっている。お、エリナがいるなと思ったらまっすぐこっちに向かってきた。なんだ?
「くっ!?」
いきなり張り手を食らった。今、絶対20くらいLEP減ったぞ。というか俺は別の姿になってるはずなのに、なんでこんな……。
「な、何するんだ、あんた……」
「それはこっちの台詞よ! 裏切り者!」
「え、どういうこと?」
「しらばっくれても無駄よ。来なさい!」
「あっ……」
エリナに腕を引っ張られて連れていかれた場所は女子トイレだった。まさか、俺は女の子に転生したのか。
「鏡見てみなさい! クアゼル!」
なんでバレてるのかと思ったが鏡を見て納得した。死んだはずのソフィアがそこに映っていたからだ。
◆◆◆
名前:ソフィア
年齢:21
性別:女
ジョブ:ウィザード
レベル:35
LEP325/345
MEP952/952
ATK17
DEF14
MATK152
MDEF120
キャパシティ7
固有スキル
【転生】【先行入力】【効果2倍】
パッシブスキル
魔力解放6
アクティブスキル
フレイムリング1
フレイムピラー6
コールドストーム7
アイスマウンテン3
ライトニングアロー4
マジカルアイズ5
まさかあいつの姿として転生するとは思わなかった。正直、これが偶然とは思えない。【転生】の説明欄をもう一回見てみよう。
【転生】
命を落とした際、既にダンジョン内で亡くなっている者を復元させる形で転生することができる。その際は元の体のレベル、記憶、能力等を受け継ぐ。ダンジョンで自分を除く誰かを殺害した場合、それが転生の対象となる。
なんと、新たに説明が追加されていた。未知のスキルだけにわからないことが多いんだろう。しかも壊したはずのマジックフォンや灰になった魔眼の帽子まで復活している。紛失した場合はともかく、所持していた場合は塵さえも蘇生の対象になるってことか。
それにしてもあいつ、厄介なスキルを色々入れてるな。フレイムリングはハイドとかで隠れてるやつを炙り出すスキルだから通り魔に対してかなり警戒してたっぽい。アイスマウンテンで階段を塞がれてたらやばかった。
お、フレイムピラーも入れてたか。しかもスキルレベル6で【効果2倍】だから、もし食らってたら即蒸発してたなあ。
「――いててっ……!」
なんか痛いと思ってたらエリナに頬を抓られていた。
「い、痛いだろ」
「これくらい、私のあのときの精神的ダメージに比べたらマシよ!」
叱ろうと思ったら泣いてるしやり辛い。まああれだけ爽快感を味わえたのもこの子のおかげだし、それに裏切ったのもこっちが悪いしな。これくらいは小娘のやることだと思って許してやるか。
「次は手伝ってもらうからね!」
「いいけど、犯人のめどはついてるのか?」
「う」
「……って、そういや例の通り魔だったか」
「うん……」
通り魔にやられたはずなのになんで生きてるのかってエリナが俺に話しかけてきたんだよな。しかしこりゃまた随分と厄介そうな相手だ。新聞とかで通り魔の記事を見ない日がないくらい頻繁に殺しをやってるのに、未だに捕まらないどころか顔すら目撃されてないやつなんだよな。
「カイルの仇、取れるといいな」
「カイルだけじゃないわ。私のお兄さんもやられてるのよ」
「え……」
「私、早い時期に両親を亡くしてて……お兄さんに育ててもらったようなものなんだけど、最近になって通り魔に殺されちゃって。詳しく調べてみたら被害者はみんな目玉を刳り抜かれてて……カイルもお兄さんもそうだったから同一人物だと思う。でも、どれだけ犯人を探してもいないのよ。襲われやすいように、よく人のいない時間帯にソロでうろうろするんだけど……」
そりゃエリナの固有スキル考えたら襲ってこないだろう。でもそれを知ってるってことはパーティーで組んだ経験があるやつなのかもしれないな。
「エリナってパーティー経験豊富?」
「んー……大体はソロかペア狩りで、パーティーはたまにあるくらいよ。なんで?」
「犯人は以前エリナと組んだやつかもしれないと思ってな。固有スキルが【反射】なのを知ってて襲えないかもしれないし」
「何回か経験はあるけど、覚えてないわよ。てか、パーティー組んでくれる時点でいい人そうだけど……」
「そこが盲点だろ。俺が殺したソフィアもいい人なんだとずっと思ってたよ」
「そうなんだ」
「ああ」
いい人どころか悪魔だったけどな。いい人なんて言葉ほど胡散臭いものはない。
「組んだやつの固有スキルの中で、通り魔に適してるのはなかった?」
「うーん」
思いっ切り悩んでるな。なんか血管浮いてきちゃったし、どっちかっていうと怒ってるみたいだ。
「あの頃はほかの人の固有スキルをじっくり見てられる余裕なんてなかったから。忘れたわよ!」
最後の一言だけでいいな。
「わからないなら協力しようにもできない」
「そ、そうかもだけど……」
納得がいかない様子のエリナ。散々手伝ったのにこれだしな。仕方ないか。
「というわけだ。手伝ってくれて本当に感謝している。相手がわかるまでお別れってことで」
「もしかして、復讐の対象はあのギルド全体なの?」
「もちろんだ。じゃあな」
今更エリナには隠す必要もない。邪魔をしてくるなら殺すだけだ。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
「まだなんかあるのか?」
って……女の子がトイレに入ってきて隠れようとしてしまった。よく考えたら俺女になってるんだよな。少年の姿はともかくこの姿はまだ慣れない。
「ププ……」
エリナ、それがよっぽどおかしかったのか口を押さえてる。今のうちに逃げるか。
「待ちなさい、クアゼル! 犯人がわかるまで、復讐の手伝いしてあげ――」
「――ちょ、お前!」
「もがっ!?」
慌ててエリナの口を塞ぐ。
「第三者がいるときに復讐のことは絶対に口外するな。死にたくなかったらな」
「わかってるから、放して。お願い……」
涙目になってるエリナを解放する。あれだけこき使ったのに、さらに手伝おうとしてくれている。できれば殺したくはない。
「ごめんなさい」
「わかればいいんだ。手伝ってくれるのはありがたいし感謝してるが俺の邪魔だけはするな」
「わ、わかってるわよ!」
また元の調子に戻ってる。わかってんのかな本当に。
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