第十一階 不遇ソーサラー、復讐を実行に移す
めでたく復讐の準備は整った。後は実行に移す日を待つだけ。その条件はこうだ。
ルーサがボス狩りのパーティーに誘われてついていく日。
やはりマスターが側にいるといないのではあいつらのモチベーションも変わってくる。なんせ教祖だからな。モチベが低いときこそが集中力も緩慢になるから狙い目なんだ。
次にソフィアと三馬鹿が単独で行動してくれればいいがそれは期待できない。なのでダンジョンに四人が全員揃っていたとしても決行する。
今回の俺の狙いはあくまでもソフィアだ。
おそらくだが、ウィザードがいる場合は牛エリアの地下四階層で狩りをすることになると思う。ここから俺の残虐ショーはスタートする。
休憩所で待機しているとマジックフォンの魔法陣が輝き、ギルド『九尾の狐』のアジト前にいるエリナから連絡が入る。0213554という発信番号。私の番号に関してはお兄さんここよで覚えてとか言ってたが、この体は今回の復讐までだからな。悪いがそれでエリナとはお別れだ。
『ルーサがギルドから出たわよ』
「1人か?」
『うん』
ギルドメンバーが付いてこないってことはやつの固有スキル【レア運上昇】目当てでボス狩りに誘われたっぽいな。やつは深い階層でソロ狩りができるほど強くはない。
一応確認するため登録所で待っていると、ルーサと見慣れないやつらがぞろぞろ現れ、ダンジョンへと潜っていった。外で待ち合わせしていたようだ。まさかここにいる少年の俺が、お前たちの凄惨なリンチから逃れるべく自殺したクアゼルだとは夢にも思うまい。
適当に数えても8人はいたな。あんなに大人数なのか。ルーサはともかく、最低でもレベル60はないとボス狩りの戦力としては判断されないらしいから中級以上のパーティーだろう。ボスが終わるまでに決着をつけたいところだ。
またエリナから連絡が来て緊張が走る。いよいよか。
『四人、ダンジョンのほうに向かっていったわよ』
「わ、わかった」
『大丈夫? 息が荒いみたいだけど』
「そりゃそうさ。嬉しくて震えてる」
『何よ。自分ばっかり。私も早く復讐したくなってくるじゃない』
「それはこの復讐が終わってからだ。エリナ、急いでこっちに来てくれ」
『まったく。人使い荒いんだから!』
とか言いつつも素直に従ってくれるんだからありがたい。狩りも手伝ってくれたし罪悪感はあるが仕方ない。一応もう一回ステータス欄を確認するか。
名前:カイル
年齢:15
性別:男
ジョブ:ソーサラー
レベル:35
LEP439/439
MEP726/726
ATK19
DEF16
MATK101
MDEF85
キャパシティ7
固有スキル
【転生】【先行入力】
パッシブスキル
ムービングキャスト4
アクティブスキル
マジックエナジーロッド6
エレメンタルプロテクター1
サモンシルフィード1
インビジブルボックス4
ベナムウェーブ6
マジックエナジーストライク1
よし、問題ないな。何度見ても完璧だ。
「――はあ、はあ……」
「エリナ、急ぐぞ」
「ちょ、待ちなさいよ……!」
エリナの手を引っ張ってダンジョンへと急ぐ。
「サモンシルフィード!」
ダンジョンに入り、全身緑色の幼女の精霊を呼び出すと体がふわっと浮くような感覚がした。物凄く体が軽くなった感じがする。おそらくこれが加速だ。
「エリナ、ヘイストとプロテクトを頼む」
「わかってるわよ!」
ヘイストとプロテクトを掛けてもらうことでさらに加速し、モンスターの群れに突っ込んでも防壁によって捕まらなくなった。そのおかげであっという間に目的地の地下四階層に到着する。さすがに何発か命中したらしくプロテクトは途中で切れていたが、モンスターがほぼ駆除されていたのも功を奏した。
まだ朝の8時という時間帯だから冒険者も少なくてモンスターが湧いてることが多いんだが、おそらくボス狩りのパーティーが潰したんだろう。相変わらず蝙蝠だけは放置されていたが。
――やっぱりミノタウロスも片付けられてていないな。急がないといけない。
「エリナ、ミノタウロスをこの階段前まで集めてきてくれ」
「はいはい!」
復讐はタイミングが肝要だ。エリナと逆方向に行ってミノタウロスを次々と誘き寄せていく。どうか、ほかのパーティーが来ませんように。
なるべく集めたいが、途中で自然発生するのもいるので無理はしない。というわけで4匹ほど連れてきたが、飽きたのか方向転換する牛もいてちょっと苛立った。それでも、こういうときのために入れておいたマジックエナジーストライクを当てて怒らせ、呼び寄せた。
エリナも来た。また随分引き連れてきたな。歩くだけで振動が凄い。それでもホーリーアローを当ててどんどん牛丼をおかわりしている。なんか牛だけじゃなくエリナまで怒ってるように見えるのは気のせいか。
地下三階層に戻り、四階層への階段前でエリナと狩りをしているように見せかける。たまにミイラや本をしばき倒すだけのお仕事だ。
「エリナ、怒ってるのか?」
「えっ、怒ってないわよ。見ればわかるでしょ!」
「それで怒ってないのか……」
「えぇ? 私はいつもこんな感じよ?」
やっぱり変な子だ。沸点が低いようで実は高いのかもしれない。
不思議と、こういう緩い狩りをしてるときのほうがむしろ緊張する。ソフィア、とっとと来い。これからミノタウロスたちはどんどん散らばっていくだろうがしばらくはモンスターハウス状態だろう。まだここからでも物凄い振動が伝わってくる。
昔新聞とかテレビで見たが、よくこの手を使って冒険者を轢き殺していた悪党がいた。こういうやり方をモンスタートレインというんだ。これは廃人の狩り方の一つでもある。まさか俺がこの手を使うなんてな。もっとも、あそこでソフィアを殺すためにやるわけじゃないんだが。すぐに死んでもらったら困る。
――来た来た。やつらの姿と話し声が迫ってきて緊張する。
「ねーねー、ソフィア。そろそろ五階行かない?」
「うん。ミノで45になったらね」
「早くマスターのようにボス狩りに行きたいものだ」
「ですねえ。いつかはギルドで行ければいいのですけれど」
ソフィアと三馬鹿の会話が通り過ぎていく。俺たちのほうはちらっと見ただけだった。まあ警戒するとは思えないな。一応、視線を長く合わせるようなことだけは避けたが。それにしてもソフィアのやつどんどんレベルが上がってるっぽいな。やつの【効果2倍】の魔法を食らってしまえばひとたまりもないだろうが、絶対にそうはならない。そのためにここまで準備してきたんだ。
「なんかモンハウが出来てるみたいですね。みなさん気を付けてください」
さすがは三馬鹿の中じゃ抜け目がなさそうなジュナ、モンスターハウス状態であることにすぐ勘付いたか。まあこの振動が既に教えてるようなもんだしな。階段を下りるとあいつらは立ち止まり、そこでジュナが全員にプロテクトとヘイストを掛け始めた。
これが【効果2倍】になっちゃうわけだから嫌になるな。もちろん、そういうこともちゃんと対策はしてあるが。
「エリナ、こっちもヘイストを頼む」
「はいよ、ヘイスト!」
「――サモンシルフィード!」
いつの間にか消えていたシルフィードも呼び戻した。いよいよこれからだ。
「コールドストーム!」
一番最後に通路に入ったソフィアの詠唱が聞こえる。威力だけじゃなくてかなり速いな。本当に凄いよソフィア。尊敬するよソフィア。でもなあ、後ろががら空きなんだよ。
「インビジブルボックス!」
仲間が氷ったミノタウロスを割り始めてソフィアから目を逸らしているであろうタイミングを狙った。階段を颯爽と駆け下り、透明な箱ごとソフィアを拉致する。
「――えっ?」
ソフィアの間抜けな声が実に心地よい。
「エレメンタルプロテクター!」
だが俺は絶対に油断しない。こっちが抱えて移動している状態でも、ソフィア自身が移動していないならソーサラー独自のムービングキャストがなくても魔法系のスキルは使えるんだ。
「ベナムウェーブ!」
地下三階層への階段を駆け上がりながら毒霧を使い、少しでもお前の仲間が来るのを遅らせてやる。さらに【先行入力】でベナムウェーブから媒介したマジックエナジーロッドの軌道を階段前に幾つも作っておく。
ソフィアのやつ、最初は頭が混乱していたようだが、若干落ち着いたのか俺から逃れようと必死に何かを唱えようとしているのがわかる。
おそらくはマジックエナジーストライクかフレイムピラーか。ソフィアはこれらのスキルのいずれかを覚えているはずだ。詠唱が短くて威力の大きいスキルを必ず使おうとしてくる。ギルドに入って集団行動をすれば急ぐ必要も出てくるのでそういう知識は必ず覚える。ま、何を覚えてようがもう一切関係ないけどな。
尋常じゃない速さでエリナとともに地下一階層前の階段まで来た。ここまで来れば大丈夫なはず。一応エレメンタルプロテクターを掛け直すと、ソフィアの体を調べてマジックフォンを取り出し、パーティーから抜けさせた。胸につけているギルドのエンブレムを剥がすのも忘れない。
「どうして、こんな」
スキルを使うのをあきらめたのかソフィアが何か言い始めた。
「お金ならあげますから」
お金? 噴き出しそうになるが必死に我慢。ソフィア、お前はこれから最後までもがき苦しんで死ぬんだよ。地下一階層まで上がると、冒険者の視界に入りそうにない隅のほうに移動する。その際にエレメンタルプロテクターの掛け直しをやったんだがもろにソフィアの顔が落ち込んでて笑えた。
「俺はお前の命しか興味ない」
「い、嫌、嫌……」
ソフィアの目から何かが零れてくる。なんだこりゃ、涙か。悪魔の癖になんでこんなものが流れるんだ?
「あなたが噂の通り魔なら、私も協力します。一緒に……」
なるほど。例の通り魔だと思われているようだ。でもまあやっぱり人間じゃなくて悪魔で安心した。いい加減掛け直しが面倒だしここらでネタバラシするかな。エリナも見てるがまあいいや。裏切ったら殺せばいいし。
「俺のこと覚えてるか?」
「え?」
「クアゼルだよ。ソーサラーの」
「クアゼル――」
ソフィアの血の気がさーっと引いていくのがわかる。
「――う、嘘……」
「嘘じゃないよ。ソフィア、これを見てご覧……」
マジックフォンを顔に押し付けるようにして見せつけてやる。
「【転生】ってあるだろ。なあ、おい。【空欄】で悪かったな」
「クアゼル……ごめん。私、ギルドマスターにそそのかされてあんなことを……」
「はあ? あそこまでしておいてそれを信じるとでも思うのか?」
「それ……は――」
「――エレメンタルプロテクター!」
「ぎっ……」
あーあ。こいつ今明らかに何か唱えようとしてたよな。口元引き攣らせちゃって。ま、こっちもこうして悔しがらせるためにわざと泳がせてあげたんだけどな。
「ね、クアゼル。最後のお願いだから、助けて……」
「うーん、どうしよっかなあ……助けてあげようかなあ殺そうかなあ、元相方だし助けてあげようかな……んー、やっぱやめた」
「嫌、嫌……」
とりあえず、ソフィアは人間じゃないのに服を着ているのはおかしいだろうってことで全裸にしておいた。さあ、残虐ショー開始っ!
「ベナムウェーブ――マジックエナジーロッド!」
「ぎぎゃああ!」
まず両足を木っ端微塵に潰してやると、すぐに泡を吹いて失神してしまった。まあ普通に想定内だが。
「エリナ――」
「――ヒール!」
「よくわかったな」
「わかるわよ! だって復讐なんだし!」
「ぎぎ……助けて、なんでもするから……ぶぎゅああ――!」
両腕も破壊してやるとソフィアは大きく息を吸って盛大に失禁した。くっせえなあ。
「ヒール!」
「いぎ……」
これ以上やると死んじゃうからつまんないな。もっと楽しみたかったのに。
「あ、そうだ。エリナ、リザレクションかけてくれないか」
「え……まさか……」
そう、そのまさかだ。俺はもっと楽しみたいんだ。
「んもう! リザレクション!」
「ベナムウェーブ――マジックエナジーロッド!」
眩くも暖かい祝福の光の中で、ソフィアの悲鳴が俺の脳に刻まれる。欠損再生欠損再生欠損再生欠損再生。何度も何度も耳で悲鳴を味わう。これも悪党がやってきた有名なことの一つ、リザキルだ。悪党がこれを逆にやられるなんて皮肉だなあ。まさに毒を以て毒を制すなわけだ。
「ひゅう、ひゅう……ころじでぇ、はやぐぅ……」
ついに来た。早く殺してが来たああ。もうお腹いっぱいだ。あー、美味しかった。冒険者の姿もちらほら見えてきたし、ここいらで終わりにするか。ちょっと汚いが最後はアソコの中に杖をぶちこんでやろう。
「おらっ、死ね!」
「むぎゃあああぁぁっ!」
おおう、なんとも言えないスイーツな悲鳴が聞こえてきて、最高のデザートを食した気分になれた。ご馳走様でした。
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