第14話
「店に連絡します。それでもいいのですか?」
抗いながら美和子は脅しの言葉を発する。
「強姦です。警察にも連絡しますよ」
しばらくの間抵抗を続けた。
「解った。解った。もういい」
一時間位格闘しただろうか。ようやく解ってくれたようである。
「細いのに力があるな。たいしたもんだ」
気まずい雰囲気が流れる。
「まだ予定の時間までありますが、私は帰りますね」
言い放って荷物を持った。
「まあいい。お喋りでもしよう。実は私の子供も貴方と同じように細いんだ。男のくせにダイエットなんかしやがって。病院にも通っている。恥ずかしいよ。まったく」
「私も病院に通っていますよ。摂食障害です」
「ああ。息子も摂食障害だと言っていたな。拒食症だとか。世の中には食いたくても食えない人がいるのに、自分がダメな人間だと思わないのかな」
美和子は黙っていた。
「貴方に言ってもしょうがないな」
「本当に帰りますね。お店に帰る事を連絡します」
そう言って電話を荷物の中から取り出した。西原はもう止めはしなかった。
ホテルからの帰り道、美和子は泣きたくなった。もうこんな仕事は嫌だ。今度飯塚さんに呼ばれたらさよなら言って終わりにしよう。そう心に決めた。
次の仕事の時であった。
「結婚しないか」
あれから数週間、美和子は飯塚さんにお店を辞める事を告げた。その後飯塚さんはこう言ったのだ。
「えっ?」
「もし良かったら結婚してほしい。駄目かな?」
「だって私こんな仕事しているし、全然女らしくない。摂食障害もあるし、お酒もたくさん飲むし・・・・」
「全部知っているよ。いつも悩みを聞いていたからね」
飯塚さんが照れたように笑う。
「アルコールは控えた方がいいかもな。朝、昼、晩きちんとした食事をしよう。これからは身体を大事にしてくれないか?二人できちんと病気と向き合おう」
そう言いながら飯塚さんは美和子を抱き寄せる。
「お母さんには少し節約して貰わなければいけないかも知れないけど、お金の苦労はかけないようにするよ」
どうしよう。なんて言ったら良いのだろう。
美和子も飯塚さんに軽く抱きつく。
「有難う。宜しくお願いします」
美和子は込み上げる嬉しさに涙が溢れ出しそうになった。
終わり
大事なもの 内藤理恵 @rienaito
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます