墓苦犠(はかくぎ)

低迷アクション

第1話

「私の今の仕事に就く前の職場は酷い所でね。今でいうとパワハラ、モラハラ、何でもありの凄い所だった。」


“彼”は苦労したあげく、転職先を見つけ、そこを辞した。だが、辞める前に“置き土産”を残す事に決めていた。


「誰から聞いたかは忘れたが“墓苦犠(はかくぎ)”という呪いがあってね。

誰かの墓、身内じゃ駄目だ。いや、いいんだろうけど、流石にな…とにかく

その墓石に、恨みたい相手の名前を書いて釘を打ち込む。すると墓に入ってる奴が怒って、釘に書かれた名前に復讐しにいくというものだ。


正直、石に釘を穿つなんて、相当大変だし、人に見られたら、通報される。しかも、呪いの

効果は打ち込む深さ、釘の大きさ、楔くらいがちょうど良いらしい…によって増すとの事だから、慎重に事を進める必要がある。


だから、夜中誰もいない墓所で釘を打つ。それも誰かに見つからないように、当たり前だよな、こんな罰当たりの行為、警察に通報されるね…


釘だって、途中で折れるかもしれない。箇所によっては墓石自体が壊れる事もある。

それだけの苦労というか、自身の安全すら危険に晒す訳だから、余程の恨み、強い執念が無ければ出来ないものだけどね、まあ、イカてるよ…でも…


私はや・っ・た・よ」


彼は同僚の1人とLINEを交換していて、退職した後も職場の様子を聞いていた。墓の呪いを

やってから数日後、釘に書いた名前の人物が仕事中に事故を起こしたとの連絡が入る。


元々、噂や陰口が絶えない職場…同僚はせっせと、頻発する目標の人物のミスや事故を報告し、最後には相手が障がいに残る程の怪我を負い、解雇されたと言う通知を確認した段階で

彼は、その同僚とも連絡を絶った。


「“それで相手への呪いは終わったのか?”って?…知らないね。釘を刺された墓の主は

刺さっている限り、報復を止めないだろうし、それ以上はどうなるかまでは聞いてない。


アイツも今頃、生きているかな?…だけど、さして興味はないな。

まぁ、釘を抜いたら呪いも止まるんだろうけど…でも…無理だな。」


彼はそこで面白そうに肩を揺らし、笑う。


「ハハッ、元々、人家も近くない山奥の墓所を選んだって事もあるけど、どうやら、そこは

“穴場”でね。夜中に釘を打っている時に、周りを見たら、暗い墓所の中で白く光っているものが、いくつもあるんだよ。


ライトで照らしたら、全部、釘だった。もう、どれが自分のだか、わからないよ…ハハハ。」…(終)


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