『敗軍の兵は将を語れず』 第2話

 大岡信楽守たぬ丞(おおおかしがらきのかみたぬすけ)は、関東一円の司法を司


る5大奉行の一角を占める大たぬきであります。


 しかし、日常では、ごく、そこらへんのたぬきさんのようないで立ちで、街の中


を歩き回っております。


 別に、かくしているわけでもないが、『あそびたぬのすけさん』として知られてお


りましたのですな。


 まだ、人間さんほどには、情報機関が発達しておらず、個たぬの、え、念のため申


しますと、個人でなくて、個たぬですな、え、ま、その素性が知れ渡っているとい


うわけでもなかったので、この『すけさん』が、大奉行様であると知るたぬはごく


少数でありました。


 さて、あるひ、『あそびたぬのすけさん』が、奉行所があるお山からは、大分離


れた山に中にある、『たぬきの街』を視察がてら散歩しておりましたときのこと。


 ちなみに、人間が入って来ると、街は煙のように消えてしまうのでありますな。


 ま、そこは、たぬきさんのことで、ありますからね。


『おう。なかなか、ここは、繁盛してる街だなあ。店もたくさん出てる。ちと、ラ


ーメンくってくか。』


 と、最近たぬき界の巷でも、人間さんの影響か、『ラーメン』という食い物が人


気であるという。


 お奉行様は、町たぬの恰好ですから気兼ねもない。


 『えい、らっしゃ~~い。』


 景気のよい声が飛びますな。


 まだ年若そうな、たぬ娘がお冷を持ってやってきます。


 『なんに、なさいますか?』


 『おう、ちょっと気楽な旅なんだ、ここの名物は何でい?』


 『そうですね、一番人気は、『たぬきラーメン』です。』


 『たぬきラーメン? なんだそりゃあ?』


 『ラーメンに、おあげが入ってます。野菜もたっぷり。健康にいいと評判ですよ。首都の『タウン・タヌ誌』にも、先日掲載されたんです。』


 『そりゃあ、すげーなあ。じゃあ、それ、たぬむ。』


 『はい、たぬら―・ワン、お願いしま~す。』


 『へいよ! たぬら―いっちょう!』


 やれやれと、お奉行さんが周囲を見回すと、なるほど人気店と見えて、けっこうお


客たぬが多い。


 『おやあ?』


 と、思ったのは、一番向こうの端っこにいた、ふたたぬ、であります。


 ふたり、じゃなく、ふたたぬ、ですな。


 なにやら、すでに、険悪な雰囲気が漂っております。


 なかなか、奇麗な格好の、いいとこの女将さんらしき、美たぬと、ちょっと小太


りで、メガネをひっかけている、あまり、『レディー・たぬ』には、もてそうにはない、ま、あえて、言えば、やましんさんみたいな、風采があがらぬ、ただし、まだ、若そうな、たぬであります。


 もちろん、これは『ズボン工場』の奥さんと、たぬさぶろで、ありますな。



  ************            🍜     つづく


 




  



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『敗軍の兵は将を語れず』 やましん(テンパー) @yamashin-2

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