『敗軍の兵は将を語れず』

やましん(テンパー)

『敗軍の兵は将を語れず』 第1話

 【これは、筆者の妄想による、フィクションであります。】


            


 え、いっせき、お付き合いを、お願いいたしますが………


 これは、人間界のお話ではなく、たぬき界の、お話ということなんであります


が、おろかな、あたくしが想像いたしまするに、この、たぬきの世の中において


も、パートやアルバイトで、いや、正社員でもそうですが、就職はしてみたが、経営


者側やら、現場の主と言うような方から、理不尽な嫌がらせと申しますか、いじ


めと申しますか、あえて、ハード・トレーニングと申しますか、まあ、そうしたもの


に遭遇し、2か月は頑張ったが、どうにもならず、辞職したと言うようなお話は、そ


う、めずらしくはないのではないか、と、思います。



 どうにも、腹に据えかねたような場合は、たぬき政府の、労働基準監督署さまに


相談したり、さらに、折り合いがつかず、裁判、という争いになる場合も、中にはあ


るでしょうけれど、かなり多くは、まあ、敗軍の兵は、将を語れない、という、人間


界と似たようなケースが多くあるようなのですな。


 たぬきの、泣き寝入りとも申しますが。



 しかし、ここ最近は、たぬき界でも、ブラック・たぬ企業なんていう、非常に不


名誉な称号を頂くことになることからも、企業側さん側も相当気にかけるようには


なっているように言われます。


 もちろん、労働組合があるような企業さんでは、組合の関与もありうるかもしれ


ませんが、どこの職場も、実際のところ、ぎりぎりの人員・・いや、たぬ員でやって


いるので、かなり、なが〰️〰️く、まじめに働いていた、たぬきさんも、体調が急に


悪くなったりしたような場合などは、経営側と労働側の利害が、なぜか、一致した


りすることも、あるようなのです。



 つまり、どちら側も、『はやく、あなたには、辞めていただきたい』、と言うこ


とですな。


 経営側は『解雇!』と、はきりとは、いろいろあたりさわりがあるので、それは


言いにくいので、遠回しに言ったり、幹部でとり囲んで、あえて本人には厳しい要求


をしたりと、まあ、実際には、さまざまな方法を駆使いたしますようなのです。


 一方、仲間の従業員側も、なにやら、『かいらんばん』などで、職場内部に『病


人』がいて、周囲が困っている部署があるらしいとか宣伝してみたり、その他、なに


かと、本人から見たら、いやがらせに近いような行為を行ってきたりも、するよう


であります。


 もちろん、やってる方は、それは、それなりに、やむおえない理由がある。



 こほん・・・・・・・え・・・とんとん・・・・・・



 まあ、このように、労使両方から、見切りを付けられたら、これは、なかなかう


まくございません。


 あまり、たぬぼうが・・・たぬぼうですな、じんぼう、ではなく・・・がない


と、さらにむつかしい。


 助けてくれるような、力のおありになる知り合いなども、このたぬきの世にはい


ないという場合も多かろうことですから、最終的には、本たぬきさんが身を引かざ


るをえない場合が、実際には、多いものでありましょう。


 もちろん、会社側にも、いといろと苦しい事情があることも、まちがいございま


すまい。


 なかなか、どちらが悪いと、言い切るのは、まあ、なんとも、情けないわけなの


ですな。



 さて、この、『ぽんぽこ横町』という、街はずれの長屋に住む、ちょっと、たぬ


きがよいところのある、たぬきの、たぬごろは、きちんと学校も出たが、なかなか


就職が出来ず、しかし、ちかごろ親も亡くなりまして、もはや、遊んでもいられず、


なんとか、たぬき用ズボンの製造会社にアルバイトに出たのでありますが、こいつ


がまあ、たぬき族史上、始まって以来というような、おそるべき不器用もので、どう


にも使い物になりません。


 ズボンのたばひとつを、紐でちょっと、くくることも、うまくゆきません。


 洗濯物を干せと言えば、ぐりぐりっと、ひねった状態のままで、つまり、ぴっと


のばしたりもせずですな、そのまま、ものほしざおに、まるで並べてゆくように、


むりやり、くくりつけてみたりもいたします。


 まあ、そのほうが、よほど、難しいと思いますがな。


 こほん・・・・


 まあ、ちょうど、やましんさんに、せまるくらいに、おそろしく、ぶきっちょなん


ですなあ。


 ああ、やましんさんは、学校の先生から、『教師になっていらい30年、おまえ


のような不器用ものは見たことがない』、とはっきりいわれたそうですな。


 ごみを紐でくくる事も、ままならなかったとか。


 

 この、会社の旦那さんという方は、わりと気の長い、悠長な、たぬきさんで、


『まあ、いいさ、しかたないさ、長い目でみろや』、なんて申してもおりました


が、この、奥様のほうは、その分、なかなか気性が荒い。


「こんなんじゃ、仕事にならないねぇ、あんた、いまのままじゃ、どうしようもな


いよ。ここは、厳しく、しこまなきゃ。」


 と、申しておりましたが、それでも、なんとか、この、たぬごろに、ごく簡単な


材料の仕分け仕事を、まずは、覚えさせようとしたものの、どうしても、うまくゆき


ません。


 じつは、奥様は、たぬごろのお父上に、むかし、恩を受けたという、過去があり


まして、なんとか、この出来の悪い息子を、とにかく、この世の中で、ひとりで生


きて行ける程度にはしてやりたい。


 という、想いを秘めておりましたのであります。


 しかし、まあ、一週間もすると、あまりの出来の悪さに、ほとほとあきれ果てた


のですなあ。


 もともと、奥様は、気性が激しい。


『お前のような、不器用なタヌは、見たことも聞いたこともない。なんで、そうな


んだ。え? どうして、そう、できないの? たぬきとは思えない。ぼんくら。ど


じ。』


 自分の過去については、さっぱりと、語ろうとしない奥様ですが、はたが見て


も、言い過ぎ位に、毎日、たぬごろに厳しく当たるようになります。



 勤務時間になる30分まえから、工場周辺の掃除を、毎日するように言いつけま


したうえ、終業時間後に、毎日2時間、厳しい練習を申しつけましたのです。


 まあ、いまでいう、おふ・じょえー・・・・いや、おふ・じぇー・ちぃー、という


やつでありますか。え、ちがいますか?


 まあ、英語が分かれば、こんなこと、ここで、やってませんやな。


 まあ、そうしたこともやらせたので、ありますな。


 しかも、休暇をつぶさせたりもした。


 そのぶんのお手当ては、出さなかったが、これは、まずかったですな。


 こほん・・・・・とととん・・・・


 その、女将さんの、考えや事情を、たぬごろが知る由もなく、本人は、次第に不


満を募らせてゆきます。


 なんせ、まずは、残業代も出ないじゃないか。


 奥様は、『勉強させてやってるんだから。給料になるはずがないだろ!』と、言


い放ちます。


 まあ、もうちょっと、やさしく事情を話してやればよいものを、どうも、女将さん


は、そういうのが、不得手であります。


 しかし、旦那さんは、奥さんに、頭が上がらないので、はっきりしない。


 ああ、こほん・・・


 そうして、ついに、ある日、起こってはならないことが、発生いたしましたのであ


ります。




  ************   ************  



                               つづく









 


 


 


 

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