第6話
「待って。メガネって何。この世に残れるならなんだってするって言われても。そこまでしなくても私は平気だから。私のことは気にしなくていいから、ちゃんと成仏して次の人生を歩んでよ。」
私は必死に旦那に向かって呼びかけた。旦那は消えゆく姿の中で、ようやく私の存在に気付いたようだ。にっこり私に笑顔を向けると、「○□△※………。」と朝に私の耳元で聞こえた謎の呪文と同じ言葉をつぶやいた。
目が覚めて、あたりを見回すと、気を失ってからそれほど時間は立っていないらしい。外を見ても太陽の位置はあまり変わっていない。あれは何だったのだろう。旦那はこの世に残りたがっている。果たしてそれは良いことなのだろうか。だが、現実に考えてそれはありえない。幽霊などを信じていない私にとってそんなことは考えられない。とりあえず、学校から帰ってきてそのまま倒れてしまったから、着替えなければ。ベットから起き上がり、メガネをかける。
すると、私の目の前に死んだはずの旦那がいるではないか。私はとうとう耳もおかしくなったが、目までおかしくなってしまったのだろうか。それとも、幻覚でも見ているのだろうか。
目をこすり、もう一度見てみる。やはり何度見ても旦那である。先ほど見た夢のせいか、私は旦那に声をかけてみた。
「久しぶり。葬式以来だね、また会えると思っていなかったから、会えてうれしいよ。」
「………。」
旦那は何かを話そうと口を開いたが、また閉じてしまった。そして、自分の顔の眉間に手を当てた。何か考えているようだ。そして、私の顔を指さし、それからまた眉間に手を当てた。何かを訴えている。
そのジェスチャーから私は夢の中で旦那と老人がメガネについて話していたことを思いだした。メガネに何かあると察した。私がメガネに手をかけると、嬉しそうにほほ笑んだ。そして、夢の中のように私の目の前から消えた。
「ようやく会えた。僕もまた瞳にあえてうれしいよ。」
突然、耳元で旦那の声が聞こえた。私はようやく気付いた。夢の中で老人が言っていたことを理解した。旦那はメガネに憑依して、この世に残ることができたようだ。
旦那がメガネ。まあ、これで私のそばにはいられるわけだが、旦那はこれでよかったのだろうか。私はなんだかんだ、旦那がいなくて寂しいと思っていたので、旦那がこの世に残ってくれてうれしいが。
こうして、私の旦那はメガネになって私のもとに残ってくれたのでした。
旦那がメガネになりました 折原さゆみ @orihara192
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