第5話

 学校で授業をしている最中も謎の声はなり止まない。どうしても気になって仕方ない。たまたま今日は半日授業だったので、授業後、すぐに家に帰ることにした。家に帰って、近所の耳鼻科、または精神病院を探していってみよう。ずっと、耳元でささやくような謎の言語が聞こえていると、さすがにいらいらしてくる。


 家に帰ると、これまた誰もいない玄関に向かって「ただいま」と声をかける。そして、靴を脱いで家に入る。すると、突然、めまいがして倒れそうになった。慌てて、倒れないように壁によりかかる。


 今日はいったい私の身に何が起こっているのだろうか。めまいなんて、健康だけが取り柄だった私には縁のなかったことだ。貧血でもないし、風邪をひいているわけでのない。いたって体は健康である。めまいがするこの状態では病院へも行けない。仕方ないが、今日は病院には行かずに休もう。私はふらふらになりながらも寝室へ足を運び、着替えもせずにベッドにダイブした。そして、そのまま気を失うように眠ってしまった。




 また、夢を見た。昨日の夢とは違い、今度は旦那の声がよく聞こえる。旦那は謎の老人と何かを話している。


「どうか、妻のもとにいさせてください。妻がひとりでいるかと思うと、心配で心配で。」


「それは無理だよ。死んだら、天へ行って、それから転生の準備をしなくてはならないし。この世に残るということは、いわゆる幽霊になってこの世に残る他ならない。それだとたいがい暴走して悪霊になり、人の世に迷惑をかける存在になる。見たところ、奥さんは君がいなくてもちゃんと生活できているようだし、君がこの世に残る必要はないと思うが。」


「そこを何とかしてくれませんか。まだ結婚して間もないのにもうお別れなんて僕が寂しすぎます。お願いします。何でもしますから。」


「なんでもとはいってもね。ああ、君の死因はメガネだね。そうか、メガネね。一つ君がこの世にとどまる方法を見つけた。それでも良ければ、この世に残してもいいよ。」


「それでいいです。妻とまた一緒に過ごせるならなんだっていいです。」

「それなら、君は今日からメガネの妖精だね。契約成立、今日から君は彼女のメガネだ。」


 そう言って、謎の老人は旦那に呪文のような言葉をつぶやいた。そして、消えた。文字通り、どろんと姿かたちなく消えた。旦那もそれにつられるように消えていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る