Day-1出会い KANATA NAHO
幸せの
だから
必ず欠片はあなたのそばに落ちているから。
―――――――――
これは私が昔、母によく読んでもらった絵本の1ページ目の言葉だ。
大きくなってからは1度も読んではいないが、不思議とこの1ページ目の言葉だけは一言一句覚えている。
そして、そこに添えられた絵 "ボロボロの布団に横たわる病気の母親と、その横で看病をする1人の女の子の姿" もはっきりと覚えていた。
―絵本の中の女の子が出てくるなんて。まさか。馬鹿馬鹿しい。
そう思うのに、帰宅してからも彼女のことが気になって仕方がなかった。
もちろん、私の身代りとなって轢かれてしまったということもあるが、やはり「美与ちゃんではないか」という思いが頭から離れなかった。
―そういえばあの絵本、何処へ行ったんだろう。
小学生低学年頃までは母がよく読んでくれたのを覚えているが、そのあとあの絵本を読むことは無かったように思う。
一時は「ストーリーの奥深さが胸に染みる絵本」として、子どもというよりは大人の間で人気になっていたようだが、私が大人になった今では書店でも見かけることはない。
―たしか絵本はこの辺に…
母が亡くなった後、遺品整理をした際にまとめて取っておいた本の山を探していく。
絵本をはじめ、本を集めるのが好きだった母らしく、遺品のほとんどがこの本たちだった。
一冊ずつ丁寧に見ていくと、どれも気になって捜索が進まなくなってしまうので、絵本と関係のないものは横に避け、絵本だけを見ていくことにする。
―タイトルはなんだったっけ…
1ページ目の内容はしっかりと覚えているのに、なぜかタイトルと表紙の絵が思い出せない。仕方がないので、一冊ずつ見ていくことにした。
何冊か手に取り表紙を見ていくと、"彼方 菜穂"の作品が多いことに気がつく。
―こんなに書いてたんだ。
―――――――――
KANATA NAHOを並び替えるとTAKANO HANA(
それまで、絵本作家をしていることは知っていたものの、恥ずかしいからといって作品は教えてくれていなかったため、まさか彼方 菜穂が母親だとは思いもよらなかった。
そりゃあ、鷹野 華の名前で検索をかけても1作品も挙がってこないわけだと、納得しながら母を問い詰めたことを思い出す。
母は「ばれちゃったか」といって、可愛らしく照れ笑いをしていた。
―――――――――
恥ずかしいからといっていたのに、ちゃっかり我が娘に自分の作品を読み聞かせていた母を思うと思わず笑みがこぼれた。
―懐かしいな。
母に対しての感情なのか、作品に対しての感情なのか。ギュッと胸を捕まれるような感情を誤魔化すように次の一冊を手に取り表紙を見ると、パッと記憶がよみがえるような感覚に陥った。
―間違いない。これだ。
表紙は絵本とは思えないほどシンプルで、挿し絵はなく、ごわごわとした質感の淡い黄色の紙の中央に
しあわせのかけら
作・絵 彼方 菜穂(KANATA NAHO)
とだけ書かれている。
先ほどまでは、タイトルも表紙も全く思い出せなかったのに、なぜかこれを見た瞬間、この絵本に違いないと確信をしていた。
―絶対にこれだ。
再度確信を持つと、早く確かめたい気持ちと緊張で高まる感情を必死で抑えながら、ゆっくりと表紙をめくった。
架けた欠片《カケタカケラ》 高遠 そら @nebosuke_
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