第347話『俺達はかなり慌てて帝城を出た。』

 俺達はかなり慌てて帝城を出た。

 というのも、謁見を終えた後が問題だったからだ。謁見の間を出た直後、貴族達に囲まれた。冷房の魔法が相当効いたらしい。皇帝からの言葉なんておかまいなしな貴族達から次々とお誘いを受けた。

 俺達は「まずは城内から」という話をして、どうにか全員でその場を離脱。城内を知るマイアに案内してもらいつつ、途中で待ち構えていたヘレウスと合流。後ほどこっそり一部の部屋に魔法をかけにいく話をしつつ、とにかく離れるべきという結論に至り、脱出をはかった。


 そして現在、俺達はヘレウスの家、エヴェリーン家の屋敷にいる。サンドラの実家でもある、場所は帝都の中心近くに質素に佇んでいた。屋敷と呼べるくらいの大きさはあるが、聖竜領の領主の屋敷よりも小さいかもしれない。庭もあるが、広いともいえない。魔法伯という地位と比較すると、質素といって差し支えないだろう。


「アルマス殿、すまなかった。ある程度予想はしていたのだが、ああまで見境がない者が出るとは思わなかった」


 現在、屋敷の一室において一服中である。馬車に乗るまでが大変で、サンドラはリーラに抱えられていたし、マイアもアイノを守ってくれていた。ハリアは一人元気だが、これは浮いていたからだ。正直、空の旅より今回の短い謁見の方が大変だった。


「いや、あのくらいで済んで幸いだったよ。しかし、城内の魔法を後回しにして本当に良かったのか?」

「陛下の采配だ。きっと大変なことになるから、後でいいと。涼をとるならルーベンバッハ宮にいけばいいと仰ってくださった」

「それは、ありがたいわね」


 こめかみを押さえながらサンドラが言う。緊張から解き放たれて頭痛がするようだ。予想外の事態に弱いこともあって、大分疲労が濃い。あとで聖竜領から持ち込んだ薬草茶を飲んで貰おうか。


「サンドラ、早めに休みなさい。謁見さえ済ませれば、後は心配は少ない」

「この話が終わったらそうさせて貰うわ。……とりあえず、アイノさんの事は極力伏せて置いた方がいいと思うの」

「え、私……ですか?」


 全員の視線が集中し、困惑するアイノ。この様子だと、サンドラの言うとおりだな。


「冷房の魔法一つであの騒ぎだ。アイノに同じことを出来ると知られたら、どんな騒ぎになるか想像もつかない」

「ですね。特にアイノさんはアルマス殿と違って眷属ではありませんから、自由が効く立場ですし……なんですか、私だってそのくらいは思いつきますよ」


 マイアが頷きながら言うのを驚愕の目で見ていたら抗議された。


「マイア様、成長しましたね……」

「リーラさんまで! 私だって剣ばかり振っているわけではないんですよ! 帝都にいると色々考えちゃうんです!」


 もしかして、場所によって頭の良さが変わるんだろうか、この女剣士は。


「マイア、予定通りアイノの護衛を頼む。帝都での君は頼りになりそうだ」

「お任せください! 聖竜領に帰るまでお守りします!」

「そ、そんなに危険な場所には近づかないと思うけれど……」

「いや、警戒しすぎて損はない」


 苦笑するアイノの言葉を遮るようにヘレウスが言った。サンドラに似た強い意志を感じさせる視線に、一瞬アイノが身を固くする。悪人ではないのだが、雰囲気が鋭すぎるのが問題な男だな。だから娘にも誤解される。


「ハギスト公はしばらく様子を見るだろうが、ヴィクセル伯とレフスト伯が動くだろう」

「商人と武闘派の貴族か。特に、商人の方が怖いな」

「ヴィクセル伯はアルマス殿の魔法を見て、敵対ではなく、懐柔に回る可能性は高い。アイノ殿のことを知れば、何をするかわからない男だ」

「…………」


 その言葉を聞いて、アイノが両手で自分の体を抱きしめるようにした。何かする前から妹に脅威を与えるとは、許せんな。


「アルマス、まだ何も起きてないのに怒るのは早計よ」

「む。そうだな……。ヘレウス、すまないが情報収集を頼む。こちらでは俺達はあまりにも味方が少ない」

「承知している。気になることがあればすぐに知らせよう。勝手に動くこともあるかもしれないが、理解しておいて欲しい」

「お父様もやりすぎることがあるから、程々にお願いするわ」

「わかっている」


 なんなら、ヘレウスが手を回して全て事が終わっていた、なんてことまでありそうだ。あんまり無理はして欲しくないところではある。


「レフスト伯の方は単純にアルマス殿に力比べを申し込んでくるだろう。程々に相手をしてもらえれば、丸く収まると思われる」

「上手くすれば、味方にできるか?」

「……その時の状況次第だな」


 ふむ。レフスト伯か。手っ取り早くこちらから殴り込んでしまおうか。いや、それはそれで挑発的すぎてダメか。加減が難しいな。


「話としてはこんなところだな。何より先に、皆に同行して欲しいところがある。リーラ、旅の疲れもあるだろうが、準備を頼む」

「承知致しました。旦那様」


 静かに佇んでいたリーラが一礼する。そうだな。先にやるべきことをやらなければ。


「では、まずはお嬢様にお休み頂き、万全の体調になって頂きます。アルマス様、眷属印を頂きます」

「ああ、しっかり休んでくれ」

「しばらくしたら夕食だ。ささやかだが、皆の好物を用意したつもりだ。帝都の夜を楽しんでくれ」


 ヘレウスのその言葉で、短い打ち合わせは終わった。

 


 俺達が次にやるべきこと。


 それは、サンドラの母親の墓参りだ。

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