第247話「そんな風に聖竜様とのんびり会話をしながら、俺は土産を選ぶのだった。」

 ロウニィ地方の大物、ヨセフの治療は無事に終わった。ついでにあった話し合いも無事に終わった。多分。


「全てはこれからだな。第一副帝やら魔法伯に頼んでメイド島に手配を頼まなくてはならない」


 温泉の町ベシーの宿の一室に集まった俺達一行は、今回の件と今後について相談していた。ヨセフの滞在先は埋まっていたので、宿は別になった。案内役も兼ねているエリーザも一緒だ。ちなみに、宿自体はとても良いもので快適である。


「今更ながらに思うですが、サンドラ様に黙って話をして大丈夫です?」


「このくらいは問題ないはずだ。あくまで俺個人の約束を、サンドラに相談するという形にもできる」


「はい。お爺様もその点は承知しているでしょう。なにより、体調が戻ったのがありがたいです」


 エリーザが頷く。メイド島については俺個人で確約できる範疇の内容では無かったので、こればかりはこれからの動き次第ということになる。


「幸い、聖竜領はメイド島と親交が深い。色んな伝手もあるから、実現可能な案のはずだ。第一副帝にとっても領地が安定するので良いことだと思う」


「では、それに加えて私もお手紙を出しておきましょうか。実はメイド島にあるメイド屋敷の建築に関わったことがあるので、結構話が通るんですよ」


 メイド島のメイド屋敷。深く掘り下げるほど不可思議な場所に思えてくるな。

 ともあれ、リリアの申し出はありがたい。なかなか、頼りになる。


「皆様、このロウニィ地方のために力をお貸しいただき、ありがとうございます。サーフォ様からも、後ほど然るべき場を設けて御礼の言葉があるかと思います」


 話がある程度まとまったところで、エリーザが改めて頭を下げた。


「気が早いな。メイドが派遣されて、無事に君の祖父が業務に復帰してから安心すべきだ」


「皆さんのお力なら、きっと大丈夫ですよ。それに、あんな元気そうな祖父は久しぶりでしたから、そのお礼ということでお願いします」


「わかった。上手くいけば聖竜領にとっても良いことがおきるだろう。人の行き来も増えるから、商売もできる」


「あてくしっ。こちらの地方に新しい支店を出したいです!」


 目をキラキラさせながらドーレスが言う。ダン商会の支店が増えるのか。ドーレスがクアリアからこちらの地方に移動することになるかもしれないな。


「話としてはこんなところか。あとはサーフォのところに戻って報告と、今後の相談だな。リリアとドーレスは帰る前にやっておきたいことはあるか?」


「私はこの辺りの建築関係の組合とか材料関係の商人さんへ軽く顔出しをしておきたいです」


「あてくしは行商させてもらいたいです。先々の商売について、エリーザさんにご相談させていただけると助かるです」


 エリーザの方を見ると笑顔で頷いた。きっと、的確な助言をくれるだろう。


「俺の方は許可を貰えるなら、魔物退治でもしておこう。微力だが、治安に貢献しておく」


「そんなにお力を借りていいんでしょうか? たしかに先日の聖竜領との境界での魔物退治も大分助かったのですが……」


「特技を生かすだけだから問題はないよ。それに、彼女達が出発するまでの間だから、期間は数日だろうしな」


 そう言いながら、俺は窓の外を見た。部屋は二階で、外には緑豊かな山々とその裾に広がる畑が見渡せる。山の上だけあって良い景色だ。


「とりあえず、話としてはこんなところか。せっかく温泉地に来たんだ、少し休んだり、土産でも買うとしよう」


 俺には大事な使命がある。そう、妹と聖竜様への土産を確保するという大切な役割が。


 そんなわけで、ドーレスに保存用の箱の確保をお願いしつつ、俺は宿の外に出た。


○○○


 ベシーの町は温泉目当てに来る客が多い。おかげで坂の連なる通り沿いに店が結構出されている。人手はそこそこ。地下と地上の違いはあるが、どこかドワーフ王国を思い起こさせる光景の中、俺は土産物を物色していた。


『民芸品や装飾品が無難だと思うのですが、できれば食べ物なんかも持って帰りたいと思っています。冷凍すれば何とかなると思いますか?』


『ワシとしては食べ物が沢山あると嬉しいが、保存に関してはわからんのう。とりあえず、冷凍して持ち帰ればトゥルーズが何とかしてくれるんじゃないかの?』


『それもそうですね。菓子の類なんかを中心に持ち帰ります』


『うむ。良い心がけじゃ。しかし、お主の行動範囲が広がるとちょっと羨ましくなるのう。ワシは石像に供えてもらわなきゃならん状態じゃし』


 聖竜様の石像に転送効果があるのは、あの土地が聖竜様の領域であることが非常に強く作用していると考えられている。現状、そこら中に聖竜様の石像を作れば転送し放題というわけにはいかないのだ。


『なにか別の手段があればいいんですが。少し考えてみましょうか。それはそれとして、聖竜領の方はどうですか?』


『なんだか、ワシの事情について軽く流された気がするんじゃが……。まあ良いか。皆、忙しそうに働いておるよ。アイノも色々仕事を手伝っておる。心配はいらんのじゃ』


『それは良かった。アイノが魔力供給できて良かったですよ。俺がこうして安心して出かけられる』


『うむ。よくゴーレムなんか作っておるぞい。充実した日々じゃ。サンドラは相変わらず心配事が多いようじゃがのう』


『今回の件も気にしているでしょうし、朗報を持ち帰りたいですね』


『うむ。ワシの方からもそれとなくアイノに状況を伝えておくのじゃ』


 そんな風に聖竜様とのんびり会話をしながら、俺は土産を選ぶのだった。

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