第248話「うっかりしていた、よかれと思って行動していたら、自分の仕事が増えていた」

 結局、温泉地ベシーには五日ほど滞在した。長くなったのは、ヨセフが領主のいるレイネンストの町まで着いてくると言いだしたためだ。

 

 彼の体調を整えつつ、新たな馬車を手配するなどで時間がかかった。ついでに、彼の仲間達にも治療を施して元気になってもらった。結構感謝されたので無駄ではないはずだ。


 俺達は思いがけず温泉地でゆっくりと過ごした上で馬車で出発。特に問題なく、レイネンストの領主の城に到着した。


「まさかヨセフ殿が直接やってくるほどまでになるとは思いませんでした。アルマス殿、リリア殿、ドーレス殿、感謝致します」


 場内の応接に案内されるなり、物凄い上機嫌な領主サーフォが現れ、いきなり御礼を言われた。


「エリーザもありがとう。ヨセフ様だけでなく、皆さん元気そうでなによりです」


「い、いえ。私は仕事をしただけですから」


 聖竜領の面々に続いて、エリーザやヨセフ達にも笑顔で話す。

 俺の訪問が良くない結果になっていれば、ここまでわかりやすく全員で帰ってはこない。城門から報告が来た段階で、今回の件がそれなりの結果に落ちついたことを把握したということだろう。

 

 ところでエリーザが若干赤面気味に答えたところ、ヨセフの友人達はこめかみがピクピクしていた。どうやら、ヨセフ自身はある程度孫娘の気持ちを認めているのかもしれないな。


「俺の治療は若返りじゃないので、一時的に元気になっただけだ。以前のような仕事に復帰したら、また倒れるだろう。一応、その辺りの対策も話し合ってはきたんだが」


「自分でお手伝いできることなら協力を約束します。ヨセフ殿の職務復帰は非常に喜ばしい」


 実に乗り気なサーフォに、俺はメイド島のメイドをどうにかして派遣したいという旨を伝えた。


「……なるほど。メイド島の……。自分の方からも第一副帝に働きかけてみますが……」


 なんか物凄く難しそうな顔になっていた。

 

「もしかして、聖竜領に沢山メイドがいるのって凄いことなのか?」


「帝国中南部的にはとんでもないことなんじゃないかと。第一副帝のお膝元でもなければいない人数です」


 小声で呟いたらリリアが教えてくれた。そうか、もう日常の光景だから気にしてもいなかった。考えてみれば、教育が行き届いた有能な人材が大量流入した上に、その教育機関の設立まで検討されているわけか。異常だな、俺がいうのもなんだが。


「その点については、俺やサンドラからも各方面に働きかけていくつもりだ。確約はできないが、何とかやってみる」


「アルマス殿は皇帝陛下や魔法伯とも知己だという。案外早いかもしれんぞ。楽しみじゃ」


 室内で話を聞いていたヨセフが本当に楽しそうに言った。期待されすぎてて恐い。


「では、聖竜領の皆さんと連携しながら働きかけるとしましょう。微力ですが、お力になれるはずです」


「サンドラから預かっている連絡用の魔法具がある。これを使ってやりとりをお願いしたい。時期を見て、サンドラもこちらに訪れるだろう」


「それは楽しみです。ヨセフ殿、申し訳ありませんが、お力をお貸しください。メイド島の者ではありませんが、可能な限りの部下をつけますので」


「うむ。以前のように仕事はできんが、できる限りはやろう。孫娘の仕事ぶりも近くで見てみたいのでな」


「少しだが、俺の作った薬草を渡してある、上手く使ってくれ。必要なら、聖竜領から送ることも可能だ」


 多分、聖竜領ではマイアが帰っているはずだ。彼女なら届け物として山越えをしてくれる。ルゼも着いていきそうで心配だが。


「わざわざご挨拶に来て頂いただけでなく、お力添え感謝致します。どうか、城にいる

間はゆっくりと休養をとってください」


 そう言ってサーフォが礼をすると、ヨセフとエリーザもそれに続いた。


「そうしたいが、少し時間をかけすぎた。早めに聖竜領に帰らせてもらうよ。それと道中、魔物を見かけたら退治したいんで、その許可がほしい」


 領主の申し出を断るみたいな言い方になってしまったが、正直に言わせて貰った。思った以上に時間を使ってしまった。俺達も聖竜領で仕事をしなければいけない。アイノのことも心配だ。


「わかりました。では、せめて今夜くらいはもてなしをさせてください。魔物退治の件、御礼は必ず致します」


 一瞬驚いたものの、こちらの事情を理解してくれたのか、サーフォは笑顔で応じてくれた。

○○○


 翌日の昼頃、俺達は聖竜領への帰路に着いた。リリアもドーレスも滞在時間を延ばせとはいって来ない。聖竜領に帰りたいのは二人も同じということだ。


「ようやく帰れるわけだが、ここから長いな」


「しかも、アルマス様が魔物を見つけたら退治するですもんね」


「人里近くにいたらという話だよ。滅多にあることじゃない」


「次のお仕事の目処も立ち始めたし、滅多なことが起きないといいですねー」


 三人で帰路の心配をしながら、馬車に乗る。行きは歩きだったが、帰りは馬車だ。それも二頭立て。領主の用意してくれたものなので、物がいい。


「仕事の目処か。こうして出かけて色々やっていると、畑の世話やゴーレム造りが懐かしくなるな」


 いつもの仕事を懐かしんでいると、横から女性二人が口を開く。


「でもアルマス様。聖竜領に戻ったら偉い人への手紙のやり取りとかで仕事が増えそうです」


「南部への街道作りとかも具体的に依頼されるんじゃないでしょうか?」


「…………しまった、仕事を増やしてしまったか」


 うっかりしていた、よかれと思って行動していたら、自分の仕事が増えていた。街道はともかく、メイド島の方は完全に自ら招いている。


「今年はゆっくり仕事をするつもりだったんだが……」


「アルマス様は最善の判断をしてたですよ。悪いことではないです。アイノさんも褒めてくれるですよ……多分」


「それに、聖竜領はしばらく開発が続くから、ゆっくり仕事は難しいのでは?」


 ドーレスとリリアに慰めなのか、追い打ちなのかよくわからない言葉をかけられながら、俺達は帰路についた。

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