第240話「ドーレスとリリアが任せてとばかりに笑顔で頷いた。」

 聖竜領を出発して四日ほど経過した。先日訪れたマーペラ村に一日滞在し、そのまま街道を道なりへやや南西へと進んでいく。道中立ち寄った村や町で情報収集をしつつ、旅は順調だった。


 南西部ある町レイネンストはそれなりに栄えている場所で、周辺の人口も多い。そちらに向かっている関係で、立ち寄る町も段々大きくなっていった。

 その日も、クアリアより少し小さいくらいの町に到着した俺達は宿をとって部屋に集まっていた。 

 時刻は夜。夕食を済ませ、全員が一度外出した後である。


「夜分にすまない。手早く情報共有といこう。……リリアは平気か?」


「もちろん、今日も手加減していますから。今回の件が終わるまではご安心くださいっ」


 どんと、胸を叩いて自信たっぷりに答えるリリアからはわずかに酒の臭いがした。町に立ち寄るたび酒場で情報収集しているのだ。リリアは結構酒に強いし、本人の言葉通り飲み過ぎないようにしているようなので今のところ問題は起きていない。


「明日には発つからな。手短にいこう。では、このロウニィ地方の情勢についてだ。事前の情報通り、この辺りも治安に不安があるようだ。中心部であるレイネンストが近いんだがな」


 情報収集については、俺もそれなりにやっている。町につくたびに商売人や宿の者、酒場などでの聞き込みだ。

 そこで入ってくるのは治安と治世についての不安だ。まだ具体的に問題になっていないが、新しい領主というのが上手くやれていないのは間違いないらしい。


「領主さんの名前はサーフォというそうです。数年前の政変で単独でこちらに赴任。結構優秀みたいですよ。治安以外の不安はあんまりないそうです」


「残念ながら、私の知り合いではないんですよねぇ。色々聞いた見たんですが、知り合いの知り合いでもないですね」


「治安の問題は、領主が土地の重鎮と上手くやれていないことが原因らしいな。そもそも、大規模な配置換えで兵士が減っていることにも問題があるようだが」


 これまで集めた情報によると、サーフォという男はよくやっている。折り合いが悪いながらも地域の権力者とどうにかやり取りして、政治を回している。

 しかし、どうも領主が兵士を持っていないことが原因で、効率よく魔物討伐や情報収集ができていないようだ。


「兵士つきで赴任すれば、それはそれで軋轢が起きる。そう考えての判断かもしれないが、裏目にでているのかもしれないな」


「地域の偉い人達もそれぞれの領地があるから、そこからあんまり動きたくないみたいと聞きましたです。どうも、元々いたまとめ役の方がいなくなったからだということです」


 ドーレスから新情報だ。そのまとめ役とやらが、領主と上手くやり取りしていれば、もう少し治安維持が上手く回っただろう。


「まとめ役か……。その人物に対してなにかできるなら、案外突破口になるかもしれないな。リリア、なにかないか?」


「んーと、ちょっと考えたんですが、四十年くらい前にこちらの地域のちょっとした建築に関わったことがあるんですよ。温泉施設とかお店とか、一年ちょっとくらい時間があったんで、たまに来て仕事をしてました」


「おお、その時の縁が使えればとても良さそうです」


「仕事を終えてそれっきりだったので、今どこでどうなってるかもわからないのです。申し訳ない」


 ぺこりと頭を下げて謝るリリア。別に彼女は悪くない。何十年も前、しかもそれっきりの縁を利用できるとは俺もドーレスも考えていない。ただ、彼女がこの地域を訪れていたという事実は、先々なにかしら助けになるかもしれない。


「提案だが、少し速度を落とさないか? サンドラと連絡を取りたい」


 サーフォという領主と地域の重鎮達。いなくなったというまとめ役。更にリリアの過去の仕事。これらをサンドラに伝えれば、それなりの情報を集めてくれるだろう。あるいは、既に聖竜領で調べがついているかもしれない。


「依存はないです。個人的には楽しく商売できるのが嬉しいですので」


「私も構いませんよー。見慣れない地域の見慣れない建物を見るのは刺激になるのでー」


「連絡は聖竜様の力を借りて、手早く行うようにする。速さ優先だ」


「いいんですか? 聖竜様が連絡役になってるですよ?」


 たしかに聖竜様を使うようで気が乗らない。だが、これが最速の連絡法だ。聖竜様からアイノへ、アイノからサンドラへと話を伝えて貰おう。もちろん念のため、魔法具で手紙も飛ばしておく。


 情報の正確さと速さは生死をわけるくらい大切なもの。俺は昔からそう信じている。故に、今回もできるだけのことをするだけだ。


「帰りに石像に供えるお土産を沢山用意すれば大丈夫なはずだ。二人とも、協力して美味いものを見つけてくれ」


 ドーレスとリリアが任せてとばかりに笑顔で頷いた。

 それを見つつ、俺は早速、聖竜様への呼びかけを始めた。多少の申し訳なさを感じながら。


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