第239話「俺もその辺で情報を集めつつ向かうとしよう。」

 俺とリリアとドーレスの三人で、情報収集を兼ねてロウニィ地方のもっとも大きな町の領主に会う。サンドラのその計画を了承した俺は早速行動に移った。


 まず、大量の荷物を背負ったドーレスが合流。来ている服はいつもと同じだが、背負ったリュックが大きい。最初に会った時の旅商人としてのものよりも大きくなっている。なんでも今回のような事態に備えて、クアリアで特別に作っていた物らしい。


 今回は俺もちょっとした荷袋を背負うことにした。中身は食糧が少しと、眷属印を代表とした聖竜領の特産品だ。道中、換金するなり権力者に渡すなりで役立つはずだ。


 準備を整えた俺達はそのまま南部でリリアと合流。サンドラから話がちゃんと伝わっており、彼女もまた旅支度だった。南部をふらついているだけあって、背負ったリュックや寝袋が様になっていて頼もしい。


 打ち合わせから出発まで十日ほど、色々と整えた上での出発だ。俺も含めて旅慣れた三人。道は先日の行き来で少しは整っている。天気も晴れ渡り、春の気持ちよい空気の中、南部の山中を進む。


「なんだか意外です。アルマス様が妹さんと離れてこんなに行動するなんて」


「他の者にも言われたが、アイノはアイノで忙しいし、俺もそれなりに仕事はしなければいけないからな。別におかしなことではない」


「そう言いつつ、お金やら魔法具やら色々と置いて来たのを知ってるです」


「……安全のためだ。魔法陣や魔法具を見るのは勉強になるしな」


 ドーレスの言うとおり、出発前に俺は金銭やら魔法具やらをアイノに沢山渡しておいた。あって困るものじゃないし、上手く使えば自分や周りの力になる。本当は専用に連絡用の魔法具でも調達したかったんだが、それはさすがに間に合わなかった。


 アイノは相変わらず聖竜領で勉強と鍛錬の日々だ。たまにクアリアに行って息抜きをしたり、ロイ先生の仕事を手伝ったりもしている。今のところ、順調と言って良いだろう。


「土産が必要だな。それも気の利いたやつが。……ドーレス、頼むぞ」


「そこで自分で選ぼうとしない判断をする辺り、アルマス様らしいです」


「目利きの商人が一緒だからな。最大限頼らせて貰うよ。リリアにもな」


「期待されたところ申し訳ないんですが。私は実はこれから行く地域はあんまり知らないんですよねー。主に仕事してたのは帝国中南部の中心近くでしたので」


 そうだったのか。いや、それもそうだ。イグリア帝国は広い。何十年もそこらじゅうで全土を回っているといっても、全てを詳細に把握できるはずがない。


「でも全く知らないわけじゃないのでご安心を。上手くすれば知り合いの一人くらい会えるかも知れません。地域の事情も多少は心得てますしね」


「なんの準備もないより余程いいな。情報無しで知らない土地にいくことほど恐いものはない」


「その点で言うと、私の知ってることも古いですから、色々と調べながらの旅になりますねぇ。酒場楽しみです」


「久しぶりに行商できそうで楽しそうです。色々頑張らせて頂きますですよー」


 ドーレスは商売をしながら、リリアは酒場に顔を出しながらの旅か。俺もその辺で情報を集めつつ向かうとしよう。


「向かう先はロウニィ地方の中心地、レイネストの町。真っ直ぐ歩いて五日ほどか」


 念入りに確認していた地図に再度目を通す。クアリアから取り寄せた詳細なもので、ルゼが物凄い目で見ていた品物である。


「聖竜領の帰る頃には夏前ですねぇ」


「アルマス様、妹さんに会えなくて大丈夫です?」


「……俺らしい心配のされかただが、その点は大丈夫だ」


 そう答えつつ、俺は心の中で上司に呼びかけを始める。


『聖竜様。そんなわけでしばらく留守になりますんで、なにかあったら教えてください』


『うむ。ワシはお土産が欲しい。知っておるぞ、しっかり保管用の魔法をかけた箱を持っていったことを』


『お任せください。今回はドーレスに選りすぐってもらいますから』


『うむ。期待しておるのじゃ。それとアイノの方も心配無用じゃ。元気にしておるし、昨日など早速一人でクアリアに買い物に行っておった』


『なんですって、一人で……』


『慌てるでない。治安が良いし、屋敷のメイド達とすぐ合流したのじゃ。年頃の娘じゃし、色々と一人で買い物したい時もあるのじゃろう』


『そうですか。無事ならいいんです。なにかあったらすぐ向かいますから』


『なんかワシの想像を超えたことして戻って来そうでちょっと恐いのう。ともあれ、気になることがあったら教えてやるのじゃよ。アイノがクアリアに行くと良い店を見つけてお菓子とか買ってきてくれるので嬉しいのじゃ』


『俺は決まった店しか行きませんからね』


 町歩きとかそういう習性のない人間なので、聖竜様を喜ばせるような発見はアイノの方が得意かもしれない。


『今回の南部行きでは、なにか珍しいものを沢山持ち帰るようにしますよ』


『うむ。楽しみにしておるのじゃ。あと、道中の食べ物もな! こうなると聖竜領の石像経由でしか物が遅れないのが不便じゃのう』


 なんだか楽しそうな聖竜様の声を聞くと、いつも通りで安心するな。


「先ほどからアルマス様が静かですが、どうしたのでしょう?」


「あれは聖竜様と話して妹さんの状況確認をしてるです。そっとしておくですよ」


 同行者二名がこちらを優しい目をしたままこちらを見ているが、俺はそれを気にせずしばらく聖竜様と会話を続けた。 

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