第203話「空から見ると屋敷もまた、小さな建物の一つだ。」
ドワーフ王国は山をくりぬいて作られた国であり、広大である。当然、数々の施設を外部にも備えている。
俺達はそんな施設の一つ、山の上の平地を加工して作られた広場にやってきていた。
「さ、さすがに疲れたわ……」
「お嬢様が健康そうで何よりです」
「うむ。大分体力がついたようだな」
山の上なので、入り口の商店街から結構走った。それも上方向に登る感じで。俺とリーラはともかく、サンドラはとても頑張ったと言えるだろう。
「遅いぞ、其方ら。大騒ぎになってしまうところだ」
「失礼致しました。入り口辺りが思った以上に賑やかで」
「竜が飛来すると聞いて、地下深くから戻ってきた者もおりますからのう。それに便乗して商売しとるものもおるじゃろうし」
ディリンが楽しそうに言うと、ドワーフ王が納得したように頷いた。
「早くも経済に影響が出ているようで何よりだ。さあ、三人とも一緒に来てくれ。発着場にサンドラ殿とアルマス殿がいなければ困るだろう」
そう言って案内された先にあったのは、石造りの広大な広場だった。発着場としての印を示す者か、赤や黄色といった派手な色の端が何本も立っていた。
「お待ちしていましたよ! 皆さん!」
そしてその中央ではマイアが仁王立ちしていた。元気そうで何よりだ。
「すまないな。買い物に夢中になってしまった」
「ドワーフ王国は面白いものが沢山ありますからね! 私もお土産を色々買いました!」
マイアの横に巨大な袋が置かれていた。いつの間にそんなに買っていたんだ。
広場にはそれ以外に俺達の荷物とドワーフ王国から貰った土産の品もある。
ドワーフ王国への遠征、しっかりと仕事を果たしたと言えるだろう。
「それでアルマス殿、竜はもうすぐ来るのか?」
「そろそろのはずだが……」
ドワーフ王とそんな会話をしていているうちに、空の向こうに見慣れた影が見えてきた。
「あれだ。結構早いな、今は小さく見えるが、すぐに近づいてきて大きさがわかるぞ」
腹の下に巨大な箱を抱えた水色の竜が、空の上を雄大に進んでこちらにやって来る。
山の近くで風もあるはずだが、それを感じさせない堂々とした飛行だ。
速度が速いのは珍しい空を飛んで楽しいからかも知れないな。
「うお、おおお……。竜だ」
この反応はドワーフ王のものだが、周囲の重鎮や兵士達その他も同様の反応をしている。
「ひさしぶり アルマス様」
小さな家くらいの大きさはある竜は、俺達の上に到着するとゆっくり降下しながら声をかけて来た。
「ああ、久しぶり。わざわざすまないな、ハリア」
「めずらしい そら たのしい ここ おもしろいね」
動揺するドワーフ達をよそに、ハリアは優しく荷箱を地面に着陸させた。
「こ、こんなものが敵対して王国に飛んできたら大変なことになるな……」
「敵じゃなくて良かったですのう」
「ご心配なく。ハリアはとても穏やかで優しい竜ですから」
俺の方をちらりと見つつ、サンドラがそんなフォローを入れている。実際、ハリアより俺があっさり入ったことの方が問題だ。俺の特技は戦闘で、敵地に入っての破壊工作は得意技である。
「ハリア、こちらがドワーフ王ギオームだ。挨拶するといい」
「わかった」
答えるなり、ハリアは体を小さくして、いつも領内で見かける姿になった。
そのままふよふよ読んで、ドワーフ王の前に来てぴょこんと首を動かす。
「はじめまして 王さま ハリアだよ」
「はじめまして。お目にかかれて光栄だ。偉大なる水竜の眷属ハリア。ドワーフを代表して歓迎する」
「よろしく これから なんども来るとおもうよ」
「それは楽しみだ。好きなものを教えてくれ。用意させよう」
「わーい」
話をするよこで、ドワーフの重鎮達が何かこそこそと話をし始めた。「ぬいぐるみを作って商売を」「いや、他の小物もいけるはず」「聖竜領との契約を」……もう商売に結びつけている。逞しいことだ。
「さて、荷物を運び込むか。空からなら直線だ。半日もかからず聖竜領に着くだろう」
「じゃあ、夜は久しぶりに屋敷でトゥルーズの料理になるわね。アルマス、予定は空いているかしら?」
「勿論、喜んでお邪魔するよ」
そう答えつつ、俺は荷物の積み込みを手伝うべく、広場の一画に向かうのだった。
○○○
ドワーフ王国へ俺達を迎えるにあたって、ハリアの荷箱は改良されていた。
作りは頑丈に、椅子を備え付けられ、小さなガラスのはまった窓が各所に取付けられたのである。
おかげで景色は最高だ。
「おおお! これは凄いです! 鳥でしか見えない景色です! 前にクアリアに行った時とはひと味違った喜びですよ!」
「マイアを乗せるのは ちょっといやだったよ」
「その件に関しては本当に申し訳ありません」
どうやらハリアは前に勝手に乗り込まれたことをまだ怒っているようだった。まあ、危なかったからな、あれは。
「たしかに、この景色は素晴らしいわ」
「そうですね。お嬢様」
小さな窓から仲良く外を眺めながら、サンドラとリーラも気持ちとしてはマイアに同意していた。リーラが目にわかるくらい感動しているのは貴重な光景だ。
「思ったよりも早いな。これなら聖竜領まですぐだ」
「うん。はんにち くらいで おうふくできるよ」
それは凄い。歩いて五日の距離が空なら半日以下か。距離だけ見ればクアリアよりも近いということか。山というのは厄介だな。
「ルゼに見せたら喜ぶでしょう。地図作りが捗ります」
「たしかに、これなら地形などが一目瞭然だな」
「そうね。一度ルゼも乗せて飛んで貰って、この辺り一帯を見て貰うのは良いかもなの」
マイアの何気ない一言だったが、なかなか良い考えだ。空を使えるというのは思った以上に利点が多いのかもしれない。
「あ、あっち、見えてきたわ……」
サンドラが声をあげて、窓の外を指さす。皆がそれに合わせて、そちらの方向に視線を向けた。
氷結山脈の山が終わり、その向こうに広がるのは広い森だ。森から南にいくにつれ、草原になり、また向こうの山へ。
森に戻って東に目を向ければ、小さな建物の数々と農地が目に入った。
そして丘の上、見慣れた屋敷が目に入る。空から見ると屋敷もまた、小さな建物の一つだ。
「やっぱり、帰ってくると安心するわね」
「ああ、全くだ」
サンドラに同意しつつ、俺は森の中の集落を飽きることなく眺め続けていた。
住んでいる人々はそう多くない、小さな村。だが、今の俺にとっては大切な場所だ。
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