第46話「夕食後、そんな挨拶で笑いを誘って領地会議が始まった。」
「みんな、忙しい中集まってくれてありがとう。とはいえ半分以上、屋敷に住んでいるわけだけれど」
夕食後、そんな挨拶で笑いを誘って領地会議が始まった。
夏が終わりが近づいたある日。
サンドラからの連絡があり、夕食後に領地会議をすることになった。
今回の参加者は屋敷にいる全員とルゼ。商売に出たドーレスはまだ帰ってきていない。
「まずは、現状の確認ね。領内の道の整備はもうすぐ終わるみたいなの。宿屋の建築の方も順調、こちらは冬の間も工事をすれば春にはできるのね?」
その問いかけにスティーナが反応する。
「おう。クアリアから人も貸して貰ってるおかげで大分早いよ。雪が降る前に外側さえ作っちゃえば冬の間に引っ越して、春になった頃に営業開始もできるはずさ」
その内容に満足したらしく、サンドラは静かに頷く。
「理想的ね。でも、余裕を持って進めてちょうだい。それで、これからのことね。まずは、鶏を飼おうと思うのだけれど、屋敷の近くに小屋を作ってね。いいかしら?」
「いいですねー。御世話もできますし、お肉にもできますよー」
「アリアさん、鶏の処理できるんですか?」
ロイ先生の問いかけに、アリアが楽しそうに答える。
「庭師の修行の時に、色々教わってますからー。数が多くなければ屋敷の人達でなんとかなるかとー。そのうちアヒルとかも欲しいですねー」
その言葉に誰も異論はなかった。肉を確保する意味でも家畜はそのうち必要になる。その第一弾として鶏は無難だろう。
「では、これは採用でいいかしら?」
サンドラがスティーナの方を見ながら言うと、彼女は頷いた。
「鶏小屋くらいならサンドラ様に借りている二人で大丈夫だね。ちょうどいいからやってもらおう」
護衛の男二人が「よっしゃ、やるか!」とテンションをあげている。相変わらず元気なことだ。
「それとは別に、スティーナの工房を作ろうと思うのだけれど。これから建物を作ることが増えるだろうし、ちゃんと作業所を設けた方がいいと思うの。できれば自宅付きがいいのかしら?」
その言葉に、全員がしばし考え込んだ。
最初に反応したのは当事者であるスティーナだ。
「い、いいのかい? アタイじゃなくて、他に優先する人がいるんじゃないかい? ほら、ロイ先生とか、エルフの人達とか」
「僕は屋敷の中に工房がありますから特に。資料が欲しいけれど、すぐにどうこうできるものでもないですしねぇ」
「エルフの村は自力である程度どうにかできていますね。必要なものはその都度貰っていますし。あとは冬の備えくらいですから」
スティーナの発言に出てきた二人がそれぞれ答える。他の者も何も言わない。
「えっと、アタイの工房を作っていいなら嬉しいけれど。いいのかい? お金かかるよ?」
大工の工房となると大きな作業所が必要だ。宿屋ほどではないが大規模な工事になるだろう。 物怖じするスティーナに対して、サンドラはにこやかに答える。
「多分、平気よ。ウイルド領の賠償金とクアリアに出荷したものの売り上げが結構あるの。ダン夫妻の宿屋くらい立派なものを建てるとか言われたら無理だけれどね」
「流石にそんな要望はしないさ。・・・・・・ちょっとした家に、作業場なら・・・・・・いや、作業場はとにかく大きめがいいかな」
いけるらしいと思ったスティーナはその場でぶつぶつ考え事をし始めた。
自分の工房を持つというのは職人にとって夢だと聞いたことがある。実に楽しそうだ。
「反対意見はなさそうね。スティーナにはこれから先、住居や橋、水車小屋だとか、色々と作ってもらうことになるでしょう。聖竜領が順調にいけば、忙しい状態が続くと思うけれど」
「大丈夫さ! 頑張って働くよ! 預かった二人も大分使えるしね! あ、でも人はもっと欲しいかも」
最後の一言にサンドラが苦笑した。実際、人が増えるほどスティーナの仕事は増える。人材確保は急務だ。
「それは今後の課題ね。では、最後の議題。・・・・・・収穫祭をしましょう」
全員がざわついた。「おおっ」という感じだ。
「収穫祭か。そうか、秋だしな。祭りとは懐かしい言葉だ」
どれくらいぶりだろう。人間だったころも戦ってばかりだった。下手をすれば子供の頃以来か?
「秋は収穫が多いだけじゃなく、麦の植え付けもする大切な季節よ。それに、これまで娯楽らしいことがなかったことだし。……あまり気が回らない領主でごめんなさいね」
「お嬢様が気にすることではないですよ。それに、帝都にいては見れないものばかりで、振り返れば楽しかったかと」
代表するように言ったロイ先生に、他の皆が同意した。
「それなら良いのだけれど。ところで、この中で収穫祭の経験のある人はいるかしら?」
「・・・・・・・・・・・・」
手を挙げたのは、ルゼとアリアとマイアの三人だった。
「少ないな・・・・・・。そうか、殆どの人は帝都から来てるのか」
「実は私もウイルド領に行ってから初めて経験しました。その前は帝都に住んでいましたので」
そう言ったのはマイアだった。
思った以上に都会出身者が多い領地だったのだな。
「ルゼとアリアとマイアの三人には色々と教えて貰うことになると思う。それとアルマス、聖竜様へ感謝を捧げる石像とか祠を作ろうと思うのだけれど、どうかしら?」
いきなりの質問に俺は少し戸惑う。
「石像? 祠? なぜそんなことを?」
「わたし達がここで無事に生きているのも、品質の良い作物を食べられるのも聖竜様のおかげでしょう。感謝を捧げるのはおかしなことじゃないでしょ。アルマス、貴方もそうでしょ」
少し棘のあるいい方だ。いや、大分駄目な反応をしてしまったからな。なんか、他の面々も呆れ気味に俺を見てるし。
「たしかに、聖竜様に感謝を捧げるのは良いことだ。俺も妹を治してもらっているしな」
『そうじゃぞ。お主ももっとワシに感謝するが良い』
『いや、してますし、最大の敬意を持っています。もしかして、俺がもっと前に石像とか作るべきでしたか?』
『いや、お主にまともなものが作れるとは思えん。どうせならかっこいいのが良いのじゃ』
つまり、石像も祠も聖竜様的には大分嬉しいと言うことか。俺の製作技術についての批判は自覚しているところがあるので甘んじて受け入れるとしよう。
「うん、聖竜様は喜ぶと思うぞ。石像も、祠も」
その言葉に、サンドラは表情を明るくした。
「良かったわ。それでアルマス、聖竜様の外見はどんな感じなのかしら?」
やばい質問が来た。
「・・・・・・たしか・・・・・・銀色の・・・・・・大きな竜だ」
過去の記憶を掘り返し、俺はどうにかそれだけ答える。
「アルマス貴方、自分の主人の外見すら・・・・・・」
サンドラがどんよりとした目で俺を見つめていた。
「違う。俺は聖竜様を一度きりしか見たことないんだ。それも400年以上前に。眷属になってからは頭の中で話すだけでな・・・・・・・・・・・・なんか、ごめん」
「いえ、そういうことなら聞いたわたしが悪かったわ。困ったわね、どうしようかしら」
サンドラ、悩み始めた。ここまで俺の記憶が当てにならないのは想定外だったのかもしれない。
そこに本人から助け船が来た。
『なあ、ワシ、夢の中に出てもいいかのう』
『誰かの夢の中に姿を現すんですか? そんなこと、できたんです?』
『必要があればそれくらいはできるのじゃ。問題は、夢を見た当人がどのくらいしっかり覚えてくれるかじゃが』
『夢の中に聖竜様が出れば、大体は覚えているかと思いますが』
俺の目が金色になっていたのに気づいたらしく、いつの間にか全員が注目していた。
「聖竜様が、誰かの夢の中に現れてくれるそうだ」
全員が一斉にざわついた。
「流石は聖竜様ね。夢の中でお会いしたら感謝の気持ちを伝えないと」
「ところで、この中で一番絵の上手いものは誰だ? どうせならちゃんと外見を伝えられる人を選ぶべきだろう」
再び全員がざわついた。今度は牽制するような空気つきで。
「ロイ先生はどうでしょうー? ゴーレム造りで絵を描くのは慣れているのでは?」
「アリアさん、すいません・・・・・・僕は・・・・・・絵は・・・・・・」
「あらー」
ロイ先生が見たことがないくらい沈痛な表情になった。過去の何かを刺激してしまったらしい。
「わたしは風景画くらいなら描けるけれど上手くないし。リーラは?」
「申し訳ありません。流石に自信がありません。スティーナさんはどうでしょう?」
「アタイも図面ならいけるんだけどねぇ。エルフの人達に一人くらいいないのかい?」
「どうでしょう。後で聞いてみますが・・・・・・」
生き物を描く上に、今回は村の収穫祭でずっと使う石像になるおまけ付きだ。これは難しい。
そのまま、全員であーだこーだと結論のでない話し合いが続く。
「うむ。結論がでないな、これは」
「アルマス、なにか便利な魔法とか能力はないのかしら?」
「無いな。俺はできることと、できないことがはっきりしている男だ」
期待を込めたサンドラにそう返答したところ、あからさまに落胆された。仕方ないだろう、何かできればとっくに言ってる。何か・・・・・・。
いや、そうだ。別に一人じゃなくてもいいのか。
『聖竜様、領民全員の夢に出ることは可能ですか?』
『できるぞい。なんか良さそうじゃな、それ。ワシも夢の中で皆と話せるし』
『じゃあ、それでいきましょう』
『うむ。そうしておくれ。ただ、夢に出るのはあまり多用できん。ワシの存在が大きすぎて、回数を重ねると負担をかけるのでな』
『なるほど。そういう事情でしたか。では、伝えしょう』
『かっこいい奴を期待して居るぞい』
なんだかウキウキした聖竜様がそんなことを言ってきた。
「今、聖竜様に聞いたところ、全員の夢の中に現れるそうだ。滅多にできることではないらしいので、今回限りだろう」
「それは有り難いわね。お礼を言うこともできるし、皆で絵を描けば、かなり近いものになる」
示された解決策に、サンドラは飛びついてきてくれた。完璧ではないが、理想的な方法なはずだ。
「では、それでいこう。全員分の紙とペンを用意してくれ」
翌日、聖竜領全体を巻き込んだ、聖竜様スケッチ大会が開催された。
結果は、護衛の男とエルフの一人が、実に綺麗な聖竜様を描いてくれた。
ちなみに俺の描いた絵は酷いものだった。その場で聖竜様に叱られるくらいに。
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