第27話「戦争と同じだ。戦う前にどれだけ準備できてるかが勝敗を分ける」
「あの、なんか山とか消えてるんですけれど。何かしましたよね?」
「まあな。害はないから気にしないでくれ」
久しぶりに会ったスルホは俺の顔を見るなりちょっと怯えながらそんなことを聞いてきた。
スルホがわざわざ聖竜領に来てくれた。一度こちらの様子も見たかったそうだ。
目的は街道工事の打ち合わせである。
早速屋敷内に招き、サンドラとロイ先生を交えて、先日の話を伝える。
「良かったです。概ね予定通りでいくとして、こちらでも人員と資材の準備を始めています。魔法士や魔法陣用の資材は既にクアリアに集めていますが、どうしますか?」
「……僕が行って現地の職人さんも交えてゴーレムの造りを決めた方がいいですね。その間にできるだけ沢山の岩場を見つけて貰えると助かります」
「地形の方は俺も確認しておこう。ロイ先生は専門家とクアリアで準備を整えて貰う方が色々早そうだ」
「聖竜様のおかげでクアリアとの距離は徒歩で二日にまで縮まりました。予定より大分楽ができると思います」
短い会話で次々とやるべきことが決まっていく。なかなか良い打ち合わせだ。後に待っている作業が膨大そうなことを除けばだが。
「他に考えることはあるかしら。こっちにも職人さんなんかが寝泊まりする準備が必要よね」
「資材置き場の他に、ちょっとした寝泊まりする場所を途中に作るべきかもしれませんね。これは、作業の準備がどれだけ整っているかで速さが決まりそうです」
戦争と同じだ。戦う前にどれだけ準備できてるかが勝敗を分ける。いや、これは戦争じゃないんだが。
「せっかくだから早めに動くべきね。ロイ先生、予定はどうかしら? すぐにでもクアリアに向かえそう?」
「聖竜領内でゴーレムの役割は今はそれほどありませんから、大丈夫です。畑の世話をする人が減ってしまいますが」
「手伝いくらいならこちらから手配できます。農家なら沢山いますし」
クアリアは食糧生産が産業だからな。農家は多いだろう。頼りになるな。
「では、スルホさえ良ければ、一晩休んでロイ先生とクアリアに向かって貰いましょう。アルマスには悪いけど、周辺の視察をして欲しいのだけれど」
「任せろ。俺一人で動く方が早いだろう」
同行者がいない方が早く動ける。眷属としての身体能力を活用してみせよう。
「せっかくだからダン夫妻に作業員相手に何かやってもらおうかな……。うん、こっちも色々考えみる」
「こちらはそれで問題ないよ。サンドラ、立派に領主をやっているね。安心した」
「まだまだ、全然未熟だけれどね」
褒められ慣れていないのか、スルホの賞賛にサンドラは照れながらそう返した。
○○○
工事は、ロイ先生がクアリアに出張して、十四日後に開始した。
これは俺とサンドラの予想よりかなり早い。
その間に俺は各地の岩場を発見次第連絡するなど、かなり忙しく辺りを走り回った。
山を動かしたおかげでクアリアまでの道はなだらかになり、俺が全力で走れば半日もかからず街まで到着するようになっている。
おかげで滅茶苦茶働かされた。連絡役までさせられることになったからだ。
『……今回の件、あとで報酬を貰いたい』
『まあ、お主かなり頑張っておったからのう』
クアリアの街の外。東の外れ、聖竜領への道の入り口で工事を始める準備が整いつつある現場を見ながら、俺と聖竜様はそんな会話をしていた。
準備はだいたい整った。ロイ先生と魔法士達によって魔法陣の量産は完了。職人達との手順も確認済み。
そして、作業開始の準備として俺がロイ先生や魔法士達に魔力を供給してのゴーレム製造第一弾も完了した。
目の前には数十人の作業員と同数のストーンゴーレムが並んでいる。
今回のゴーレムは腕が大きく長く、土を掘り起こせるようになっている。
街道建設の手順はおおざっぱにいって以下の通りだ。
まず、街道になる部分を深く掘り下げる。
掘った箇所でゴーレムが次々と自壊して石材となる。
石材は大・中・小の大きさの順番で重ねていく。
最後に平たい敷石の形に自壊するように設定したゴーレムを次々と投入し、綺麗に並べる。
どけた土の処理や、細かい修正、仕上げなどは人間の職人が行うことになる。
重い石材運びが魔法によって自動になるのでかなり工期が短縮できるそうだ。
職人達もこの十四日で練習用ゴーレムを与えて扱いに慣れて貰っている。
恐らく、この地域にしか存在しないゴーレム土木部隊の初出撃だ。
ちなみに工事はクアリアの街からのスタートとなる。一応、この後に俺とロイ先生が聖竜領からもゴーレムを出すが、人手の多いクアリア発の方が工事の進みが早い。
「では、スルホ、お願い。お金の大半は貴方がだすのだから」
「本当にぼくでいいのかい? 聖竜領の貢献も凄いんだけどなぁ。いや、ここはこだわるところじゃないな」
サンドラに促され、スルホがこほんと咳払い咳払いした。
目の前には沢山の作業員とゴーレムが並んでいる。
「これから始まる工事は初めてのものだが、安全はできる限り配慮している。それでも、無理はしないで欲しい。皆なら、無事に聖竜領までの街道を建設しきると信じている」
スルホの言葉に作業員が静かに頷く。
「では、工事を始めてくれ」
その言葉と同時、職人達がゴーレムに近づき、次々と起動させた。
「ではロイ先生。俺達は石材に自壊するゴーレムの準備だな」
「はい。では、行って参ります、サンドラお嬢様」
俺はしばらくロイ先生にひたすら魔力を供給する係だ。クアリアの魔法士は街の工房で魔法陣をひたすら生産することになる。
「いってらっしゃい。二人とも、気を付けて。スルホ、ありがとう」
「礼をいうのはまだ早いよ。ぼくらも仕事が沢山ある」
一礼したサンドラに向かってクアリアの領主は静かに微笑んだ。
○○○
工事の方はそれから思ったよりも順調に進んだ。
勿論、それなりに想定外の事態はある。
宿営地の確保に手間取ったり、ゴーレムが上手く掘れない地形があって、そこを手作業したり。途中で川に橋をかけることになったり。
だが、概ね工事は順調に進んだ。天候が良かったのも幸いだったといえるだろう。
工事開始から、おおよそ三十日。
帝国の暦で一月が過ぎるころには、クアリアの街と聖竜領の間に、雑ながら石畳で出来た街道ができつつあった。
ここからは人間の手で石畳を綺麗に整理したり、最初に出た土砂を使って道の周りを整備すると行った地道な作業だ。
現場の人間がゴーレムをすっかり気に入ったらしく。ロイ先生に色々とアイデアを出して効率化を進めているらしい。
一月の間、聖竜領では大きなトラブルは発生しなかった。
元々人のいない場所だ、何も起きない時は淡々と毎日が過ぎていく。
街道工事が進んで職人が滞在するようになり、同時にクアリアから色んな食材もやってきたおかげで料理人のトゥルーズがとても喜んだのが印象的だった。勿論、料理が豪華になって俺も喜んだ。
土木作業の手伝いをしているうちに季節も移り変わる。
サンドラ達がやってきた春が終わり、夏が始まる。
人の行き来がしやすくなった頃、日差しの強い日に、聖竜領に新しい客人がやって来た。
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