第11話

痛み止め代わりの睡眠薬……というかアレは多分麻酔だろう。

注射されてすぐに意識を失い、気が付いたら朝だった。お陰で睡眠はとれたが……自分が楽したかっただけだな木下先生は。


薬でぼんやりした頭で周りを何となく眺めると、足元辺りに椅子を据えて座っている香織がいた。

いつもなら驚くシチュエーションだが、そこそこ強い薬だった様でまだ頭が回らない。


「……おはよう」

「……」


無言で俺を見つめる香織。


「どうした?ここにずっといたのか?」


香織がかすかに頷く。


「無理するなって俺が言うのも変だけど、お前が身体壊したら俺が悲しい」


まだ頭にモヤが掛かった感じで眠い。


「心配掛けてごめんな。でも必ず帰って来るから。その約束は守ってるだろ?」

「……うん」

「なら帰って休め。そばにいてくれてありがとう」

「!………うん」


ゴソゴソ帰り支度している様子の香織を見ることも無く再び眠りに落ちた……


次に目が覚めたのは昼過ぎだった。薬も完全に抜けた様で変な眠気も無い。


……が。


ハッキリしてきた頭に朝の俺の言動が思い浮かぶ。


……一体俺は何を言った?!


薬でボケていた筈なのに、自分の言った事を一字一句思い出す。


……何故俺は軽傷なんだ。


あばらの痛みと心の激痛にのたうっていると、


「こーらー。怪我人がなーに暴れてるのー?」


妙に間延びした喋り方の安川さんが入ってきた。


「……薬のせいなんだ……」

「あらー。なんかやらかしたっぽいねー。先生呼ぶ?」


なぜ止めをさそうとする。


「強い薬使うとー。意識はっきりしてない時にあることない事口走ったりするのよねー。だいたい本音話す事が多いけどー」


口調と裏腹にてきぱきとした動きで俺に注射する安川さん。


もう喋る気力も無く、死んだ鯖の様な目で安川さんを眺めている俺に、


「大丈夫?揉む?」

「揉まない」


胸を両手で持ち上げながら聞く安川さんに即答で断る俺。巨乳通り越して爆乳の破壊力はヤバいくらいだが、俺はそこまで巨乳派でも無いし。


……というか、俺の言葉を聞いてから安川さんの背後に現れた、笑顔なのに目が笑っていない香織が怖い。


「やーすーかーわーさーん」

「あらー。香織ちゃんいたのー?」

「いましたよー?揉む?って辺りから」

「断られちゃったのよー。とりあえず揉んどけばいいのにねー」


そう言い残して部屋を出て行く安川さん。

……逃げたな。


「……揉む?」

「揉まねーよ」

「なんか嬉しそうだったよね?」

「……それどころじゃない」


さっき注射してもらった痛み止めもまだ効かず、身じろぎするだけであばらの痛みが全身に響く。そんな事よりも精神的ダメージの方が酷い。


「まーいいわ。まだ痛むんでしょ?」

「あぁ……色々とな」

「無茶してきたんでしょ?今はゆっくり休みなさい……ね?」


香織が優しい。その原因に思い当たって胸が苦しい。思ってもいない事では無いだけに……余計キツい。


「……強い薬使うとあることない事口走るらしい」

「あらそう?」


ニコニコしながら持ってきたバッグの中身を引っ張り出し、着替えやら何やらを戸棚等に片付け始める。


「それだけかよ」

「んふふふふふ。ついにコウがデレたかと思うと笑いが止まらないわ」

「……だから薬のせいで」

「はいはい。そういう事にしといてあげるわよ」


人生の墓場へと続く十三階段を自ら一段登った感が。はぁ……


「一日様子見したが、特に問題無い。とっとと家に帰れ」


次の日の朝。

検診に来た木下先生が開口一番そう言う。

しかし言い方。


「あらーよかったわねー。香織ちゃんといちゃいちゃできるわよー?」


……安川さん。

それとそこの香織。によによするな。


とっとと荷物をまとめて(ほとんど昨日香織が持ってきた荷物)迎えに来てくれたおやっさんの車に乗り込む。


予想通り無言でおやっさんが向かったのは『出張所』だった。


「ちょっとお父さん!コウは退院したばっかりなのよ?!」

「いや。俺も所長に色々聞きたいし」

「もう!」


むくれた香織を車に残し、おやっさんと所長の元に。

今日の門番は宮田だ。空いたハッチから顔が見えた。宮田のタコが手を上げる。それに俺も手を上げ返し中に入る。


「お前は怪我しないと死ぬのか」

「怪我すると下手すりゃ死にますね」


軽い嫌味の応酬を挨拶代わりにしてソファにゆっくりと座る。


「必要な時に使えない奴だ」

「連中をあぶり出したという事で相殺しといて下さい。…で?」

「『虫』がまだ巣食っている様だ。この街にも『東』にも」

「……堀田さんの時は単なるラッキーと偶然ですよ」

「うむ。だがこの件に関してはそんな不確定要素頼りにする訳にはいかない」

「……何かあったのか?」


おやっさんの言葉に渋面を作る所長。


「表面上は何も。だがこのままでは詰む」

「確かに『虫』がまだいるわ『暴徒』のタコはうろついているわじゃあ……」

「どこか警備に大穴が空いているという訳でもない。では何故連中が動ける?」

「俺達の知らない抜け道があるという事か」


無言で頷く所長。


「コウ。早急に身体を治せ。この件はお前に専属で任せる」


は?


「ちょ、どういう事ですか?!」

「指揮官としての実力はあっても指揮を執らない。単独行動を好む。自業自得だ」


……マヂか。


━━━━━━━

ストック切れ+ちょっと忙しいので遅れそうです……

申し訳ないですorz

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

鉄錆と青空 コンロッド @conn-rod

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ