第10話

 香織をひきはがして貰い、病院へと移動。


「……この間退院したのにもう戻って来たのか。死んだ方が早いんじゃないのか?」


 面倒事は勘弁という顔で木下先生がそう吐き捨てる。


「タコ三機を生身で相手したんですよ……」

「そんな事を考える様な脳なんぞ不要だろう。いい機会だからいじってやる」


 この人本気でやりそうで怖い。


「まぁまだ使えるんだから治してやってくれ。もったいないからな」

「治す手間も考えろ。面倒ばかり持ち込んで来るなコイツは」


 ……言葉も無い。


 沢田さんと木下先生が色々話している間にも訓練生にどんどん運ばれて行く俺。


「ここに何回もお世話になりたくないよな」

「一回でも嫌だぞ」


 宮田。森。頼むからヤメレ。今から俺はお世話になるんだぞ。


「お前らまとめて面倒みてやろうか」


 先生の一言で皆黙る。

 ……ここは病院の筈なのだが。MADな雰囲気は出さないで欲しい。


 診察は今回意識のあった俺には地獄だったとだけ言っておく。


 脂汗にまみれて病室に入った俺を更なる試練が襲う。


「さーて。じっくりとお話しましょうねー」


 部屋の温度がマイナスになる様な香織の声。

 動かない足でどれだけ逃げられるかを考えていると、


「コイツが無茶する時はそれしか道が無い時だ」


 地獄の使者だと思っていたが……実は天使だったのかおやっさんは。


「黙ってて」

「……」


 役には立たなかった様子。


「まぁまぁ香織ちゃん。コイツは『俺達が』しっかり鍛え直すから」


 ……


 俺を更に地獄の下の階層に落とす気満々の沢田さん。


 一体俺が何をしたと言うのか。

 俺を苦しめる何かを呪っていた所に、


「お前にも詳細は話しておかないとな」


 ぼそりと沢田さん。


「詳細?」

「そうだ」


 折れたあばらが痛む為、電動ベッドの上半身部分を起こす。仰向けだと自重の掛かった折れた部分が酷く痛むので、身体を起こしておいた方が楽だ。ちなみに膝は石膏で固められている。


「残された装備なんかを調べたんだが……」

「やっぱり『暴徒』ですか」

「ああ。あの規模の連中がうろついていたとはな」


 俺達が訓練に出掛けた辺りは『街』と『東』の勢力圏だ。そこに連中が出入りしていたという事は……


「……穴があるか『虫』がまだいるか」

「……所長も頭痛いでしょうね」

「侵入路を探してる段階だ。この件は所長もかなり重視してるな。動揺してる所長なんて初めて見たぞ」


 それはそうだ。今回は連中も訓練生を侵入させていただけだが、その気になれば本格的に侵攻部隊を俺達に気付かれずに配置出来るという事だから。


「とりあえずお前ら全員合格って事にしてやる。……呑気に訓練している暇も無くなった様だしな」

「どうせ折を見て鍛えてやる!……でしょ?」

「当たり前だ」


 はぁ。


「特に今回タコまで持ち込まれた事が……な」


 真剣な面持ちでおやっさん。


 とにかくタコは目立つ。

 大きさにしろ音にしろ。そんなモノが街の近くをうろついているんだ。何処かに大穴が開いているか『虫』がまだいるのか……


 あるいはその両方か。


「今回の訓練はな。戦力の底上げが目標だったんだ……表向きは」

「んじゃ裏は?」

「お前だよコウ。お前が指揮をとれる様にする事がおやっさんと俺の目的だったんだよ」

「……」


 そういう意味では、期待してくれたおやっさんと沢田さんを裏切った事になる……か。


 目線を上げられずにぼんやりと拳を眺める俺に、


「気にするな。可能なら……という程度の事だったんだ」


 おやっさんがそう声を掛ける。


「しかし……」

「お前の事はわかってる。まだ時期早尚だったってだけだ。俺達も焦りすぎた。そうですよねおやっさん」

「ああ」


 俺を気遣ってくれる二人の言葉に更に内心凹んでいると、


「それで……だ」


 そう俺に声を掛ける沢田さん。


「お前は単独で偵察任務につける事になった。俺達と所長の意見が一致した結果だ」

「ちょっと沢田さん!コウにまだ無理させるの?!」

「香織」


 俺にはいつも通りのおやっさんの声。しかし何かが違ったのだろう。下を向き黙る香織。


「……ありがとうございます」

「これに関してはしょうがない。お前の都合もあるし俺達の都合もある」

「それをひっくるめて……ですよ」

「……可能な限りサポートはするが、無理は……しない訳が無いか」

「今更ですよ」


 苦笑いと共におやっさんの言葉にそう返す。


 バンッ!


 叩き付ける様に扉を閉めて香織が出て行った。

 おやっさんに口出しを止められて頭にきたらしい。


「あいつの事は俺に任せておけ」

「……相当怒ってる様だけど」

「……何とかする」


 何と言っていいか……


「申し訳無いです」

「反省しろよコウ。お前が出て行く度に怪我して帰って来るからこうなったんだからな!」

「したくてした怪我じゃ無いんですが」

「望んで怪我してたらただのドMだ」


 三人で笑う。怪我はしたものの、日常に帰ってきた実感がわいてきた。


「ほう。笑う元気がまだあったか」


 木下先生が注射器を手に入ってくる。


「……さておやっさん。ぼちぼち帰りましょうか。長居は怪我人にも悪いし」

「そうだな」

「ちょ」


 無言で俺の横に立つ木下先生と、そそくさと帰って行くおやっさん達。


 薄情者!


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ヤバいストックが(汗

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