第12話 ただいまとおかえり

「パパにこの話、する?」

 暗い玄関に座り込んだままのエリが聞く。やはり座ったままのマリが首をふる。

「だよね」

 ふたりは『街』の画をみつめた。画はふたりがためいきをつく前と同じだった。街に暮していたころの、父の画のまま。

 パチ、という音と共に灯りがつく。

「なにをしているのふたりとも。いつ帰ってきたの?」

 エプロンで手をふきながらやってきた母が首をかしげる。

「乙女も年を取ったわね」

 マリが意地悪く言ってみせるのを、エリが小突いた。

「またそういうことを言う」

 ふたりが笑っていると、音を立てて玄関の引き戸が開いた。

「やあ、なんだいみんな、こんなところで」

 帰ってきた父が、不思議そうに目をぱちくりさせる。

「「ただいま、パパ」」

 ふたりが言う。

「おかえりなさい。って、パパも『ただいま』なんだけどね?」

「そうね」

「そうかも」

 父と双子が微笑み合う。その様子を見ながら、幸せにみちた声で母が言う。

「みーんな、おかえりなさい」


 あの日から双子はそろって作品を作った。エリが画を描き、マリが詩を書いた作品を、ふたりは『あたらしい街』と名付けた。その画と詩は、他の誰の目にも触れることはなく、ふたりの部屋にそっと飾られている。


 『あたらしい街』


  こぼれる陽光

  さえずる小鳥たち

  水は豊かに流れ

  木々は天へと手を伸ばす

  あたらしい街

  きらめきの街


  たくましい新王は

  灰色の瞳で街を見つめ

  緑の絨毯の上では

  白い花が風にそよぐ

  空を舞うヒバリと共に

  人々は歌う

  あたらしい

  この街のうたを!


  きらめきの街

  川に抱かれ

  歩みを止めぬ人々の

  未来を共に生きる

  緑は燃え

  風が歌う

  きらめきの街

  はじまりの街

  明日を告げる

  たしかな希望


                                おわり

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ためいきの街 Saaara @Saaara

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