第4話 ゆりかごの守護天使 終段
その翌日のこと。何の事は無く目覚めたミカは、何処かのんびりとした足取りで朝の支度を行っていた。
最初に洗面所へと向かい、口を漱ぎ、顔を洗い、ついでに軽くスキンケアもしていく。
次に、彼女は台所へと向かって朝食の準備を始める。トーストを仕掛けて、棚からスープ用の器を取り出す。
そして、既に用意してあるポットのお湯でインスタントのスープを作り、ついでにコーヒーも淹れてカフェオレを作る。
「うん、こんなもんかな?」
朝食の準備が終わった後。焼き上がったトースト、スープ、カフェオレが並んだ盆を手に、寝室兼リビングへ。
「
『了解。ミカ・セラヴィー様』
朝食を、常用している机の上に置いたミカは、室内の電化製品を制御している人工知能である『
すると、彼女の言うとおりに、照明が朝の明るさを考慮した光量に調整され、窓ガラスは透明度が増し、まるでカーテンを開けた時のように外界の風景が見えるようになった。
自然の木々の代わりに立ち並ぶビルの数々。蜘蛛の巣のごとく街中に張り巡らされた、無数の高速道路。そのような人工物の森の向こう側から、真っ直ぐに差し込む朝陽が、ミカの横顔を優しく照らした。
「頂きます」
彼女は言葉を述べ、目の前のトーストへと手を伸ばす。齧ると、さっくりとした音が周囲へと広がった。
『“ゆりかご”の統制機関エデンから配信されている、今日のニュースを表示します。軍事関連ニュースが四件。一般的なニュースが三件。重要度、注目度の高い順に表示します』
そして、彼女がカフェオレを一口飲んだあたりで、人工知能によって纏められた、昨晩から今朝にかけてのニュースが、既に展開済みの仮想ディスプレイへと投影された。バナーの形で整理された情報の集積が、その視界に映る。
(特に大きな問題は無さそうかな?)
朝食を取りつつ、仮想ディスプレイにあるバナーを次々とタッチして内容を確認。
流れていく情報を目で追いつつ、気になったものだけをピックアップして、より詳細な情報を取得していく。
「緊急性の高いものは無し。重要なものは、まあ、今度の市長選くらいかな? あんまり興味ないけど」
全ての情報を確認したミカは、トーストの最後の一切れを口に放り込んだ。
「うん。御馳走様」
朝食を終えた彼女は、手早く食器を食洗器へと突っ込んで片付け、タイマーをセットしたうえで寝室兼リビングへと戻ってきた。
「EdWごめん。直ぐに着替えの用意をして。私は歯を磨きに行くからー」
『了解、準備します。出来次第、転送致します』
「お願いねー」
それだけを伝えると、ミカは洗面所へと向かった。
彼女が歯を磨き始めると、何かの計算式のような模様が、仮想現実の映像として彼女の周囲に展開された。
すると、それぞれの式から光の線が出現し、彼女の纏っている寝間着を光へと分解し始める。その代わりに、任務中の彼女が身に着けていた軍服を、補填するように纏わせていく。
彼女が歯磨きや簡単な身だしなみの整理を終わらせる頃には、寝間着は軍服へと完全に置き換わっていた。その胸には、『EDEN』と言うアルファベットに、盾を携えた天使をあしらった意匠を合わせたワッペンが付けられている。
「いつも思うけど、便利だよねぇ。この転送機能。ま、お陰でラク出来てるわけだけど」
全ての準備が整ったことを確認したミカは、玄関口に置かれているバッグを手に持ち、靴を履く。
「それじゃあ、私が出た後の戸締り、宜しくね。EdW」
『了解。行ってらっしゃいませ。ミカ・セラヴィー様。良い一日を』
そして、そのような『EdW』の声に見送られながら、ミカは仕事先へと向かうのだった。
天使の瞳は未来を見るか ラウンド @round889
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