第8話

 その日から二日間、士蔵と連絡が取れなくなった。


 三日目に我慢できなくなって正人を家に残して士蔵の家に行った。


 呼び鈴を何度押しても出てくる様子はない。


 部屋の中を覗いてみようと庭にまわると、その異様な光景に目を疑った。


 庭に面した家壁の大部分がえぐられたように崩れていて、まるでトラックに突っ込まれたような状況だ。慌てて中を覗き込んだ。


「士蔵!大丈夫か、士蔵!!」


 出来る限り大声を出したが、家の中は静まりかえっていた。


 ※ ※ ※


 事情聴衆を終えて警察署を出たのは夜九時を過ぎた頃だった。肩と腰がすっかり固まっている。


 あれからすぐに百十番をして交番勤務の警察に来てもらい、家中を確認したが士蔵はどこにもいなかった。


しかし居間の畳から多量の血痕が見つかり、すぐに警察本部が呼ばれた。


テレビで見るような黄色いテープが家の周りに貼られて、私はパトカーに乗せられて車内で質問責めにされた。


 最後に会ったのはいつか、今日は何しに来たのか、最近の士蔵の様子はどうだったか。そして昨夜、夜十一時から深夜二時までの間はどこにいたか、とも訊かれた。


そんなもん自宅で寝ているに決まっている。正直に全部話して、十時半頃に電話をしたことも伝えた。


 結局その後も警察署に連れて行かれて同じことを何度も訊かれた。ドラマや映画で見た通りだった。


 帰宅して、まず娘に電話を入れた。そうするように言われていたからだ。


「お父さん、大変だったね。大丈夫だった?」


「まだ気持ちの整理はついていないが、大丈夫だ・・・」


「そう。それでお父さん、もう正人の面倒は見なくていいから」


「どういうことだ?」


 先ほどのねぎらいの言葉から一転、娘の声は無機質なものになった。 


「お父さん、正人を事件のあった人のところに連れていってたらしいじゃないの。正人から聞いたわ」


 正人、喋らない約束だったのに・・・!


「ねえお父さん、これって一歩間違っていたら正人も事件に巻き込まれていたかもしれないってことだよね?そんな危ない人んちに連れていってたって、どういうことなの?」


「士蔵は、危ない奴なんかじゃ・・・」


「どう考えても危ないでしょ!さっきニュースでやってたけど、家の壁が壊されていて単独犯じゃできないって言ってたよ?それってヤクザとか危ない人達が関わってたてことだよね?」


 電話の向こうで娘が怒鳴り散らした。もはや発狂している。


「正人の学力が上がったのは士蔵が勉強を教えてくれたからだぞ!」


「そんなことを身の安全と比べないで!」


 娘は勢いそのまま電話を切った。私は友人を失い、孫との時間も断たれた。

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