第7話

 正人が母親に連れられて帰ったあとも、ずっと昼間の士蔵の話が頭から離れない。


 寝る前に、我慢出来なくなって士蔵に電話をかけた。コール音が響くだけで出る気配はない。


 心配のあまり、今から士蔵の家に行こうかと思った時、受話器から不機嫌そうな声が聞こえた。


『もしもし・・・』


「士蔵か?早く出ろよ!」


『善一か?お前、いま何時だと思ってるんだ!寝てるに決まってるだろ!』


「うるさい!お前が昼に変なことを言ってたから気になって眠れなかったんだ!」


 電話の向こうで士蔵が黙った。私も妙なことを口走ったと後から気づく。つい本音が出てしまった。普段なら憎まれ口の一つでも叩いてやるのに。


『・・・それは、悪かった』


 士蔵が素直に謝った。おかげでこちらも素直になれた。


「俺の方こそ、非常識な時間に電話をしてすまなかった」


 その後はお互いに少しだけ話して電話を切った。


 さて寝るかと布団に入ろうとした時、部屋の中が妙に明るいことに気づいた。


 正確にいうと窓の外が明るい。カーテンを開けると、大きな満月が光々と輝いていた。


 不意に、なぜか茶太のことを思い出した。太陽の光を浴びて金色に輝くあの猫は、月の光を浴びたらどのように輝くのか。


 想像したその姿は神々しく、この世の生き物ではないように思えた。

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