第5話

 正人と一緒に士蔵の家に行く日のこと、孫が改まった様子で私に声を掛けてきた。


「おじいちゃん、お話がありまして・・・」


「なんだ?」


「今日の宿題の算数で、どうしても分からないところがあるんだ。教えてほしいんだけど」


 そういえば士蔵の家に行くまでに宿題を終わらせる約束だったな。ちゃんと守っていたのか。


「おう、教えてやろう。どれどれ」


 ・・・まったく分からない。今の小学生はこんなに難しい問題を解いてるのか!?


「おじいちゃん、どうしたの?」


「すまない正人、今日は目の調子が悪くてこんな小さい字は読めん」


 目頭を押さえた。我ながらわざとらしい演技だが正人に疑う様子はない。


「え、そうなの?大丈夫?目痛いの?」


 本気で心配してくれる孫を見て心が痛んだ。


「そんな心配することじゃない。さぁ、士蔵んちに行く準備をしよう」


「宿題は終わらせなくていいの?夕方お母さんにチェックされるんだけど・・・」


 その時、頭の中にひらめきが走った。簡単な方法があったではないか。


「正人、分からないところは士蔵じじいに教えてもらいなさい。あいつはああ見えても大学の先生だったから」


「そうなの?すごい!」


 この日から正人は士蔵に勉強を教えてもらうようになった。正人が言うには士蔵の教えは上手らしく、宿題をするのが楽しくなっていったようだ。

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