第3話
そんなある日、士蔵が連絡なしでひょっこり遊びに来た。
「突然悪いな。近くを通ったんで寄ったんだ。忙しいなら帰るぞ」
居間には孫がいたがどうせ寝っ転がってゲームをしているだけだ。二階に行かせればいい。
「よく来たな。孫がいるが気にせず上がってくれ」
「孫?今日は学校は休みなのか?」
「まぁ、な」と曖昧に答えた。士蔵はプラスチック製の大きめの容器を持っていて、中から猫の声が聞こえた。
「その中、茶太が入ってるのか?」
「ああ、こいつの予防接種の帰りなんだ」
士蔵を居間に通すと、正人がそれに気づいて慌てて体を起こして正座をした。
「こんにちは」
士蔵に礼儀正しく挨拶をした。娘はこのへんの教育はしっかりしているようだ。
「はい、こんにちは。ちゃんと挨拶ができて偉いね」
士蔵がにっこりと笑って返した。すると、士蔵に合わせるようにゲージの中の茶太がニャオンと一鳴きした。その途端、正人の顔がパッと明るくなった。
「その中、猫がいるんですか?」
そう言いながら近づいてゲージ横にある空気を通す隙間から中を覗こうとした。
「なんだ、猫が好きなのか?」
士蔵の質問に正人はハイ!と元気に答えた。私にとっても初耳だ。こいつの母親は猫が大嫌いだったはずだが。
「それじゃ、ちょっと待ってな」
士蔵がケージを置いて上蓋を開けた。覗き込んだ正人が「ワア!」と声を上げた。
「すごく綺麗で可愛い!触ってもいいですか?」
「ああ、そいつは大人しいから大丈夫だ。尻尾は嫌がるから触らないようにな」
飼い猫を褒められてまんざらでもない様子の士蔵が、ケージの中に両手を入れて茶太を抱き上げた。茶太は大人しくされるがままになっている。正人が恐る恐る手を伸ばして肩口付近を撫でた。
「すごい、こんな毛並み見たことない・・・」
「こいつの毛はな、透明なんだ」
「透明!?これ白じゃないんですか?」
「ああ、シロクマなんかも白く見えるけど、あいつの毛も透明なんだ」
「そうなんですね!シロクマと同じなんてすごいなぁ。そもそもシロクマの毛が透明なことも知りませんでした」
私も知らなかった。おおかた動物病院の先生から聞いた話を使い回したのだろう。正人は士蔵から茶太を受け取って大事そうに抱いている。茶太も嫌がってはなさそうだ。
「君のおじいさんと一局打ちたいんだが、茶太の面倒を見てもらっててもいいかな?」
士蔵からの提案に正人の目がキラキラした。
「はい、喜んで!この子チャタていうんですね!おじいちゃん、なにかチャタの食べれそうなものない?」
「冷蔵庫に牛乳があるぞ」
「ダメだよ!猫によっては牛乳でお腹を壊しちゃうこともあるんだから!」
孫に怒られた。士蔵もニヤニヤしながら私を見ている。
「正人くん、茶太はしっかりご飯食べてきたから、大丈夫だよ」
正人はチャタを連れて二階にあがり、私たちは心置きなく民棋を打った。途中、ドタドタと慌てた様子で正人が降りてきたので何事かと思ったら
「チャタ、お日様の光を浴びたらキラキラしてる!すごいよ!」
興奮した様子で報告してきた。士蔵と茶太が来てくれたおかげで、今日は良い日になった。
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