第71話

 しかし、と顧問の小高が口を開く。


「あれには参ったぞ。才場さんが校内で顔を合わせる度に『あの件はどうなりましたか?』って訊いて来たからな」


「え? そうやったんですか? 小高先生スミマセン。才羽さんにあっさりと見破られてしもた時には俺もむっちゃ焦ったんですよ。『こんなに巻き込まれるまで放っておくはずがない』て言われた時はホンマに『どうしょー』って思て目が泳いでしまいましたもん。どないしたら誤魔化せるんか必死に考えとったら、才羽さんが取り敢えずはそれ以上言うてこんかったんでホッとしとったんですけど、先生には言うてたんですね。言うてもまぁ当然か。ホンマにすんませんでした」


「いいんだよ。二本松の計画に乗った時点でそもそも一蓮托生なのは分かり切ったことだったんだからな。俺がテキトーに答えといたから気にすんな」


「うわっ! ますます黒教師だな。顧問がこんな教師だったなんて知らなかったぜ」

「おお加農、何とでも言え! 写真部のために良かれと思ってこそだ。俺たち顧問が部のために出来ることってのは正直大してないんだよ。まして松雲写真部OBに対して言えることなんてのは皆無に等しいんでな。せめてこれぐらいでもやっとかないと一矢も報いることが出来んからな、少しは顧問らしいこともさせてくれ」


「へぇ、意外と小高先生って良い人だったんですね」

「なんだ高千穂、意外とってのは何だ? こんな根っからの善人に向かって失礼じゃないのか。しかも今頃気付くのも納得出来んなぁ。もっとコミュニケーションを取らんといかんなぁ。いかんいかん」



 あのう、と理々子が思いつめた様子で手を挙げる。


「写真部とデジカメ同好会は今後どうなってしまうのでしょうか。わたくしはどうすればよいのでしょうか」


 表情は暗く、今にも泣き出しそうにも見える。


「うん、そうやな。朝比奈さんと栗林さんにとったら、すごく大事なことやな。計画してるんは、今度の学園祭をエエ機会として合同で展示をして、そこで統合の発表をしよて思てるんや」

「え、合同でするんですか、学園祭を?」

 理々子が顎に手を当て考え込む。


「そうや、学園祭ちゅう文化部にとったら最大のイベントの準備を一緒にすることで写真部とデジカメ同好会を上手くまとめられるんやないかと思うんや」

「なるほどね。それはいいんじゃないかしらね。でも、名前は? 写真部のまま?」

「悩んだんやけどな、新生写真部ゆうのが分かりやすいように変えようと思てるんや、藤香」


「そうよね、その方が良いと思う。それで、主将は何か考えてるのがあるの?」


「ここにいる写真部のみんなと、明日デジカメ同好会にもおんなじことを伝えに行く予定なんやけど、そこでのみんなの意見も訊かな決められへんとは思うんやけどな」


「あーもう、じれったいわね。だから、主将は考えてるのがあるのかって訊いてるの!」


「あ、ああ」

「で、なに? どんな名前?」

「うん。『光画部』言うんはどうかな、て思てるんやけど、どうやろか」

「こうが部?」


「光の『え』や。『え』は絵画の『かい』やのうて『が』の方や」

「へー。うん、いいんじゃない。うん、いいと思う」


「どうや、樫雄」

「光画部っすか? いいっすね。カッコいいっすよ」


「どうやろか?」

 康岳が美乃里と麗佳と理々子の方に顔を向ける。

「光画部かぁ。へぇえ、面白い名前を思いついたんですね。いいと思います。耳で聞いただけだとピンと来ないかもしれないですけど、字面を見たら何やってるかも分かるし・・・・・・。うん、かっこいい。あたしは気に入りましたよ、主将」

「いいと思います。光の画ってすごくいいと思います。ね、理々子」

「あ、はい。わたくしも素敵だとは思うのですが」


「何? 理々子、光画部ってヤなの?」

「いえ、違うんです。名前は素敵だと思うんですけど、フイルムは? フイルムはもう出来ないのでしょうか」


「うん、そうやな。俺も言葉が足らんな、悪い、朝比奈さん。違うんや、止めにはせんつもりや。せやけどな、やっぱり校内で続けるんは難しいんや。今回のことで、臭いがネックになるんもはっきり分かったし、今後の設備の維持も難しいしな」


「はい、それは理解できます。では?」

「それこそ銀塩部門としてキミら二人に頑張ってもろて引き継いでもらいたいんや。今のデジカメ同好会の中でどれだけがフイルムに興味を持ってもらえるかが分からんけどな。さっきも言うたようにフイルムの火は消したないんや俺も。引き受けてもらえるやろか」


「それは光栄なことなんですけれども、具体的にはどのようなことをすればよろしいのでしょうか」

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