第66話
九月の第一金曜日、康岳からLINEが来た、しかも朝の七時に。
【写真部員は全員、放課後写真部室に集合のこと】
招集などなくても行こうと思っていたし学園祭のことも訊く必要があったので、美乃里にはこれがすごく奇妙なメッセージに思えた。
みんながみんな、同様なことを思っていたのか写真部のグループLINEではもちろん、個人同士のLINEでも話題にすることは微妙に憚られる雰囲気があり、なんとなく居心地の悪さを引きずりながら放課後を向かえる。
そんな腑に落ちない気持ちのまま美乃里が文化部の部室棟へ来てみると、すでに麗佳と理々子が来ていた。
「ちょっと何やってるの? なんで中に入らないの」
部室の前で中に入るでもなく何故か所在なさげに立っている二人の少し重めな雰囲気を察して美乃里は自然と小声になる。
「良かった美乃里さ~ん。入ろうと思ったんですけど扉の隙間からそぉっと覗いてみたら、知らない人がいっぱいいるんでビックリしちゃって、なんか入り難くって・・・・・・」
「え? 知らない人? いっぱい?」
「そーなんですよ。主将のメッセージもなんだか変だったじゃないですか? だから、なんだかはっきりどうって言えないんですけど、いつもと雰囲気が違っててどっか怖くて・・・・・・」
麗佳も美乃里と同じようなことを感じていたらしい。と言うことは多分、理々子もなのだろう。美乃里は少しだけ開いているという開き戸の隙間から中を窺ってみた。
「なぁんだ、顧問じゃん。あんたたちって小高先生と副顧問の北杜先生って会ったことんないんだっけ」
「ち、違いますってぇ。小高先生と北杜先生なら私にだって分かりますってば。他にもいるんですよ。それに今まで滅多に来なかった顧問と副顧問が揃ってるってことがすっごく変じゃないですか。理々子が言うんですよね『廃部されるんじゃないか』って。学園祭までに部員が増えなかったら廃部にしよう、ってどこか上の方では本当はもう決められてて、とうとうその時が来たんじゃないかって」
「え? 何それ。師匠はなんでそんなこと思うのよ」
「そ、それは、今までのことを考えるとそう思えてしまって・・・・・・」
理々子が俯きながら、小さく答える。
「おい、何やってんだよ? どうして中に入らねぇんだよ」
程なく後から来た樫雄からも声を掛けられる。
「え、なに? なんだ樫雄はとっくに来てるんだと思ってたよ。何してんの?」
思わず声が大きくなりそうなのを堪えて、美乃里は樫雄にも小声で訊ねた。
「え、いや。それは、まぁ、なんだな・・・・・・」
美乃里に突っ込まれた樫雄は頭を掻きながら語尾を濁した。
樫雄にもはっきり言えない嫌な予感があった。だから意味がないと分かっていながらも結論を先延ばししようと部室に来るのをワザとゆっくりしていたのだ。そんなわけでストレートな美乃里の質問にすぐには答えられずに口ごもったのだった。
「そんなことより、どうして中に入らねぇんだって訊いてんだよ」
樫雄は自分への問い掛けに質問で返して誤魔化そうとする。
「麗佳たちが知らない人がたくさんいるっていうからさ、扉の隙間から覗こうとしてたのよ」
「何? たくさん? 知らない人? 誰だよ」
樫雄も扉の隙間に顔を近づける。
「おい何だよ、顧問じゃねぇか」と顔を上げかけた樫雄が「ん?」と言って二度見する。
「お、おい。OB会長じゃねぇか。あとはぁ・・・・・・あ! あいつ!」
樫雄の声が思わず大きくなったところで内側から扉が開いた。
ガラガラっ!
「お前ら、さっきからそこで何やっとんねん! うだうしおらんで早よ入って来いや!」
美乃里は康岳が声を荒げるところを初めて目にした気がした。
「何しよんねんホンマに? 大事な話があるっちゅうてんのに」
全員が揃った前でも康岳がまた怒った口調を繰り返す。
「まぁええわ。今日のために来てもろた人もおるんやから、時間も無駄には出来んしな。さっそく本題に入るで。ええか」
美乃里、樫雄、麗佳と理々子の四人は揃って無言で頷く。今日は藤香は向こう側の人のようだ。なんとなく暗い顔で主将の側にいる。
息を呑み込んだ康岳が一拍してから口を開く。
「松雲学園高校写真部は今年の学園祭を最後に解散する」
「えぇっ! 学祭はどうするんですかぁ?」
真っ先に麗佳が素っ頓狂な声をあげる。
「せやから、学園祭を最後に、て言うたやろ、今」
「あ、そか・・・・・・えぇっ! じゃぁやっぱり廃部なんですかぁ?」
麗佳がみんなが一様に抱いていた不安な気持ちを声にした。
「デジカメ同好会と一緒になって新しい部を立ち上げることになる」
「ウソだろ? 主将」
樫雄の声には怒りと悔しさが入り混じっていた。
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