第65話
そういえば自分も実際の仕上がりを観ていなかったことに気付いて後輩二人と一緒にルーペでベタ焼きを観始める。
「それはそうとデジカメ同好会は写真甲子園で優勝したみたい」
「え! そうなの?!」
ひと月以上、写真部との係わりが薄かった美乃里には初耳だった。
「じゃあホントに新入部員の募集がキツイね。学祭まであと二週間だっけ? どんな展示にするかはもう決まってるのよね」
ベタ焼きから顔を上げ藤香に訊ねる。
「う~ん、それがね。主将が全部自分でやるからもう少し待ってろって言って抱え込んじゃってるから、まったく全然分からないのよ」
「え~! そうなの。どうすんの、大丈夫なの?」
「分かんない。主将のやってることだから、あんまり突っ込めないじゃない? だから、全然分からないのよ。ただね、一人当たりで一〇枚四ツ切のパネル張りを作品として用意するようには言われたから用意は始めてるんだけどね」
「それって、もちろんあたしもよね」
美乃里が自分を指差す。
「オフコース! 決まってるじゃない。あとは言われてるのが自分の作品群についてタイトルとそれに関してのコメントを一○○文字程度で用意するようにも言われてる」
「タイトル? それってどんなのでも良いの?」
「主将は良いって言ってる。直接作品に関することでもいいみたいだし、自分の写真に対しての姿勢とか気持ちとかでもいいんだって」
「写真に対する姿勢ねぇ・・・・・・。あんたたちは決まってるの?」
美乃里は貪るようにベタ焼きを観続ける麗佳と理々子に質問する。
「私は結構自信ありますよ。自分で言うのも変ですけど私らしくて良いと思ってます」
「おー、それは楽しみね。で、師匠は? 決まってるの」
「わたくしですか? わたくしは迷ってしまっていて、一つのことに絞り込めてはいないんです。期限が迫って来ているのでなおさらに焦ってしまって・・・・・・。実際に写真までプリントする時間を考慮すると、もうそんなに猶予もないのですが、まだ未定です」
「ってことは、あたしに残された時間も少ないってことじゃんか。それならそうと早く知らせてくれたらいいのに」
「美乃里なら大丈夫だって主将が言ってたよ」
「なんで? 主将はどうしてそんなこと言ったんだろう」
「すっごい自信ありげに言ってたから連絡取ったんだと思ってたよ。なんだ、全然そんなことないの」
「ないよ、ないない! 連絡取ったのも現像の日程のことを決めるのが初めて位だもん。えー、あたしはどうしよう」
「もしかすると、主将が言ってたのはこのことなのかなぁ。美乃里なら大丈夫だって。きっと美乃里の写真がこうなることが予測出来てたんじゃないのかな」
藤香は美乃里のベタ焼きを手に取る。
「それが本当なら、そりゃそれでうれしくも誇らしくもあるけど。でも結構切羽詰まってるじゃん。ここから一○コマ選ぶのか・・・・・・」
美乃里は腕を組んで机の上に並んでいるベタ焼きを眺める。
「ま、少し多めに選んで主将のアドバイス訊いてから決めても良いかな」
「うんそうね。一○本あるんだから、一本当たり一枚選んでも良いんじゃない? それこそ一本に数枚は光ってるコマがあるしね」
「え、そう? そりゃ自信持っちゃうなぁ」
「凄いですよ美乃里さん。けっこうどのコマもどのコマも素敵ですもん。これは逆に絞り込むの大変そう」
「わたくし、こんなに被写体となられてる方の表情が活き活きしている写真を見せていただいたことがないです。写真に写られている方の美乃里さんに対する信頼感を感じ取ることが出来ます」
「麗佳も師匠もありがとう。頑張って絞り込むよ」
「じゃあさ、スッゴク遅くなっちゃたけどランチにしない? 私がまたみんなの分もいろんなマフィンサンド作って来たから。食べよ」
「空き過ぎちゃって忘れてたけど、そーいえばお腹ペコペコだよぅ。
もう藤香、出し惜しみしてないで早く出しなさいよ」
「あ、私も高千穂先輩のマフィンサンド食べたかったんですよねぇ」
「たっくさん作って来たから好きなだけ食べていいからね。理々子の好きなコロッケ挟んだのもあるからね」
「え? わたくしコロッケが好きなどとは一度も申し上げたことはありませんが、なぜご存じなのでしょうか」
「あ、やっぱり好きなんだね、良かった。いや、知りはしないんだけどさ、なんとなく好きなんじゃないかな、と思ってね。良かった、コロッケマフィンも作ってきて」
「ありがとうございます。とてもうれしいです」
「どういたしまして。じゃお湯沸かそうかな。みんな紅茶でいい?」
「藤香の入れたミルクティーがいい。あれ、スッゴク美味しかったから。あれから母親に買ってきてもらって淹れてもらったんだけど、なんか違うんだよね」
「え、そうなの。そんなに特別な淹れ方してる訳じゃないのにね。でも、ありがとう。そんな風に言ってもらったらすごくうれしい」
「じゃあ紅茶はお湯が沸いてからでいいから、まずは食べない?」
「うん、そうしようか。じゃあ、召し上がれ」
「いっただきま~す」
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