第48話

「電話?」


「そうや。電話出たら、いきなり『おめでとうございます』てな」

「なにそれ? どういうこと」

「訳が分からんから『何がですか?』て訊き返したら写真甲子園の事務局からで『初戦審査会を通過しました』て言われてな」

「写真甲子園?」

 美乃里が初めて耳にする名称だった。


「でも写真甲子園の出場規定って、現在はデジタル限定ではなかったかと思うのですが」

 それが何かを理解している様子の理々子が疑問を投げかける。

「せやから確認したらデジカメ同好会がエントリーしとったみたいでな。先輩たちの話やとフイルムの時代はウチの写真部もほとんど写甲の常連校やったみたいやから『古豪の復活ですね』とか言われてな、ちょっとしらけた空気が流れたで」

 康岳は苦笑いをした。

「写甲?」

 美乃里の頭の上にまたもハテナが浮かぶ。


「写甲、すなわち写真甲子園は一九九四年から始められた高校生による対戦型の写真コンテスト大会で正式名称は全国高等学校写真選手権大会です。開始当初はフイルムカメラが審査対象だったのですが二〇〇五年の十二回大会からは本戦での使用機材がデジタル一眼レフカメラに変更されたことに伴って参加資格もデジタルカメラでの参加が基本となっています」

「へー、ありがとう、理々子。よく分かったわ」

「あ、いえ。とんでもないです。お役に立ててなによりです」 


「で、その初戦審査会っていうのは、何なんですか」

「初戦審査会は地区予選やな。初戦でブロックごとに八○校が選抜されて地区毎の公開審査会を通過すると、最終的には七月の下旬に北海道に行って四日間、合宿形式で本戦大会が行われるんや。当日出された課題に則った写真を撮って審査されて優勝校が決まんねん」

「え? でも、なんで北海道?」


「写真甲子園の主催者が大雪山系に跨る東川町、美瑛町、上富良野町と東神楽町、そして旭川市の一市四町だからです、美乃里さん。大会中の宿泊施設=選手村って呼ぶんですけど=も、東川町にあるキトウシ森林公園家族旅行村のキャビンなんですよ」

「えー! いいじゃんいいじゃん。なんで写真部はエントリーしなかったんですか、主将。そうしたらデジカメ同好会に出し抜かれることもなかったのにぃ。出場は無理だったとしても私も付き添いで美乃里さんと行きたかったなぁ、北海道~」


「なに言うてんねん。さっきの話、聞いてへんかったんかいな栗林」

「え? さっきの話って何です? 何話してましたっけ?」

「参加資格はデジタルカメラだって申し上げましたよ、麗佳さん」

「え~っ、そーなの? ずる~いそんなの。フイルムも認められるべきですよねぇ主将」

「撮影使用機材の提供企業との兼ね合いはもちろんあるのですが、やはり撮影から画像の紙出力までの工程の簡便さがやはり決め手になっていると思われます。ですからフイルムのカメラに今さら戻るということは不可能に近いです。第一、撮影機材を揃えること自体がもはや難しい状況ですし・・・・・・」

「そうか。私もフイルムカメラを自分で買おうと思ったら中古しかないって言われた。だからカメラマンさんに貸してもらったみたいなとこもあるしなぁ」

 そこまで言うと、麗佳は何かに気付いたようだった。


「え。っていうことは、まさかデジカメ同好会にそのことを知らせに行ったんですか、主将?」

「まさか、てどういうことやねんな、栗林。そら知らせるやろう、せっかく選ばれたんや。名誉なことやないか」

「だって、暗室の換気扇をワザと壊して部員募集の妨害工作したのってデジカメ同好会の仕業じゃないんですか」

「なんだ、それ? 誰がそんなこと言ってんだ、栗林!」

 思わず樫雄が声を荒げる。


「え、いや、その、誰っていうか、ええっと、えー誰、でしたっけ」

 つい口から出てしまった言葉を飲み込めず、麗佳は藤香と美乃里に助けを求めるように交互に顔を向ける。

 突然話を向けられた二人も確たる証拠がある訳ではないので眉を寄せて困ったような顔になったまま黙っている。

「なるほど! そうか、それなら辻褄が合うな。あり得るハナシっスね、主将。そうか、なんで気が付かなったんだろう。くっそう、ますます許せんなぁデジカメ同好会め」

 女子たちからの返答を待たずに樫雄は今更ながら得心が言ったという表情になってポンッと手を打った。


 康岳は、苦虫を噛み潰したような表情で言葉を発しないまま腕を組んだ。

「くっそー、こうなったら俺が人がバンバン集まるようなポスター作ってやるからな。学祭に向けてお前らはみんながアッと驚くような写真を撮るんだぞ! いいか?」

「そうね、どっちにせよデジカメ同好会がこれで一気に校内の注目を集めるようになったら、ますます写真部にとって逆風になるかもしれないんだから作品作りに本気にならなくちゃね。ね? みんなそうでしょ」

 美乃里が一人一人の顔を覗き込むようにしながら話しかける。


「というわけで主将。私たちも頑張りますから、写真部が存続するように頑張りましょ」

「あぁそうやな。特に新入部員の三人にとったら初めての作品発表の場でもある訳やから期待してるで。撮っとって分からへんことがあったら何でも訊くんやで。疑問や分からんことがあったら、そのままにしとかんとことが大切やな。藤香が訊きやすいとは思うけど、もちろん俺でも加農でも構へんからなるべくその日のうちに解決して次回にはそれを試してみることが上達の早道や。スポーツと同じ反復練習っちゅうこっちゃ。あ、そや小西さん。撮った写真あるんやろ、観せてもらえるかな」

「あ、はい。持ってきます」

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