第13話

「ねぇ。これってどうやって入れるの?」


「まず、紙箱開けて。で、そのプラスチックのパッケージ、私たちはプラ缶って呼んでるんだけど、そのプラ缶を開けるとフイルムが入ってるでしょ」

「うん、というかこれがフイルムなのね、初めて見た。なにこれ? 缶に入ってるみたい」

「フイルムそのものが巻いて入れられてる缶をパトローネって言うのよ。パトローネから出てるベロの部分を持つと入れやすいわよ。カメラの裏ブタは、本体の横にあるつまみを矢印の方向にずらすと開くからベロの部分をこう持って逆さまにして。下から出てる白い軸に合わせて嵌めてパトローネのお尻側をセットする、と」


「軸? あ、このカメラ側から出てるこれのことね。で、こう?」

「そー。そしたらフイルムを横にまっすぐ出るように引っ張り出して。ここのところはシャッター幕っていうカメラの心臓部分だから絶対に触らないようにしてね。そしたら右側にフイルムのイラストがオレンジ色で描いてあるでしょ」

「う、うん」

「そこの小さいローラーの下に入るようにフイルム先端を合わせて」

「うん」

「で、裏ブタ閉める、と」

 甲高い音でモーター音が唸る。


「あ、なに? 壊した?」

「ううん、大丈夫。フイルムが巻き上げられた音だから。カメラの上、右肩に小さい液晶があるでしょ」

「あ、ホントだ。1って出てるってことは?」

「ちゃんとフイルムが装填されたってこと。じゃあ、麗佳も理々子もいいかしら」


「あ、はい」

「大丈夫です」

 二人とも美乃里待ちだったようだ。


「じゃあ、行ってきて」

「え。行ってきてって?」

「うん、写真撮ってきて」

「もう、いいの」

「うん、いいわよ」

「何撮っても?」

「うん、いいわ」

「たとえば何を撮ったら」

「うん、だからなんでもエエて」

「はぁ」

「じゃあ、いってらっしゃい」

「え、主将や藤香、それとアイツは」

 と言って美乃里は樫雄を肩越しに親指で指した。


「うん、私たちは出掛けない。私たちはテーマが決まってたりするから出掛けたり出掛けなかったりなの」

「へぇえ、そうなんだ」

「今日は一応初日なんで帰って来てもらうけどな。来週からはもう好きにしたらエエわ。毎週金曜日は添削もあるんで顔出してくれ。もしどうしても都合が合わん時は無理せんでかめへん。それ以外の曜日は来ても来んでもええわ。部室は大概開いとるとは思う」


「さ、行った行ったぁ」

 藤香の勢いに押されて美乃里たち三人は部室を出されてしまった。

「六時には帰って来てね」

 背後から藤香の声が追い掛けてくる。


「さぁてと、どうしようかな」

 部室を出た途端、思わず声が出た。入部した以上は写真を楽しもう、と思ってやって来たものの予想外の展開で美乃里は途方に暮れてしまう。こうなると二人の後輩が頼みの綱だ。

「ねぇ。写真ってどうやって撮ったらいいの」

「え」

「と言われましても・・・・・・」

「じゃ、じゃあ、これはどう使ったらいいの。なんだか沢山の数字が書いてあるじゃない? これはどこに合わせておくのが正解なの。それでどう操作したらいいの」

美乃里は少し持て余し気味にカメラを目の前に挙げて見せた。


「ちょっとよろしいでしょうか」

 理々子が美乃里のカメラに手を伸ばす。

「うん、見てみて」

「あ、これはとりあえずこのままで大丈夫です」


 理々子は美乃里が手にしたカメラを見るなり言い切った。

「え、だって、この数字は何? それからこのプラスとかマイナスとかは」

「この上のダイヤルの数字はシャッター速度です。そしてレンズの根元に書いてあるのが絞り値です。これが今は両方ともAすなわちオートに合わせられているのでひとまず最初はこのままで撮影していただければよろしいかと思います」


「そ、そうなの?」

「このプラスとマイナスは露出と言いまして写真そのものの明るさを写真を撮る時点で変えられるということなのですが、モノクロのネガフイルムの場合は調整をすることはないです。ラチチュードという光の強弱を感じることが出来る領域がとても広いのがモノクロの特徴でもありますし、ネガの場合はプリントの時に調整することも容易ですので」

「モノクロは分かるけど、ネガって何?」

「失礼いたしました。フイルムには濃淡及び色彩が反転した状態で記録されるネガティブフイルムとそのままの状態で記録されるポジティブフイルムがあるのです」

「何かを訊くたびに未知の単語がどんどん出てきてしまって収拾がつかなくなってしまうわね。情けないとは思うけど、こんなことではダメなのでしょうね」

「申し訳ありません。以後気を付けます」

「ううん。こちらこそごめんなさい。決して理々子を責めてる訳ではないので気にしないでね。本来ならば、あたしが無知すぎるのを反省しなければならないのだから」

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