第14話
「美乃里さん、美乃里さん」
「ン、麗佳、何?」
「どーでもいいんですけど、理々子につられて美乃里さんの言葉もバカっ丁寧になっちゃってますけど」
「え、ヤダ」
「申し訳ありません」
「ううん、理々子が悪い訳じゃないって。こっちこそゴメンね」
そのやり取りを見て麗佳が声もなく笑う。
「ちょっとねえ、麗佳ったらひどいんじゃない。人が困ってるってのに」
「ゴメンあさせ。ちょっと、イエ少し可笑しかったものですから」
「そのうち見てなさい。麗佳なんか追い越してやるからね」
美乃里がおどける麗佳を叩くマネをする。
「ひええ~。こわ~い」
麗佳もまた両手で防ぐマネをした。
「ねぇ理々子、お願いがあるんだけど」
「え、わたくしにですか。何かわたくしで出来ることがありますでしょうか」
「今日だけでいいんだけど一緒についてってもいい?」
「わたくしでよろしいのでしょうか」
「そう、わたくしがいいの。ダメ?」
「いえ、麗佳さんを差し置いた形になってしまいますし。わたくしなんかでよろしいのかと思うのですが」
「いいのいいの。麗佳はあたしのこと小バカにしてるもん」
「あ、ひっどーい。そんなこと小指の先ほども思ってないのに」
麗佳が親指と小指の爪を合わせてパチンっとはじいて見せた。
「ホラ。こういう態度がもうバカにしてる」
「そんな、バカになんかしてませんって。一緒について来られたらめんど臭ぇなぁとは思いましたけど」
「あ! 麗佳はもう! ぜったい許せん!」
「あ、ウソウソ。美乃里パイセン大好きです。理々子じゃなくて私がみっちり教えてあげたいなぁ、って思ってますって」
「ウソくさ」
「チッ、バレたか」
「あんたって子は!」
美乃里が今度は半ば本気で殴り掛かる仕草をする。
「ギャー、パワハラじゃー」
麗佳は跳ね退いて逃げた。
「ね、だから理々子がいいの」
追いかける真似をやめて美乃里が理々子の両肩を掴む。
「分かりました。そういうことでしたらわたくしがお伴いたします」
「ありがとー恩に着るわ。それに引き換え麗佳、あんたはホントに覚えときなさいよ」
美乃里が眉間に皺を寄せて麗佳を睨んだ。
「こえーよー。おかあさーん」
「もういいから、そんなこと思ってもないでしょ」
「へへへ」
逃げ回っていた麗佳がペロッと舌を出して寄ってきた。
「じゃあ理々子、美乃里さんをよろしくね」
「はい! かしこまりました」
「でも正直、理々子の方がいいですって。私だって勉強中ですから美乃里さんに訊かれても答えられないことの方が多いですもん」
「うん、実はあたしもそう思った」
「ですよね、よかった。私のこと嫌わないでくださいね」
「ううん、麗佳なんて大っ嫌い」
「またまたぁ」
「ホントよ。理々子行きましょうか。じゃあ、麗佳。また六時にね」
「りょーかいです。行ってらっしゃい。愛してますよ美乃里さん」
「はぁ・・・・・・いいですね」
美乃里と二人で歩き始めて少し経った頃、理々子がうつむき加減で呟いた。
「いい? いいって何が」
「美乃里さんと麗佳さんです。今日が初対面だとは思えないぐらいに息が合ってらっしゃって。わたくしには望むべくもないことなのですがとても羨ましいです」
「息が合ってるっていうか単に麗佳が馴れ馴れしいだけじゃない?」
「そうでしょうか」
「そうよ。あたしが来る前に理々子もけっこう麗佳と話してたんでしょ。麗佳は誰とでもすぐに仲良くなれるいわゆる天賦の才を持ってるのよ。それは彼女の個性。あなたの説明はすごく丁寧で分かりやすかったから、それがあなたの個性だと思う。だから決して同じである必要はないし逆に違うからこそいいんじゃない。羨ましいって気持ちは分かるけどそんなに落ち込まないで」
「え、分かりやすかったですか」
「とっても。やっぱりおウチがご商売しているおかげなのかしらね」
「そうですか。ありがとうございます」
「で、何撮るの? さっき藤香がテーマって言ってたけど、理々子には写真を撮る上でのテーマなんてあるの」
「わたくしですか。テーマ? ですか」
理々子が顎に手を当て何かを考えている。
「そうですね。やはり、写真館の子どもとしてお客様をどうしたらきれいに撮れるかということに接して育ちましたので、ヒトの表情にこだわって写真を撮って行きたいと思っているのですが・・・・・・」
「ですが?」
「はい、わたくしはいつも何事に対しても苦手意識を持ってはいけないと考えておりますのとオールラウンダーでいたいという欲張りな考え方を持っておりますので、とりあえずは興味の湧いたものは手あたり次第何でも撮っていきたいなと思っております」
「理々子、そんなこと思ってるんだ」
「申し訳ありません。物言いが過ぎましたか」
「ううん、理々子ってすごくおとなしい感じがするから、そんなに積極的な考え方をしてるってことにちょっと驚いた」
「驚かれましたか。ダメ、でしょうか」
「違う。とってもいいと思う。あたしの勝手な思い込みに理々子をはめ込んじゃってたなぁって反省してる。謝んなきゃ」
「そ、んな。もったいないです」
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