本当にごめんね…。あたし…。今回だけ、嘘…ついていい? 下
「外にいる虎の子の母さんを犯して、殺したそうじゃないか……」
今度はアサトを見た視線に大きく息を吸ったアサト。
「おい…クソガキ…。お前の目の前にいる盾女が、マモノならともかく…、同じ人間族の者に犯され、殺されたら…お前は笑っていられるか?そうですか?なんて、いつものヘタレ用語でその場をまとめるか?」
アルベルトの言葉に、アリッサを見たアサトは考えた…。
目を見開いているアリッサが、謁見の間で、目の前にいたクレミアに犯かされ、殺ろされる風景…その風景を冷静に…。
「見られないだろう?怒りや憎しみで我を忘れてしまう…、しまいそうな感情の中で、お前は武器を手にする……」
アルベルトの言葉に、想像をして見た。
あのへらへらした表情が、アリッサを舐めまわし、イチモツを入れながら腰を振り、そして……、アリッサが手を差し伸べている。
たぶん…冷静ではいられない、殺してはいけない…だが……。
「えぇ~帰るの?なんでぇ~?」
「お父さんとお母さんだけじゃね…。心配するし…」
「えぇ~、もう少しいてよぉ~」
「ダメって言っているでしょジェンス!!」
バネッサが帰るようで、そのバネッサを止めていると思われるジェンスの声とサーシャの声が聞こえ、話は続く…。
「でもサーシャさんはいるんでしょ?なら…」
「バネッサさんは忙しいのよ。弟の事や家の事で…」
「お…弟?って…生まれたのか?」
「いえ…わかったの…」
「マジ、なんで弟だってわかったんだ?」
「え?…エイアイさんから訊いたの」
「なんだ、あのマスクメガネ。へんな機械を使ってか?なんだそれ……」
…外ではジェンスとバネッサ、サーシャらの声が聞こえ、たまにケイティやライザの声も聞こえてきている…。
その声を聞きながらアルベルトが話しを続ける…。
「俺たちは完璧じゃないんだ…。完璧でないから、さっき言った、法の執行機関を用意して、誰かに寛容と言う言葉を押し付けさせられるしかないんだ。でなきゃ…この世界は、人殺しで溢れてしまう…。お前が言う一線が、どんな線なのかはわからないが、それをお前が守っている以上…あいつらは…大丈夫だ……」
冷ややかな視線を見ながら考えた。
…一線、そうなんだ…あの時、彼らにマモノを見て…ブラントにも見たから、太刀を振った…。
結果が殺しである…いや、討伐だ。
僕が太刀を振らなきゃ、アリッサさんがとどめを刺したのかもしれない。だが、考えれば、一番最初に彼らを討伐すると言ったのは…。
「…そうですね…。法の執行機関と言うのが存在しない今は、僕が結論を下さなければなりませんね…。わかりました…。一度、ケイティと話してもいいですか?」
クラウトへと視線を向けて言葉にすると小さく頷いたクラウト。
「アサト…」
その傍にいたアリッサの言葉に小さな笑みを見せた。
「あの戦いは、僕の言葉が引き金になった…。エギアバル監獄で、王都へ行こうと言った時から、こういう事態になる事は考えられた…。リーダー失格ですね…。チームの仲間の感情も考えず…」
「違うぞクソガキ…」
アルベルトの言葉に視線を向ける。
「お前が、どう言う状況で王都へと行くと言ったかは、わからないが、その言葉は間違いではないと、俺は断言できる。」
「え?」
アルベルトの言葉に小さく驚くアサトの表情を見て、アルベルトは話を続ける。
「それは、お前の中にある一線を越えた言葉だ。その言葉について来るのが仲間だ。お前が中心でいる限り…おれは言った。大丈夫だと……」
アルベルトの言葉に考えた。
…僕の一線、そうだ、あの時、ベラトリウム氏の遺体と女王の涙を見て、その考えを聞きにいかなければならないと思った。
その先に……。
「分りました。すみません…。みなさん。それにアルさん…。そうですね。アルさんの言ったとおりです。僕が王都へ行こうと言ったのは、僕の中にある一線を越えた状況に、これから先、この国の事やセラやチャ子らが無事に生きて行ける国があるのかないのか…。その答え次第では…同じ種族の者を止めようと考えた。それはつまり…殺す…と言う事でした…」
「ッチ、ったく…。」
アルベルトの舌打ちに小さく笑みを見せたアサト。
「じゃ…ケイティの話しを聞いてから…でいいですか?僕の下した処分…。いや…僕が下しても……」
その言葉を言いながらセナスティ、クレア、アリッサにクラウトを見ると、小さく頷いており、その風景に、一度アルベルトが舌打ちをするとベッドを後にした。
ゆっくりと下へと行き、階段下ではサーシャがカルファが立っている。
「話は聞いた…玄関先までだぞ…」
カルファの言葉に小さく頷き、長い廊下を進んで診察室の前を通ると、リュッコが隣の受付で顔を上げて見ていた。
待合室にはアルベルトが長椅子に座り、両腕を背もたれに投げ出して、脚を組み、冷ややかな視線で診療所の入り口を見ている。
その傍を通ったアサトは、一度後ろを見てから小さく笑みを見せた……。
そう言えば…。
さっきバネッサがデルヘルムに帰る話をしていて、その見送りにセラとチャ子が向かい、レアとケイティ、ライザがキャラを頬張っていると話していた声が聞こえてきていたが……。
扉を開けると、診療所脇にある長いベンチに座る見覚えのある頭が3つ…、ケイティにライザ…そして、レアの頭が見え、扉が開いた事に振り返った3人…。
「外…気持ちいいね…」
「うん…、外に出てよくなったの?」
アサトの言葉に、再び背をむけたケイティが返して来た。
「まだなんだけどね…ちょっと寒いね」
「うん…冬だからね…」
「そっか……」
背中を見せているケイティの返しに答えたアサトは、小さく息を吸った。
心臓の高鳴りが聞こえてくる。
…なんて訊けばいいんだ…なんて、切り出せば…。
「バネッサ…帰った。ジェンスとセラにネコ娘が見送りに行った…。サーシャさんに居ろって……言われた……」
次第に力を失ったトーンと、下を見始めた様子を後ろ姿に感じたアサトは、小さく深呼吸をして、気持ちを落ち着かせて言葉にした。
「そっか…。あのさ…」
「ん?」
「ちょっと聞きたい事があって…」
「なに?」
「…クレミアさんとドミニクさんが殺された件…。もしかしてと思って…。なんか…こころ…」
いきなり振り返ったケイティは大きな笑みを見せた。
「ケイティ?」
ケイティは口からキャラを取りだしてから言葉にした。
「ごめんねアサト…」
「え?」
ケイティの言葉に心臓が高鳴り、何を言うのか想像が出来ない程に、大きな笑みを見せているケイティを驚いた表情で見たアサト。
「本当にごめんね…。あたし…。今回だけ、嘘…ついていい?」
「え?嘘?」
「うん…」
大きく頷いたケイティは、目元に涙を浮かべてアサトに向かい、大きな笑みを見せており、その表情を見たアサトは小さく微笑んだ…。
「うん…いいよ…」
するとケイティは、今まで浮べていた笑みを壊すような勢いで涙を流し、大きく、壊れた笑みを浮かべながら言葉にした……。
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